表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

怪我とカツアゲと勲章と



月曜の朝、明美と雪は驚いた。教室に入ってきた聡子の顔の大半が、白いガーゼで覆われていたのだから。



キーワード:

怪我、友人、高校生、強気、シリアス?、犯罪、カツアゲ、痛い話(物理)、後書き注意








週明けの月曜日。


「さ、さとっ!?」

「どうしたの、それっ!!」


坂田聡子が教室に入った瞬間、彼女の友人である奥野明美と原口雪が驚いたように大声を上げた。

他のクラスメート達も、ぎょっとした顔で聡子を見ている。


「あ、おはよ」


駆け寄ってきた友人達に、聡子は微笑みかけた。と、傷が痛んだのか顔をしかめる。


「のんきに挨拶してる場合じゃないでしょ!」

「何でそんなに傷だらけなのよっ」

「えー…」


普通に挨拶しただけなのに叱り飛ばされた聡子は少しむくれるが、そんな彼女に友人達は頓着しなかった。


「本当どうしたのよ、これぇ」

「あんた女の子なのに…」


彼女達が大騒ぎするのも無理はない。何故なら、聡子の顔はその大半が白いガーゼで覆われていたのだから。





「で?」

「説明してくれるんでしょうね?」


昼休みになると、二人は聡子を引っ張って人気のない空き教室に連れ込んだ。

朝はチャイムが鳴って担任が入ってきたために何も分からないまま席に着いたが、きっちり事情を聞いておかなければ気がすまなかったからである。


事情を知っているのか教師達は聡子の怪我について何も触れないし聡子も平然としているから、クラスメート達も彼女を気にしながらも大騒ぎすることはなかった。


しかし、なかったことにするにはあまりにも酷い状態だ。

ガーゼだらけの顔、腕や足には擦り傷や青痣が散らばり、片目が充血して赤くなっている。


友人二人に詰め寄られて、聡子は渋々口を開く。


「カツアゲに遭ったの」

「「カツアゲ!?」」

「そう」


二人の絶叫を聞きながら、彼女は不機嫌そうに眉を顰めた。




◇◇◇




事が起こったのは土曜日の午後。

聡子は課題のために借りていた本を返しに図書館に向かっていたそうだ。


人通りが多いわけでも無いわけでもない、普通の道。

近くにはスーパーやコンビニ、ファミレスなどもある。



そこで、柄の悪い連中に絡まれたのだという。


「いきなり話しかけてきてさー。何かと思ったら金出せって言われて」

「そ、そんなことが…」


ナンパじゃないところがもの悲しいという気がしないでもない。


「女連れでね、デート代ちょうだいって絡んできたの」

「うっわぁ」

「えー…」


明美も雪も、聡子と同じように顔を歪めた。

まず、恋人を連れたままカツアゲをするという神経がどうかしている。


「カツアゲした金でデートとか、私ならごめんだね。みっともないし、最低」


小さく毒づいた明美に、他の二人も頷く。

もっとも、人の金を奪って遊ぼうという奴らにそんな羞恥心などないのだろうが。


「それで、殴られた上にお金取られちゃったの?」


雪の疑問に、聡子は鼻で笑った。


「冗談。その日は定期と本を買うために一万も持ってたんだよ? 勿論、死守した」


高校生にとっての一万円は、結構大きい。

特に聡子達が通う高校は校則の厳しい進学校で、余程の理由がなければアルバイトも禁止されているのだ。


親から貰う小遣いで日々やりくりしている身としては、簡単に屈するわけにはいかない。


「死守…」

「そう、死守」


目を瞬かせる雪に、聡子がにんまりと笑う。


「見た目で判断するから悪いのよ」


ああ、と理解できた明美が頭を抱えた。


聡子は、見た目だけなら気弱そうな女の子だ。

眼鏡をかけて長い黒髪を耳下で二つに結んだ、ガリ勉で夜遊びすらしたことのない真面目な良い子ちゃん。少し脅せば怯えて何でも言うことを聞きそうだと思われるだろう。


だが実際の聡子は、はっきり言って気が強い。ついでに口も悪い。

舐めてかかると、痛い目を見るのは相手の方だ。


だが、しかし。

しかし、だ


それでも男に向かっていくというのは流石に無謀ではないか。


ふと聡子が思いついたように付け加える。


「あ、殴ってきたのは女の方ね。男は黙って見てた」


聡子の言動が気に入らなかったらしい女と、取っ組み合いになったのだという。

殴り合いの喧嘩などしたことのなかった聡子だが、相手もあまり喧嘩慣れしていなかったそうだ。


「そこそこ反撃もしたよ」


校則違反ぎりぎりに伸ばされた爪を見せて笑う。


「顔に引っ掻き傷。化粧しても隠れないぐらいにね」


ざまーみろ、と嗤う聡子の顔は悪役のそれだ。


その顔は腫れ、半ばガーゼで埋もれているけれど。


「…聡子」

「分かってる」


明美が眉をひそめて口を開こうとしたのを、聡子が遮る。


「分かってる。私、凄く危ないことした。心配かけてごめん」


聡子は明美と雪の手を握った。

勝ち誇ったような表情は崩れ、真剣な顔で二人と向き合う。


「素直にお金渡しとけば、こんなに怪我しないで済んだかもしれない」


それに、男に殴られていたらこの程度では終わらなかっただろう。怪我の治療費の方が高かった可能性もある。

親にも友人達にも心配をかけてしまった。


「でもさ、私はあんな奴らのためにお金を持っていたわけじゃないよ」


小遣いを貰うのだって、家の手伝いや何やらした対価なのだ。脅されたからといって簡単に手放したくない。


「負けたと思いたくなかったの。あんな、遊ぶために人のお金を()ることを平然と考えるような連中に負けたくなんてなかったの」



そうじゃないと、怪我をしなくても、多分ずっと後悔するから。



そう、聡子は静かに呟いた。


明美はその頭を優しく撫で、雪は傷に障らないようにそっと抱き付く。


「頑張ったね」

「お疲れ様」


「…うん。私、頑張った」


一瞬だけ、声が震えた。

だが、顔を上げた聡子の目に涙はない。


「だから、後悔はしない」


にっと笑う。


「この怪我は勲章だよ」





※生々しい話とか駄目で、血とか傷とかリアルに想像しちゃう人は読まない方が良い後書き











×××


ほぼ実話です。


友人の体験記。

実際は殴られて歯で口の中を派手に切ったけど、きっちりやり返して相手の鼻の骨を折ったらしいです。

口の中を五針くらい縫ったと、ぞっとするような報告をしてくれました。

傷口から雑菌が入って頬が倍以上に腫れてしまったり指の骨にひびが入っていたりで、全治一ヶ月程度。

治ったときは、本人より周りがほっとしました。

勿論、警察には被害届を出しまして、犯人達は友人の件以外にも色々と余罪ありで数ヶ月後に捕まったそうです。

その当時、実は土日を挟んだ期末試験期間中で、月曜からも三日間試験があったのですが、友人は痛い痛いとぼやきながら全部受けてました。


見た目は小柄な眼鏡っ子でしたが、色んな意味で強かったです。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ