星条旗《スターズ・アント・ストライプス》
基地近くのバーに行けば、いくらでもこういう男達に会える。
こういう男達とはすなわち、大抵真っ黒に日焼けして、二頭筋が波打ち、首が消火栓のように太く、馬鹿デカいカシオの腕時計をはめ、口には噛みタバコ。
そして、職業を訊ねられると「軍の下請けのコンピュータ・プログラマだ」と答える人のことだ。
仲間を綽名で呼び、敬礼その他の軍隊生活における伝統儀礼の一切を省略する。
デルタの士官と下士官は、対等に付き合う。
階級をひけらかすのは陸軍では当たり前だけど、それを蔑んでいるのがデルタの特徴だ。
彼らは、単に階級を超越しているだけ。それだけのことだ。
あのヒギンズがよりにもよって、命令違反だなんて。
ボク達傭兵とは違い、彼は星条旗に忠誠を誓った、正真正銘の軍人だ。
いくら、他の部隊よりも多くの自由度を享受している特殊部隊と言えど、命令違反なんてご法度だ。
軍人としての未来だけじゃない。
今まで歩んできた自分自身のキャリアすら否定することに繋がる。
ボクは遠くの方へぼんやり目を向ける。
己の至らなさの果てに、救えなかった命に対して。
あるいは、今まで自分が『仕方がなかった』だとか『これが現実だ』という言葉で片付けていたものを、今になって再清算している。
あの夜のヒギンズの言葉が、記憶という向こう側から飛来する。
戦いという手段で、彼は再清算しようとしている。
命令違反という過ちを、悔いているのだろうか。
命令違反の末に、本来の目的は達成されなかった。ヒギンズは今、その償いの戦いをしているのだろうか。達成されなかった目的を、今全うしようとしているのだろうか。
わからない。ボクには、わからないよ。
いや、ジョシュアの情報が真実だという明確な証拠はない。ただ、軍内部や上層部、政府を又にかけた揉み消しだ。ヒギンズの命令違反を示す直接的な証拠の一切は、すでに抹消されているだろう。そんなものをアテにするのは間違いだ。
ヒギンズが、噂のアメリカ人だったら?
ボクは思わず空を見上げた。
小さな星の数々。それが黒塗りの空一面に散らばっていて、小さくもはっきりとした光を地球に向けて放っている。それが揺らいで見えるのは、大気によるものなのか、それともボクの瞳が潤んでいるからなのか。
ボクはゆっくりと目を瞑った。




