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さよなら栄光の賛歌  作者: 金椎響
第三章 悪には悪を《バッド・ペイ・バッド》
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星条旗《スターズ・アント・ストライプス》

 基地近くのバーに行けば、いくらでもこういう男達に会える。

 こういう男達とはすなわち、大抵真っ黒に日焼けして、二頭筋が波打ち、首が消火栓のように太く、馬鹿デカいカシオの腕時計をはめ、口には噛みタバコ。

 そして、職業を訊ねられると「軍の下請けのコンピュータ・プログラマだ」と答える人のことだ。

 仲間を綽名で呼び、敬礼その他の軍隊生活における伝統儀礼の一切を省略する。

 デルタの士官と下士官は、対等に付き合う。

 階級をひけらかすのは陸軍(アーミー)では当たり前だけど、それを蔑んでいるのがデルタの特徴だ。

 彼らは、単に階級を超越しているだけ。それだけのことだ。

 あのヒギンズがよりにもよって、命令違反だなんて。

 ボク達傭兵(マークス)とは違い、彼は星条旗スターズ・アント・ストライプスに忠誠を誓った、正真正銘の軍人だ。

 いくら、他の部隊よりも多くの自由度を享受している特殊部隊と言えど、命令違反なんてご法度だ。

 軍人としての未来だけじゃない。

 今まで歩んできた自分自身のキャリアすら否定することに繋がる。

 ボクは遠くの方へぼんやり目を向ける。

 己の至らなさの果てに、救えなかった命に対して。

 あるいは、今まで自分が『仕方がなかった』だとか『これが現実だ』という言葉で片付けていたものを、今になって再清算している。

 あの夜のヒギンズの言葉が、記憶という向こう側から飛来する。

 戦いという手段で、彼は再清算しようとしている。

 命令違反という過ちを、悔いているのだろうか。

 命令違反の末に、本来の目的は達成されなかった。ヒギンズは今、その償いの戦いをしているのだろうか。達成されなかった目的を、今全うしようとしているのだろうか。

 わからない。ボクには、わからないよ。

 いや、ジョシュアの情報が真実だという明確な証拠はない。ただ、軍内部や上層部、政府を又にかけた揉み消しだ。ヒギンズの命令違反を示す直接的な証拠の一切は、すでに抹消されているだろう。そんなものをアテにするのは間違いだ。

 ヒギンズが、噂のアメリカ人(ヤンキー)だったら?

 ボクは思わず空を見上げた。

 小さな星の数々。それが黒塗りの空一面に散らばっていて、小さくもはっきりとした光を地球に向けて放っている。それが揺らいで見えるのは、大気によるものなのか、それともボクの瞳が潤んでいるからなのか。

 ボクはゆっくりと目を瞑った。

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