神物語
大昔に書いた連続短編小説の第1章だったと思われる話。
整理したら出てきたので。
―――逢いたい・・・逢いたい・・・ どうしてここに私を独りだけ(・・・・)残して逝ってしまったの?
★★★
時が戻せるならば、昔のように一緒に遊んで、会話して・・・そんな楽しい日々に戻したい。
昔と同じは無理とわかっているけども・・・それでも僕は「あの人」と一緒にいたい。
でも、こんなにすぐ近くにいるのに「あの人」は気づかない。
必死に『僕がここにいるよ』と訴えても、叫んでも、心を閉ざしてしまった「あの人」は僕に気づかない。
昔は届いていた僕の『声』は今の「あの人」には伝わらない。
「あの人」は空っぽになってしまった。大切なモノを失ってしまったから。
じゃ、僕は?
僕は「あの人」の大切なモノの一つじゃないの?だから僕の『声』が届かなくなってしまったの?
僕はもう、いらないの?
月夜の中、気がついたら僕は走っていた。月の光に照らされ、僕の白い体は光っていた。
僕は走った。まるで逃げるように。
本当はわかっている。逃げちゃだめだって。でも、悲しいんだ。
だって、僕は「あの人」にとっていらないモノなんだから。
そう思うと悲しみが再びこみ上がってきた。
と同時にお腹が鳴る。そういえば「彼ら」がいなくなって、「あの人」からろくにご飯をもらっていないことを思い出す。
―――僕はこのままここで死ぬのかな・・・
それでもいいと思った。「あの人」に必要とされていないなら、僕は生きている意味がない。
『本当にそうかな?』
頭の上から知らない声が聞こえた。そして、僕の体は浮かび上がり誰かに優しく包まれる感触がする。
『思い出してごらん。彼らの最後を。』
言われて思い出す。
あの日、僕は「彼ら」と共に山へドライブに出かけていた。「あの人」は仕事とかいうもののため、一緒にはいなかった。
「彼ら」は僕に笑いかけながら「久しぶりのデート気分だ」とかなんとかいっていた。
帰り道、車は緩やかにカーブを曲がっていた。そのとき、突然一台の車が突っ込んで来たのだ。
一瞬だった。
「彼ら」は血みどろだった。そして、僕だけが無傷だった。それは「彼女」が僕を庇ってくれたからだ。
「彼ら」から死のにおいがした。もう、助からないのだと僕ですらわかった。
「彼」が最後の力を振り絞って僕の頭をなでながら言った。
「娘を頼むよ。」
そう言って笑っていた。
『ね。だから君は帰らなくてはいけない。』
瞼を閉じているわけでもないのに視界が真っ暗になる。誰かがいる気配はしないし、誰も見えない。でも確かに僕は誰かに抱かれていた。
『大丈夫。彼女は君を心配して待っている。彼女はこれで気づくだろう。君が彼女の最後の砦であることを・・・』
言っている意味が全然分からない。
『それでもいい。小さき光に生きしモノよ。君は眠らなくてはならない。光に生きるモノは闇の中では安らかに眠るのが自然の摂理。』
え???
『ここは闇。光の恩寵を受けしモノたちが眠る場所。さぁ、眠るがいい。次に目を覚ましたときは君は光に包まれるだろう。』
だんだん意識が遠のいていく。
あなたは一体誰?
『私は人ではない。固定の形もない。闇そのもの。古くからあの地に住まうモノ。そしてすべての世界に存在するモノ。』
よくわからない・・・・
『理解する必要はない。私は常に君たちのそばにいていないモノ。君たち(・・・)の声が聞こえたから扉が開き、私は君に、君は私に導かれた。光の恩寵に感謝するといい。君の体は光そのもの。私というモノを存在させてくれる。だから私は君を助ける。君は私を助けているのだから。』
意味が全然わからない・・・・だが、僕の意識はここで切れた。
『おやすみ。光の恩寵を受けしモノ。君は闇の恩寵を受けてはならない。君は光の中で生きているのだから・・・・』
◆◆◆
「・・・エ・・・・ル。・・・・・ダニ・・・・・・・・・・エル。ダニエ・・・・ル。ダニエル。」
誰かが僕の体を揺すっている。
久しぶりにこの声を聞く気がする。
ゆっくりと目を開けると、「あの人」が今にも泣きそうな顔で僕を見ている。
僕の意識が戻ったことに気がつくとあの人は喜びの顔で僕を抱きしめた。
「ごめんね。・・・ごめんね。ダニエル。ずっと・・・ずっとほったらかしにして・・・・・・」
そんなこと気にしなくてもいいよ。
言いながら僕は彼女の頬を舐める。彼女はうれしそうな顔で僕の頭を優しくなでる。
「お腹が減ったでしょ。いっぱいご飯を用意してあるから一緒に食べよう。」
その言葉に僕はうなずいて鳴く。「にゃぁー」と
ご飯を食べながら昨日の夜を思い出す。あれは夢だったんだろうか?
「後で体も洗おうね。」
その言葉に僕の真っ白な体が汚れていたことに気がついた。
ダニエル君が言っているように意味わかりませんね。
ちなみに、家族構成は父、母、娘、にゃんこです。