ミントを巡る夢子とアルルの事情について
枕木夢子は森から学園に戻る最中に、友人であるペパー・ミントに出会う。
夢子はよろこんでミントの近くに駆け寄ったが、ミントの隣にはメガネを掛けた細身のメイド、アルル・レモングラスもいたのだった。
そして、アルルは夢子に対して敵意を持っているようだった。
「なによ。ぼちぼちって。」
キツイ調子で夢子に言うアルルに対して、夢子は少し身を縮ませるようにした。
「ええと、まぁ自分なりには頑張ったかなと。」
「どうせスライムを倒しただけでしょ。」
オドオドしながら言う夢子に対して、アルルは冷たく言い放つ。
アルルの言い方に「ぐっ。」夢子は思わず言葉に詰まらせた。
(いや、スライムだけじゃなくて魔犬も1匹倒してるんだけど。)
夢子はそう反論したいところだったが、そんな反論をしても「魔犬を1匹倒しただけでなんなの?」と言われそうなので、黙っておくことにする。(普通のメイド冒険者にとって魔犬は初心者向けの魔物のため。)
夢子がアルルに責められるような状況になっていることに気づいたのか、ミントが笑顔のまま夢子とアルルの間に体を入れるように動く。
「まぁまぁアルルちゃん。そんなに怒らないで?」
ミントがアルルの肩に手を載せて宥めると、アルルは夢子から目を離した。
「別に怒ってるわけじゃないわよ。」
そう言うと、アルルは地面に視線を落とす。
その様子はミントに言動を窘められたことに落ち込んでいるように見えた。
その様子を見て、夢子は(おや?)と疑問を感じる。
(アルルは思った以上にショックを受けているみたい。気の強い娘だと思ったけど、少し違うのかも。)
夢子はアルルと話したことはないが、同じ1年生なのでアルルのことを見かけることはあった。
夢子が見る限り、アルルは学園で基本的に1人で行動しているけれど、それを気にすることもなくピンと背筋を伸ばして椅子に座っているように見えた。
そんな普段の態度や夢子に対する物言いから、夢子はアルルの事をあえて1人でいることを選んでいる、しっかり者だけど気難しい子だと考えていたのだった。
だが、今のアルルとミントの様子を見ると、アルルはミントの言葉に必要以上に落ち込んでいる様子だ。つまり、
(アルルは望んで1人でいたわけではなくて、友達がほしいけど1人だから孤高を気取っていたのかもしれない?)
その考えに辿り着くと、夢子はアルルに対しての怒りが収まるのを感じた。
(なるほど、私に対する態度がやけに冷たいと思ったけど、これはあれだ。自分の友達が私に取られないか不安を感じてのことなのかもしれない。つまり私と同類?)
元の世界でも特に友人と呼べる人がいなかった夢子は、自分と同じようなぼっちに対して広い心を持っていた。
そして、アルルを自分と同じぼっち気質の人間と判断した夢子は生暖かい目でアルルを見つめると、(大丈夫、私も同じぼっち仲間だよ。)と視線を送ったのだった。
そんな生暖かい視線を送る夢子を脇に置き、ミントは笑顔で、下を向いたままのアルルの手を優しく握りしめた。
アルルは手を握りしめられたことに驚いたのか、慌てた様子で顔を上げてミントを見つめる。
「アルルちゃんはすごい頑張り屋さんだから。自分と比べると他の人が頑張ってないように感じちゃうんだよね?」
ミントが笑顔のまま語りかけると、アルルは気恥ずかしげな様子をみせた。そして、
「そ、そうかもしれないわ。ごめんなさい。」
と、アルルはおどろくほど素直に謝罪した。
「うん!私はアルルちゃんが頑張ってることちゃんとわかってるよ。」
ミントが追い打ちでアルルのことをほめると、ついにアルルははにかんだ笑顔を浮かべる。
「あ、ありがとう。」
笑顔で見つめ合っている2人の様子を、夢子は(うんうん。女の子同士の尊い友情ね。)と、まるで親のような気分で見つめていた。
そして同時に、夢子はあらためてアルルのことを自分と同類のぼっち気質な人間だと判断していた。
少しの間見つめ合っていたミントとアルルだったが、アルルの様子が落ち着いたと判断したのか、ミントは握っていたアルルの手を離した。
そして、アルルを夢子の前に誘導する。
「アルルちゃんはとっても頑張ってるよ。それでね。私、夢子さんも頑張ってるってこと知ってるんだ。それじゃあだめかな?」
「うっ。」
夢子の前に出されたアルルは気まずそうに夢子を見た。つい先ほどまで夢子に冷たい態度をとっていたのだから、突然に態度を変えるのは難しいだろう。
だが、アルルは気まずそうな表情をしていたが、ミントに促されたこともあってか、たどたどしい口調で「悪かったわね。」と夢子に謝った。
(別に謝罪までされなくてもよかったけど、ここは私も、実年齢が大人の人間として心の広さを見せなければなるまい。)
そう考えた夢子は、生暖かい笑顔でアルルを見つめると、外行きの高めの声で応えた。
「ううん!全然だいじょうぶだよ。私もこれから頑張るから、アルルちゃんも仲良くしてくれると嬉しいな!」
それは夢子の全力の友好的態度であった。
だが、笑顔の夢子に対してアルルは引くような、嫌そうな顔をして口を開いた。
「えっ、仲良くするのは無理。」
それは端的な拒絶の言葉だった。
(ええぇ!!?)
アルルのあまりの発言に、夢子は笑顔を張り付けたまま驚愕していた。
(普通この場面で拒絶できる!?いや、後でやっぱり無理でしたっていうことはあるでしょうけど、ミントから促されたこの場面で拒絶しないでしょ!?)
夢子は驚きのあまり思考と行動が完全にショートしていた。
一方で、アルルは自分の謝罪は済んだと判断したのか、ミントに向き直っていた。
「それじゃあ早く学園に戻りましょうか。」
そう言うと、ミントの手を引いてすたすたと歩きだす。
「えっ、ちょっとアルルちゃん?」
ミントは突然の事に判断ができなかったのか、アルルに手を引かれるままになっていた。
夢子が意識を取り戻したのはそれから5秒ほどたってからの事だった。
(はっ!あまりの発言に意識が飛んでいた。)
夢子が慌てて周りを見ると、アルルとアルルに手を引かれたミントが遠ざかっていく姿が見える。
その様子を見て、夢子は先ほどまでアルルに感じていた親近感を全て破棄することに決めた。そして、親近感を捨てた後に生じたのは怒りであった。
(あいつ!私の友好的態度を拒否するだけでなく、ミントちゃんまで独占しようとするなんて。みんなの共有財産としてミントちゃんを扱うならまだしも、独占しようとするなんて欲が深すぎるでしょ。)
夢子にとって、この事態はすでにミントを掛けた戦いになっていた。
アルルにとってはミントを失っても寂しいくらいかもしれないが、夢子にとってはミントを失うことは死活問題である。
アルルに対して友情を持つことを不可能だと判断した夢子は、アルルの魔の手からミントを取り戻すべく走り出していったのだった。




