成り行きと決断
昨日は結局、小日向のことは諦めて寝た。
というか、ブログ見返したところで解決案は出てこない。気付くの遅い。
でも一応考えたんだ。
小日向は「文化祭でやりたいことがある」って言ってた。
つまり、その文化祭のときにルアを使って自分はルアじゃないんだって主張するつもりなんじゃないかと。
小日向とルアが同時に現れたら、みんな納得するはずだろうし。
ってことで、そこの所を直接小日向に聞いてみようと思ったわけだ。
しかしここで、面倒なことが1つある。
女子だ。女子。原田唯依みたいな。
小日向は女子からも男子からも人気がある。
逆に俺は何度も言っているように平凡眼鏡。つまり地味。
男子はともかく、女子が何かと言ってくるわけだ。
何が怖いって、陰口。女子ほんと怖い。あの陰湿でネチネチした感じ。うわあ。
この前みたいに直接言ってくるのはいい。その方がすっきりする。
なんて1人孤独に考え込んでいると、
「祥太くん!」
「っわ!?」
視界に入っていなかった奴からいきなり声をかけられ、珍しく大きな声を出す。
そのせいで、クラスの何人かの視線が痛く突き刺さった。こっち見んな。っていうのは無理か。
だって隣に小日向がいるんだから。
「あはは、驚いたー?」
「……」
くすくすと笑ってくる小日向に、やっぱり無視してしまう。最早クセだ。
それに、この空気で話しかけられるほど俺は勇者じゃない。
「そういえばさぁ、昨日なんかあったの?」
昨日? 昨日って色々あったけど、一体どれのことなのか。
「唯依とはなんの話したの?ブログもなんか様子おかしかったし」
全部かよ。いや、2つしかなかったけど。俺も思ったより少なくてびっくりしたけど。
でも、この質問は都合がいい。
「お前のこと、聞いた」
「…え?」
俺が言うと、小日向は分かりやすく目を見開いた。さすがに驚いたか。
いつも飄々としてる小日向が、こんな顔してるなんて。写真でも撮っておけばよかったか。そうすれば馬鹿に出来たのに。
「ちょ、ちょっと、祥太くん、こっち。」
すると、小日向は驚いて冷静に考えることが出来なくなったのか、小日向が俺の手をひく。
俺は突然のことに抵抗も出来ず、ぼけっと引っ張られた。
「え、おい、離せ」
はっと意識を戻して訴えてみるが、小日向の耳には届かなかったようだ。
「おい」
俺の腕を掴んでいる手を叩いてみるが、反応なし。
もうこれ無視だろ。そう思ったらイラついた。
勝手に連れ出しやがって。俺なんかどこに向かってるかも分からない。ついでに言うなら廊下にいる奴らの「え?」という視線が刺さっている。主に俺に。
俺は抵抗するのをやめて、とりあえず小日向が落ち着くまで待つことにした。
これで俺までイライラしてしまったらお互い冷静ではいられなくなってしまうので、今だけでもこのイライラを我慢しておこう。
んで小日向が落ち着いたら、思いっきり取り乱してやる。コノヤロー。
そして皆の視線をおもむろに浴びながら辿りついたのは、資料室。
中に入ると、小日向はカチャリと鍵を閉めた。なにこれ怖い。
何するつもりだ。口封じに半殺しにされるとか。脅されるとか。あぁ俺小日向にルアっていう弱み握られてるじゃん。
冷や汗をかきながら、冷静を装って小日向を見つめる。内心ガクブル。まじ怖い。
小日向の表情はなんだか複雑で、驚愕と後悔と疲労と、殺意にも似た何かを感じる。
「祥太くん、唯依に何聞いた…?」
いつもよりもずっと低い声で尋ねられる。怖いけど、これは真剣に訊いてるってことだろう。
「お前が、自分のことをルアだって言ってたってこと。」
変に嘘を言ってもばれそうだし、なにより嘘をつく必要がないので正直に答える。
俺の答えを聞いた小日向は、やっぱり、と溜め息をついた。
「お前、何するつもりなんだよ」
ルアって嘘ついて、しかも文化祭でやりたいことがあるって。
小日向はただ首を横に振った。
そしてぽつりと呟く。
「こんなことになるとは思わなかったんだ…」
どうやら、ちょっとした冗談だったらしい。ルアなんてあきらかに自分とは似てないし、まさか自分が女装してるなんてみんな信じないだろう、という考えから生まれた、からかうための冗談。
だけど思ったよりみんなが本気で信じてしまって、今更冗談だと言い出せなくなった。らしい。
「…それと文化祭は何の関係があるわけ?」
「文化祭の、ベストカップルコンテストってあるでしょ…?
あれでルアと出場すれば、みんな盛り上がるし、俺の冗談も嘘だって分かる、から…」
運良く本物のルアとも会えたし。
なんて恐る恐る、という風に言ってきた小日向。
あきらかにしょんぼりと落ち込んでいて、思い切り怒鳴るような空気ではない。
自分でも分かってるんだろう。自業自得でこうなったのに、俺を脅して文化祭の計画に協力させようとしたのは、やっちゃいけないことだったって。
怒られるのを覚悟の上で、今言ったんだろう。
じゃあここは大人になって、優しく受け止めてあげようじゃないか。
「分かった。協力する。」