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最果ての城へ


独白形式、シリアス、脇役、ファンタジー


勇者一行の中に婚約者がいた少女の話。




魔王は斃され世界は平和になった。


勇者達は英雄として凱旋した。


幸せになったはずだった。





なのに何故、あの人は帰ってこないのだろう。








※※※



勇者と共に戻ってくるはずだった従兄弟。

彼は世界の崩壊を止めるための人柱になってくれたのだと、勇者に聞いた。

魔王の開けた異界の扉を塞ぐために、自ら身を投じたのだと。


そんな言葉、世界中の誰もが信じても私だけは信じない。

だって、私は知っているんだもの。

彼の形見だとして渡された指輪に触れたときに。


あなた達は、逃げたのでしょう?

彼にすべてを押し付けて。

魔王と戦う彼を見捨てて。

そして魔王を斃した瀕死の彼を、氷漬けになった彼を放置して魔城を閉ざしたのでしょう?

助けようとの努力もせずに。


指輪だって、旅の途中で盗んだ物であることを私が知っている。

勇者、あなたはこれを婚約の証だと思ったのよね。

だから私に渡した。

でも残念。これは魔法具なの。すべてを記録する道具。

確かに私が彼に渡した物だから勘違いするのも分かるけど、その行動があなたの首を絞めたわ。

私と彼の証は耳環。左右で意匠が違うのに気付かなかったのかしら。片方ずつ交換した耳飾りを、私もしているというのに。


だから、あなたの求婚は受け入れられないの。

婚約者を亡くしたばかりの人間に結婚を申し込む神経も分からないけれど。

王にまで勇者との結婚を仄めかされたけど、忘れてしまったのかしら。私が愛する人はただ一人だというのに。


王から呼び出された日、私は黒いドレスに身を包み、黒いレースで顔を覆って登城した。

訪れた平和に酔っている連中に教えてやろう。誰の犠牲の上にその平和が成り立っているのか。


王は私の姿を見て鼻白んだようだったが、気を取り直したように勇者と結婚するよう言い放った。勿論、返事は否だ。

夫となるはずだった人の喪に服すつもりだと答える。神殿には既に許可を貰い、弔いの旅に出るつもりである、と。

許されないはずがない。神殿はあらゆる権力にも屈せず、また国も介入してはならないとの暗黙の了解があるから。余程のことがない限り、神殿の決定を覆すことは出来ない。私の申し出が理に適ったものであるのだから、尚更。

婚約者を亡くした女が喪に服すのは当然で、ましてや相手は顔も知らないような人ではなく家族ぐるみで親しい付き合いをしている従兄弟なのだ。

彼の死を知らされて十日も経っていないのに他の人と結婚するだなんて、非常識でしかない。


王は忘れてしまったかのように振る舞っているけれど、帰ってこなかった彼の家族に声をかけることもしなかった。

華やかな祝典の裏で、一人の英雄が弔われたことを知っている者が何人いるだろう。

空っぽの棺桶の前で行われた葬式の空しさを知ることはないでしょう。

泣かないで…否、泣けないまま血が出るまで唇を噛み締めて墓石を見つめる彼の両親の姿を知ることはないでしょう。

王だけではなく、勇者達も彼の葬式に出ることはなかったのだから。

彼の死そのものを無かったことにしたのだから。





だから私は旅に出る。


目指すのは世界の最果て、彼のいる魔城だ。

勇者よ、あなたは間違いを犯した。氷漬けのままにしたのは失敗だったのだ。

彼を確実に殺したいのなら、首を落とすか燃やし尽くしてしまうべきだった。

勇者達は、彼を守る加護の魔法を甘く見ている。

この私がかけた術だ。それほど簡単に破れるはずがないし、万が一破れた場合にもすぐに分かる。

そして私は術の消滅を知覚していない。つまり、今の彼は仮死状態である可能性が高いということ。


なら、私が迎えに行かなきゃ。







大事で大切で大好きな私の騎士様。

私を置いて死ぬなんて許さない。


伯父様も伯母様も悲しんでいるのよ?

帰ってきたら怒られることを覚悟しなければね。





ねえ、待っていてね。必ず行くから。

そして、愚か者達に後悔させてあげましょう?




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