6th contact
「――――い、彗!」
「あ……」
研究室の救護室の天井。いつの間に運ばれていたのか、意識が飛んでいたわけじゃないからそれだけ自分が呆然としていたんだろう。左手にちょっとだけ血のにじんだ包帯を顔の前に持ってくる。
「彗! ようやく正気に戻ったか」
「光居……なんでお前」
「それはこっちのセリフ。俺のバイト先のすぐそばでさ、すごい音と銃声がして来てみたらお前が倒れてたんだぞ?」
光居の工事用パワードスーツのメモリーが入ったトランクが壁に立てかけてある。そうか、そういえば解体工事のバイトがあるって大学の食堂で言っていたっけ。
「そうだ! ヤコは! アヤメさんは!」
「連絡が取れていない」
有栖が悔しそうに歯ぎしりをする。
「すまん、私が連れ出せと言ったせいで」
ちがう、有栖は悪くない。悪いのは僕だ。あの二人を守れなかったのは自分一人の責任だ。誰かの役に立たないと僕は生きていてはいけないのに、自分に課せられたこともこなせない。
ベッドから立ち上がる。
「彗」
光居が右肩を掴む。
「事情は大体飲み込んだ。だがな、どこかあてはあるのか?」
「なかったらじっとしていろって?」
無言の肯定が部屋を包む。冷静すぎる二人に腹が立つ。
「だったら何もしないで指をくわえていろっていうのかよっ! できるわけないっ!」
有栖は着信音のなった携帯のディスプレーを眺めている。なんでそんなに冷静に……
「彗……の携帯から着信?」
まさかヤコかアヤメさんじゃないかと思った瞬間に僕は有栖から携帯電話をひったくっていた。
「ヤコ? それともアヤメさん!?」
「申し訳ありません、どちらでもありません」
落ち着き払った冷静な、しかし若干幼い感じの男の声。露骨に肩を落としたのが伝わったのだろう。電話口からため息が聞こえる。
「どちらでもありませんが両者のいるであろう場所へは案内できます」
一瞬耳を疑った。
「……わかるのか?」
「そうでなければ言いません。サー、寝言は慎んでください」
二人が戸惑っている。それはそうだろう、僕もかなり混乱している。完全に知らない第三者がいきなり介入してきたのだから。
「指定の時間と場所に先ほどのパワードスーツ、あと十分な武器、武装、通信手段を用意してきてください」
あわててメモを取る。淡々と告げられる内容を流されるがまま白紙に記入していく。電話口の彼によるとどうも少数での侵入をしたいということと、仕返しをしたいから今回は協力をするということだった。
「あんたの名前って?」
「そうですねイツキ、とお呼びください サー・ケイ」
電話がそこで切れる。イツキ、聞き覚えのない名前だ。だけど今二人を助けるなら彼の情報を頼るしかない。
「有栖、武装用意できる?」
「その前に……そいつは信用できるのか? いや、それ以前に」
有栖は胸の前で腕を組む。
「アヤメを信用できているのか? うわ言で『アヤメさんが裏切るわけがないって』繰り返していたぞ」
正直自分は言葉に詰まった。確かに状況からしてアヤメが裏切ったとしか思えないそれは事実だ。そして突然現れた協力者どっちも信用に足るかは怪しい。
有栖の目が鋭く、僕を直視する。
「……さっきの電話は信用するしかない、現時点じゃ情報がないんだ」
無言のまま僕を見る有栖とベッドに腰掛けた光居。
「アヤメさんは……信用する、しないの問題じゃない」
有栖は口元を抑えて目線を下に落とす。
「どっちにしろ会う。ヤコの護衛を放棄したことについて文句言わなくちゃいけない」
沈黙した部屋に笑いを噛み殺した声と爆笑が響き渡る。あれ……? なんか変なこと言ったのかな?
「さすがわかっているっ」
全く同じタイミングでハイタッチをかわす有栖と光居。身長差があるから光居のほうは胸のあたりだけど。そもそも二人はこんなに仲が良かったかな?
「そうだな、その人のことを知らないが文句は言ってやるべきだ」
僕の頭を鷲掴みにして撫でた光居は「仕事に戻るぜー」とそのまんま救護室を出ていく。ぽかんとしている僕はニコニコしている有栖に向き直る。
「有栖はどうなの?」
「私は『信用できているのか』と聞いたんだ、彗は十分アヤメを信用している」
有栖はしたり顔で「私は疑ってもいないぞ」と一指し指を僕の鼻先に突きつける。そういうと僕の手から携帯電話を摘み取り、湯布院さんに連絡を取り始めた。おそらく武装関連の手配だろう。研究所の資材の交換手続きということで偽装するとか言っている。一応違法行為だからとはいえ、手際が良すぎて笑えない。
今は人を理解するどころか状況をよく理解できない、何なのさ?
それはともかくこの第三者の出現に妙な胸騒ぎがするのも事実。唐突過ぎる協力者、あの場にいたということなんだろう。事情を知りつつそれでいてなお協力するということはあの赤髪と敵対する立場にあるんだろう、それだけは間違いない。
さっきも言った通り今現在は情報が少なすぎるから頼らざるを得ない。
「おい! 今から碧の研究所に移動するぞ、武装のリクエストはあるか?」
思い浮かんだのはテストで使用した三つのうち「rebellion」ぐらいだ。EMLは使用間隔が長すぎるわりに効力も薄い。「Lancer lot」は論外。敵陣のど真ん中でパワードスーツの機能停止とかしたらマジで笑えない。
「しいて言うなら「rebellion」とあと近接系の武器と何らかの工作機械が欲しい」
よくよく考えたら射撃武器はあてられる気がしない。まともな訓練を積んでいないのだから当然と言えばそれまで。ならば今現在もっとも信頼できる武器はもう喧嘩に使うような物ばかりだ。それならスピードに任せれば技量なんて踏みにじれる。……当たれば。
「了解だ「rebellion」はすでに改良型が準備できているらしい。ほかに工作機械は間に合わせになるが、近接系はいくつか完成品があるらしいぞ」
ありがたい、ピーキーな武器でないことだけを祈ろう。
「着替えていくか?」
「このまんまで良いや、別に洋服自体は汚れていないし」
それに少しでも武器のテストをしなくてはいけない。技量を踏みにじれるとは言っても使い方ぐらいは知っておかないとダメだ。
「わたしが運転する、彗は時間まで体力温存だな」
僕は有栖がパワードスーツのメモリーが入ったトランクを引きずろうとするのを見かねてトランクを奪う。これを持つのぐらいは言わずとも僕の役目だ。
僕の持ったトランク以外に特にもつものも持たずに移動する。有栖が言うには通信機器も武装も湯布院さんの研究所が貸し出してくれるらしい。
「そうだ、耐障害物用溶解物質の射出履歴があったどうだった?」
まて、それはどういうことなのでしょう。つまるところ私の決死の突進は鉄板がいらなかったってこと?
「一定速度以上で発動するようにしていたが……もう少し射出タイミングを早くして、ボディ以外にもセンサーを取り付けようか? それなら彗への負担が軽く……って痛い痛いよ!」
軽く拳骨。壁面を簡単にぶち抜いた理由がはっきりと分かった、衝撃云々じゃなかったということか。なんて危険なものをつけてんだろう、この女は。まだ衝撃吸収用にゲル剤を散布するならわかるけどね。自動発動の障害物排除なんて人を殺しかねないだろう。
「ぶっちゃけた話、それ「rebellion」があればいらないよな」
きょとんとした後「ああ」と納得したように自分の左手に拳を乗せる有栖を見てると、なんか「本当に天才なのか?」と疑ってしまう。
しかし今思えば「rebellion」は『PW-YT=ss Mark2』と非常に相性がいい。高速機動しながら細かい障害物を『任意』で排除できるからだ。それもその「rebellion」自体が効力発揮後、一瞬で消滅するのだから。テスト時の失敗は相手に発動してから接近をしたということ、それに尽きる。攻撃に使うなら読まれる前に、読む余裕すら与えず発動させなくちゃいけない。
そもそも防御に使おうと考えないほうが良い時点で、防壁と呼べるのかどうか怪しいけども。
有栖の小さく丸っこい車の後部座席にトランクを入れ、助手席に乗り込む。林檎のように真っ赤な車の内装は外見からするとシンプル極まりない。そもそもほとんど研究所にこもっているような生活だし、車にそんな意識がいかないんだろう。
車で三十分ほどの距離。その間正直に会話をする気にもならず、窓の外を見ていた。日は落ち、雲も出てきている。
雨が降る前兆か湿度が高いのか、それとも雰囲気の所為なのか、空気が重い。
なんだかんだ言って有栖も空気を読んでいるのか、それとも彼女自身緊張しているのだろうか。それだけはわからない。三度目の信号が赤になり停車する。
「彗」
無言のまま有栖に顔を向ける。
「私は、本当なら二人を助けに行くのは止めたい」
「えっ?」
予想外だった。てっきり「何が何でも助けてこい」と言ってくると思ったからだ。
有栖の顔は暗い車内のなかではうかがい知れない。
「でも彗は行くんだろ? ならどんな状況でも絶対に、生きて帰ってきてくれ」
僕は返事をしない。だって確約はできない、それに二人さえ助けられれば別に自分なんてどうでもいいから。
「彗は独りの怖さを知っているだろう?」
ああ、知っている。誰も味方がいない中で攻撃され、誰も手を取ってくれないあの時は本当にひどかった。でも、いつも周りに人がいる有栖からそんな言葉が飛び出すとは思わなかった。
「誰かのために生きるのは否定しない、けど……命は絶対に捨てないでくれ」
有栖の顔を正面の左折してきた車のヘッドライトが照らす。
「彗……いつも本当の意味でそばにいてくれるのは彗だけなんだ」
言葉の意味を測りかねる。その表情を見る前に車が発進し、また無言になる。
街の街灯が流れていく、ゆっくりと糸を引きながら。
警備員に挨拶とIDを見せ入所する。重く開く門は急かす僕の心を反映しているのか、見ていて嫌になった。
「待ってたわよぉ」
そしてゆるーい出迎えの湯布院さんにちょっとキレそうになる。
「武器の使用方法とテストを」
「つれないのねぇ……」
今にも飛びつきそうな姿勢のまま器用に立ち止まる湯布院さん。流石に空気は読めたようだ。
「「rebellion」は多重展開できるように新調してあるわよぉ……あとはレーザーブレードを一丁、用意してあるわぁ」
「試作品の、が抜けてるんじゃないですか?」
「お願いだから敬語はやめてぇ……」
相当堪えているらしい。うなだれ始めた湯布院さんを見て有栖が笑いを噛みころす。
「そこいら変にしておけ、彗。「Lancer lot」の件では私からしばいておいた」
胸を張って誇らしそうにする有栖は、今がどういう状況かわかっているんだろうか。自分たちに危機が迫っていないとはいえ緊急事態、それも人命がかかるかもしれないというの
に。
いら立ちを抱えた僕の目は、横殴りの矢のように降り始めた雨に叩かれている廊下の窓を睨む。雲の中で明滅を繰り返す青い光に不思議と嫌悪以外のなにも覚えない。子供のころは純粋にこんな天気の時は雷を見て楽しんでいた。それもできなくなっていたのは……
いや、やめておこう、今は備えるべきだ。目前に迫った争いを前に雑念は邪魔でしかない。自分はただの道具で一つのネジにすぎないということを忘れてはいけない。そう自分は『人間であること』を捨てなくてはいけない。
湯布院さんからじかに武器のレクチャーを受ける。レーザーブレードは予想した物とは違い飛行機の翼の前方がコの字型に欠けていた。そのコの字型の部分のみにレーザーが流れるようになっている。レーザーを両極のお盆のような形状の反射板により循環・収束させることで切る。だからどちらかというと熱で溶断する、回転鋸やチェーンソウの近代版と言うべきか。
起動してレーザーを循環させ続けることで一瞬の切断力が上がるのは構造から生まれた偶然の産物というけど……本当は狙ったんじゃないのか? そして先端を開くことでレーザー溶断機としても使用可能にしてある。
「工作機械としても使えるように大急ぎで改修したのぉ」
「ありがとうございます」
あとはテイザーガン。簡単な説明を受けると遠くの相手に届くスタンガン、ということらしい。すでに実用化されているものの長射程改良型で相手を気絶させたのち、そのまま電極を射出したワイヤーを戻すことも切り離すことも、そのまま巻きつけて拘束することもできるようになっている。接地物にかなり強い力で吸着するためワイヤーガンの代わりとしても使えそうだ。その際には電流をオフにすることもできる。
少し癖がありそうだが相手を簡単に無力化できるという点と汎用性の高さで重宝しそうだ。
「ざっと用意したのはそれよぉ、工作機械はおそらくレーザーブレードだけで十分かなと思ったけど……」
「ありがとう湯布院さん」
「だからぁ……碧って呼んでよぅ……」
その場にゆっくり崩れ落ちる湯布院さんには感謝しているけど、何がいけない? 普段のような友達感覚で接することがそれほど悲しいことなのかな。
テイザーガン以外はスイッチ一つの簡単な操作方法だったし、使い方を覚えるのにそこまで時間はかからなかった。時計を見れば集合時間にまだ余裕がある。イツキという人物がわなを仕掛けている可能性もあるのだから下見は必要だ。
「ありがとう、湯布院さん。行こう、有栖」
待ち合わせの場所はがそう遠くは無いと言っても森の中。途中から徒歩を余儀なくされる。
「ちゃんと返しに来てねぇ彗くぅん」
相変わらずの甘ったるい声で見送る湯布院さんを背に、研究所を去る。
傘なんて全く役に立たない程強く痛い雨粒。その音がうるさいようで静寂をくれている。
「有栖、悪いけどここに居てくれないか?」
有栖は車のキーを人差し指でくるくるともてあそんでいる。
「やっぱりこれから先は危険だ。ここからなら徒歩でも十分に間に合う距離にあるし僕一人なら簡単に逃げられる」
「足手まとい、と言いたいのか?」
僕は首を横に振る。
「ただ心配なだけだ」
「その言葉はそっくりそのまま返そう」
有栖はそのまま車に乗り込む。後部座席に無造作に置かれた高性能の無線機を左手の甲で小突く。
「第一、これの通信可能範囲内まで接近しなくちゃいけない。これも相手の提示した条件じゃないか」
確かにゆうに40kgを超える機材を運ぶのは骨が折れるし相手がいないことには通信機器は役に立たない。イツキという人物に任せてもいいけどその場合そいつを監視する人間が一人必要だ。誤情報を垂れ流されてはめられたらたまったものじゃない。地下の施設に侵入するというから。高出力のものを用意せざるを得なかったんだった。もちろん発電機も。メモリー登録すればいい、と思うだろうけど、あいにくと容量を確保できるメモリーが存在しなかった。
「危険を感じたら逃げてくれよ?」
「大丈夫だっ」
そういって拳銃を構えるそぶりを見せるから余計不安なんだけど。
「……いこうか」
これじゃあ何を言ってもついてきそうだし仕方ない。車で十分。研究所が立ち並ぶ区画と研究都市郊外を隔てる森林地帯。警備兵がいないところを見るとイツキという人物は巡回時間等々を把握しているのだろうか、と思ってしまう。つまり研究都市外部の人間。
ただスパイ、ということはまず間違いなく可能性がゼロ。それなら『無関係な人間への接触』そのものを避けるはず。
もっとも、何を考えているのかわからない恐ろしさがあるんだけどさ。
車を降りてトランクからモーターキャタピラ付の小型台車に資材を積む。僕はパワードスーツを装着してそれに積みきれない資材を左肩に抱えた。
無言のまま森林の中を進む。途中に目印らしきものと『警告・無断越境を禁じる』という看板。さっさと電子警備を導入すればいいのにこういうところは無駄にローテクだ。ここまでひどい警備態勢だとわざと侵入を誘っているんじゃないか、と疑ってしまう。
「ふむ……集合時間にはまだ早いですが警戒しての行動なら及第点ですね」
電話越しで聞いた声と同じ声。僕は反射的に資材を放り、銃を構える有栖の斜め前に構える。
「十分な兵装を、と言ったのに銃器が拳銃一丁とは嘆かわしいですね。まあ仕方がありません」
いつの間に背後に回り込んだのか、パワードスーツに装備された明かりに照らされた金髪赤目の男が突っ立っている。
「えっと……君が?」
「はい、イツキと名乗った人物は私ですので銃をおろしていただきたい」
両手をあげたままのイツキという男、いや外見からして少年に近い。ヤコと同い年か少し上ぐらいの年齢だろう。言葉がやけに上から目線に聞こえる所為で30近いオッサンをイメージしていたせいかギャップに戸惑う。
「こちらです、ついてきてください」
イツキはおもむろに一本の大樹に近づき、その木に手を押し込んだ。
静かにゆっくりと口を開ける大地を僕も有栖も唖然としてみていた。
「驚いたな……こんなところに地下施設への入り口があるとは予想外だ」
「くれぐれもご内密に。私のこの行為は背信行為でもあるので」
目を丸くする有栖の隣で僕はその入り口の奥を睨みつけていた。この奥にヤコとアヤメさんがいる。
「行くよ」
イツキが「せっかちな方ですねぇ」と肩をすくめる。
「せめてMAPデーターだけでも受け取ってください、ウイルスの有無はそうですねそちらの女性に確認して頂きましょう」
有栖がソースコードをイツキのPCで確認する。五分ほどたってから有栖は頷き、パワードスーツにそのデーターを転送した。
グリーンのフェイスガード右上に地下施設の簡易地図が表示される。
「入り口の警報装置はハッキングして停止させてあります。また、随時こちらから通信で侵入指示を出します。くれぐれも隠密行動を心掛けてください」
言われなくてもそのつもりだ。それも見越して銃器は選択しなかったというのもある。サイレンサーを付けたところで音は出るものだし。
「ではカウントゼロと共に突き当りまで2秒以内に到達、左折後一メートルで停止してください。交代時間ちょうどに監視カメラ映像を見られず、死角に逃げ込む最低条件です。ご武運を」
頷いてすぐに停止可能で、なおかつ加速しやすいスライディング姿勢で待機する。
「5・4・3……」
ジェネレーターをアイドリングでフル回転。動力エネルギーを蓄えて備える。
「2・1・ゼロ」
フル加速で一直線の通路を滑りぬける。0コンマ7秒左折ポイントまであと約0コンマ4秒。
人間の反応速度ギリギリ、意識が飛ぶ直前の重力加速度と共に直角にカーブを曲がり、急制動をかけた。
目測だと一メートルぎりぎり行ったかオーバーしたかの瀬戸際の位置で壁に背を預ける。
どうだ? 返事がない。
「……驚きました。厳しめに時間設定を言ったとはいえ0.8秒も余裕を残しているとは」
ホッと一息つく。
「あと二センチ右に戻ればいうことなしですね」
その言葉にあわてて右手に移動する。
「ハイご苦労様です、ではこれより段階的に順序良く監視カメラと警報装置をハッキング停止していきます」
淡々と冷静なイツキに言いたいことは山ほどあるけどぐっと飲み込む。
僕はこいつ、苦手だ。