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廃神社の怪

短編ホラーです。苦手な方はブラウザバック推奨。

「また同じところ…」


「山舐めてたぁわぁ」


 来年高校に進学する女子中学生、笹野ゆいは現在遭難していた。彼女は卒業旅行で自身の家族と、同じく卒業する子どもをもつ親戚たちと、とある東北地方の旅館に泊まりにきていた。旅館のある通りにはお土産屋や料亭があるので、最終日に観光がてら探索していたら、彼らとはぐれてしまったのだ。


「沢を下るな、尾根に登れっていうのは有名だよね…旅館も山の上の方にあったから見えるかも…」

 そう思い、山の上を目指し登り続けた。人工物はどこにも見えない。見えるのは枯葉で満たされた地面と、葉が太い笹と鬱蒼とした木々だけだった。空を見上げても、霧か何かで白いだけで、太陽も無いため方角もわからない。

 そうしてまた山を登る。

 いや、登っているはずだった。


「また…同じところ…」


 目の前には先ほど見たのと同じ廃神社があった。鳥居は半壊し、右上の部分が欠けて無い。ここは数分前にも通ったところだ。狛犬のいない台座も共通している。

 

「うっわ、まじ怖いんですけど…」


(そもそも、なんでこんなことになったんだっけ)

 

 ゆいは自分が遭難した状況を思い出してみる。


(お母さんと、親戚の小6のあみちゃんとそのお母さんと一緒に歩いてて、あみちゃんが、「お腹空いた!ママあれ買って!」って言ってた。だから一緒にお団子を買って、ひもうせんに座って食べていた。食べ終わったら、また通りを歩いて…)


 そもそも、思い出してみると何故自分がこの山で迷っているのかもわからない。コンクリートで舗装された道以外歩いていないし、脇道にも入っていない。彼らとどう別れたかも思い出せない。まるで自分だけ靄の中に取り残されたような感覚だった。


「なんか、気持ち悪いし、頭も痛くなってきた…もしかして、私ここで、このまま一人ぼっちで死ぬのかなぁ…」


 笹野ゆいは心細くなり落ち込んでしまっていたが、ある考えが頭に浮かぶ。


「そういえば、神社って掲示板みたいなところに地図とか貼ってあるかも…なんか雰囲気怖いけど…」


 そう思い、鳥居の方に歩いて向かった。すると、右足に引っ張られるような違和感があった。


「きゃっ……!」


 足元を見ると、小さな白い手が掴んできている。ちょうど日本人形くらいの大きさだった。ゆいは驚き、足を思いっきり上げてその手を振り解き、そのまま走って逃げる。数歩進んで振り返ると、小さな手はそのままピクリとも動いていない様子だった。


「…気味が悪い、」


 そう呟きつつ、ゆいは神社の敷地内に入った。


 脇に御神木があったが、とうの昔に朽ちて切られて切り株になっており、しめ縄もちぎれて紙垂は跡形もなかった。

 地図を探すため本殿の周りを見回してみたが、掲示板らしき物は見当たらない。せめて、携帯も無いこの状況で、ここがどこか分かれば良いのだが…


 仕方なく、そのまま本殿に進む。本殿も朽ちており、壁は穴だらけでところどころ屋根が落ちていた。


「うえぇ…ここに入るのか…」


「えーと、すみません、入ります。」

 

 礼の仕方は覚えていないが、とりあえずパンパンと手を2回叩いてから階段を登る。

 賽銭箱は、中身が盗まれたのか、よく見ると上側が壊されているようだった。


 本殿の中は落ちた屋根の一部と、片付けられていない道具で散乱していた。神棚の上に置かれていたものは、軒並み下に落ちている。

 床は靴越しでもじゃりじゃりと音を立てて、あまり気持ちのいい物ではなかった。障害物を避け床を探すが、地図らしき物は見当たらない。お札や黄ばんだ布、壊れたぼんぼりなどが落ちているだけだった。少し進むと、足元で何かが光ったように見えた。丸い、濁った鏡が落ちているようだ。


 (この鏡、汚くなって何も写ってないなぁ…)


 そう思って、さらに奥に進んでみる。一旦裏から外にでると、遠くの霧の中で、人らしき姿が見えた。

 

 (あれ、昔の人の…服じゃない?)

 

 そこには教科書で見たような格好をした男の後ろ姿があった。白い狩衣に紫色の指貫、黒い烏帽子が見える。平安時代の装束だろうか。


 その時代の人間が今を生きている訳は無い。故に、本来人がいたら声をかけ、道を聞くべきなのだろう。

 しかし、どうしてか、あの男には絶対声をかけてはいけないと直感で分かった。


 ━━あれは人では無い。


 ゆいは逃げなければいけないと思い、音を立てないよう後退りをする。すると、男の姿がカマキリに似た異形のシルエットに変わったように見えた。


 男がゆっくりと振り返る。


 その顔を見て、ゆいは驚愕した。

 

 鋭い両の目はズレ、鼻は無く、口は引き裂かれたかのような笑みを浮かべている。脚は蜘蛛のように多く、そして長い。ゆったりとした袖から伸びる手は、カマキリのように折れ曲がっているように見えた…が、何かおかしい。

 よくみると、包丁を逆手持ちで握っていた。


 ゆいはあまりの恐怖で、一心不乱に逃げ出した。後ろからは人間とは違う不規則な足音がする。


 (怖い…怖い、あれは何?幽霊?それとも神様?)


 サクサクと草を踏む音が聞こえる。すぐ側まで追いかけてきているのがわかる。途中、賽銭箱にぶつかったが、それでも気にせず走り続けた。


(分からない、誰か、誰か助けて欲しい)


 鳥居に差し掛かったところで、耳元で言葉とも取れない声が聞こえた。それでゆいはつい後ろを振り向いてしまった。

 歪に重なった目と、耳まで裂けた口、不揃いな牙、そして、白い包丁の刃が落ちてくるのが見えた。

 包丁の先がゆいの首に当たると思ったその時、ゆいはあまりの恐怖で目を瞑った。


 

 

 気づくと、畳の上に寝ていた。見たことのある景色、仰向けになると、旅館の天井が見える。電気はついておらず、同室の両親はいない。外に出ているようだ。

 障子からは白い光が漏れている。


(あれは、夢、だったのかな。)


 夢だったなら一安心だが、死ぬほど怖い夢だった。


「ゆいちゃん、旅館の近くにお蕎麦屋さんがあるから、そこに食べに行くよ!」


 部屋の扉の向こうから母親の声が聞こえる。


「はーい、今行きます!」


 ゆいは、自分のカバンを取りに床の間の方に向かう。両親のカバンと着替えが散乱していた。


「もー、片付けないまま出てって…」


 ゆいは自分のカバンに手を伸ばす。すると、床の間に何か飾られていることに気がついた。


「あれ、こんなの今まであったっけ」


 そこには赤い着物の日本人形が置いてあった。金の扇の模様が描かれていて、大切にされているらしいことが分かる。


(…この人形右手が無い。)


 左袖からは手が見えているが、右腕に関しては手首から折れているようだった。

 ゆいは先程の出来事を思い出す。

(あの時、足にまとわりついてついてきたのも、右手だった気がする。)

 なんだか不思議な気持ちになって、ゆいは人形に声をかけた。


「もしかして、守って、くれたの…?」


 人形は、当然だが声をかけたところで少しも動かなかった。

 

「ありがとう。」


 ゆいはそう礼を言うと、カバンを開け、机の上の私物を中に入れ始めた。


「ゆいちゃん、早く来なさい、あみちゃんも待ってるから!」


「待って、カバン持って行く!」


 お気に入りの黄色い無地のカバンに急いで荷物を詰め込む。くし、財布、携帯、塩飴…


「コレ、いるかなぁ…」


 机の上に置いてある、縁が紅白の水玉の小さい手鏡に目をやる。


(まぁ、前髪直したいしな…)

 

 そう思って、手鏡をカバンに入れようとしたその時、



 ガタン…


 床の間の方で音がした。日本人形がゆいの方を向いて一歩進んでいる。動かないはずの目まで、しっかりとこちらを見ている。


「あの…」


(・・・・)


 人形は当然、動かないし、何も答えなかった。

 ゆいは少し気味が悪くなって、手鏡を置いて部屋から出ようとドアノブに手を伸ばす。

 

 

 ━━━右足に、違和感がある。

 

 折れた人形の右腕が、ゆいの右足首にまとわりついている。肉に指先が食い込むほど強く、後ろに引っ張るように。

 再び、ゆいの母親の声が聞こえた。


 

 

「━ゆいちゃん、何をしているの?


 お母さんを困らせたいの?


 ゆいちゃん、どうしたの?


 ゆいちゃん━━?


 


 

 ━早く、出てきなさい?」



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