扉
扉が、ある。
青くて質素。ただ木の板を張り合わせたものに青いペンキを塗ってドアノブなどをつけて、扉として機能させただけの板だ。
それはただ自身を通過する者を待つだけ。とても寂しそうだ。だから僕は構ってやるつもりでそのドアを開けた。
僕は―――立つということを許されていないようだ。許されているのはただ背の高い木になっている木の実を見上げることだけだ。あの実はどんな味がして、どんな食感なんだろうか。ただ延々と空虚な空想を繰り広げるだけのモノが僕だ。
ふと、眼を落してみると僕は僕ではなく僕の体はこげ茶色の鬱蒼とした体毛に覆われていた。これはなんなんだろう。これは僕なんだろうか。しかし僕は僕だ。ではこの体は、このこげ茶色の体毛に覆われた体は果たして僕なのか。
―――許されないことをしたからなのか。僕はその場に倒れ伏してそのまま消え失せた。
眼の前に、扉がある。
赤くて質素。ただ木の板を張り合わせたものに赤いペンキを塗ってドアノブなどをつけて、扉として機能させただけの板だ。
それはただ自身を通過する者を待つだけ。とても元気そうだ。だから僕も心強くなって自信満々でそのドアを開けた。
僕は―――自由を許されていないようだ。許されているのは右手に剣を持ち、左手に盾を持ち、鎧を着て人々の娯楽となる事だけだ。右手の剣を構える。僕は悠然と眼の前にいる獅子を討ち取れば自由を手にすることができる。
気合一声。獅子の脳天目がけて剣を振りおろした。死闘の末に僕は獅子を討ち取った。やった。やってやった。誰も成し遂げた事のなかった事を成し遂げてやった。
―――そして死に損ないの獅子の餌となった。
眼の前に、幾つもの扉がある。
形は両開きのものや今までと同じものと色々ある。装飾や色も一つ一つ違っていて自分を必死に主張しているように感じる。
どれを開けたらいいか分からないので、とりあえず近くにある扉に手をかけてみたが鍵がかかっていて開きそうになかった。だから片っ端から開けてみようと思った。
そのうちの一つ、黄色い扉に手応えがあった。とても楽しそうだ。だから僕も少し笑うと楽しくなってそのドアを開けた。
僕は―――諦めることを許されていないようだ。許されているのは躓いても立ちあがって再び立ち向かう事だけだ。そして躓いて転んだ。そしていつも通り歯を食いしばりながら立ち上がる。
そして、輝いた。仲間と一緒に泣いて笑って笑った。今まで体に刻みこまれた擦り傷が癒えてボロ雑巾が新調されたようだった。
―――そして僕は掛け替えのないものを手に入れた。
眼の前には、無数の扉がある。
どれもが群れに埋もれてしまわぬように個を主張しているように感じる。何となくだけど理解る。これは僕の―――で―――なんだ。どれもが―――だからこうやっている。
鏡が、ある。
無数かつ乱雑に並ぶ扉の中央にポツンとある。僕を映している。ただ鏡としての存在理由を全うしているそれは、だけど僕の知る鏡ではなかった。
鏡には赤ん坊が映っている。こういう立場からは見た事がなかったけどこの赤ん坊は紛れも無い僕なんだろう。
―――ああ、理解った。
おはよう。




