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さよなら栄光の賛歌  作者: 金椎響
第三章 悪には悪を《バッド・ペイ・バッド》
30/49

先に見つけて、先に撃ち、先に殺す

 圧倒的な戦力差があってはじめて、相手を生け捕りにする、犠牲を最小限度に抑える、みたいな発想ができる。

 それはひとえに余裕というものだ。

 相手がご同業ならば、そんなゆとりやら余裕みたいな何かは存在しない。

 攻撃ヘリ(ガンシップ)地形追随飛行ナップ・オン・ジ・アース

 地表を執拗に舐め回す。ある種の神経質さすら感じさせる飛び方だ。

 その動きに反応して、キャロライナは音もなく唇を湿らせ、エリンは聞こえるか聞こえないかの小さく溜息をつく。相手の技術の高さ、練度の高さを匂わせる場面だ。


「慣れてるわね」

「諸君、くれぐれも抜かりなく(タクトフル)ね」

「……さあ、始めるぞウィ・ウィル・ゴー・アヘッド


 ◆


 どんなに体裁を整えたところで向かってくる連中も、そしてボク達だって所詮は傭兵(マークス)でしかない。

 金稼ぎ。至極シンプルでプリミティブな行動原理に則って戦場に赴いて命のやり取りを行う。

 W一九コムニオ。

 西側諸国が今でも使っているベストセラー。その特徴的な姿から、ついた愛称が「ホプリテス」だ。重装歩兵(ホプリテス)という訳だ。

 鉄を打ちつけた円形の盾(ホプロン)はさすがに装備していないけれど兜、胸当て、脛当てで身を固めた辺りはそんな感じがする。

 自身の全長よりも長い槍を手にした兵は、通常八列、多い時は二五列の密集方陣(ファランクス)を組んで戦う。

 戦いの歌(パイアン)を歌いながら、徐々に歩調を速め、最後の一〇〇メートルは槍を突き出して突撃する……。古き良き重装歩兵(ホプリテス)を連想せずにはいられない、そんな連中だった。


「知ってるか? 一思いに槍で一突きされる奴は、実は幸せなんだぜ。もしも、そこで死ねなかったら、奴らに踏みにじられて圧死することになる。時には味方の兵士だって踏み殺しちまうくらいだからな」


 キャロライナが言う。

 コムニオはもともと、ロシア製のヴォーリャに対抗するために開発されたFHだ。

 単純さがそのまま堅牢性に繋がった豪快な設計は、ヴォーリャの設計思想にも通ずるものがある。まだ各機関を軽量化し、最適化するノウハウの蓄積がなかったからだ。

 そして、PMSCsにとって、兵器の習熟も重要な「教科」だった。

 だから、PMSCsで軍事訓練を受けた連中は、こぞってコムニオを手に入れた。兵器の習熟の結果、アメリカ軍需産業への武器の注文も自ずと生じる。

 軍産複合体が民間委託を推し進める際に念頭に置いている関心事の一つが、まさにこれ。軍需産業がPMSCsを通じて、製品の販路拡大を図ることができるという点こそが、業務委託の最重要ポイントだと言って憚らない専門家も少なくない。

 そんなことをしていると、かつてPMSCsで教育を受けた連中が、今は反体制になってドンパチすることにも繋がる。

 以前にMPRI社の教育計画で訓練を受けたクロアティア軍の多くの将校が、後に辞職してコソヴォの反政府組織コソヴォ解放軍(KLA)に加わり、なかにはKLA総指揮官アギム・チェクー将軍まで含まれていた。

 という訳で、コムニオは味方どころか、敵味方を問わず長らく愛用されている。親米政権がせっせと買い揃えたものの、反体制派のクーデターによって倒されてしまう。ゲリラ連中にCIAがプレゼントする、などなど。

 そういった事情から、敵が西側の兵器であるコムニオを使っているケースは、別に珍しくもなんともない。

 その重装歩兵(ホプリテス)は今、屈強な男がチェーンソーを持ってうろついているように見える。ガトリング式キャノン砲を腰だめに保持してる姿は、まるでシュワルツェネッガーが演じたターミネーターだ。

『ターミネーター・ツー』で、警官隊のパトカーをミニガンでひたすら撃ち壊していくシュワルツェネッガー扮するターミネーター。そんな感じだ。ボクはため息をついた。


「かち当たると厄介ね」


 どんな武器を携えようとも、所詮(しょせん)は旧世代機コムニオ。最新型のグロリアに軍配が上がる……と自信満々で言いたいところだけれど、戦術さえ誤らなければ機体性能差を引っ繰り返してしまうかもしれない。

 こういったところで油断や余裕を見せたら足元をすくわれかねない。

 だから、ボク達の頭は常にフル回転だ。


「……先に見つけて、先に撃ち、先に殺す《ファーストルック・ファーストショット・ファーストキル》」


 エリンが言った。ボクも頷く。

 ここはひとつ、グロリアがコムニオよりも優れているところから、圧倒していくことにしよう。

 グロリアは電波の横漏れ(サイドロープ)が少なく、従来の機械走査式レーダーに比べて自己の位置を暴露しにくい。周波数拡散技術で特定周波数での出力が低く抑えられた低被探知(LPI)レーダーだと、なおさらだ。

 こっそり近づこう、ということだ。


「投影装甲で、驚かせてあげよう」

「どこまで有効かわからないけれど、やってみる価値はありそうね」


 コンピュータが周囲の色の傾向をパターンとして読み取り始めた。


「異論はねえけど、それまでの時間はどうする?」

「……ここはひとつ、神頼みだね」

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