学園のあれこれと、メイドと貴族の関係について
「1秒で10枚皿を洗え!」
「「「はい、よろこんで!」」」
「皿を洗ったらさっさとテーブルクロスも片付けろ!」
「「「はい、よろこんで!」」」
女メイド教師の号令に、メイドたちが大きな声で返事をする。その中にはもちろん、枕木夢子も含まれていた。
(ちなみに、学園には女性のメイドのほかに男の執事もいるが、たいていの場合まとめてメイドと呼ばれている。)
他のメイドたちがテキパキと片づけをしているのに比べると、夢子の足どりはいかにもたどたどしい。
夢子たちが今何をしているのかというと、メイドの給仕の仕事の一つとして、食堂で朝ごはんの時間が終了した後での片づけをしているわけである。
1人前のメイドとなるべく、女メイド教師から指導を受けているわけだが、では、メイドたちは一体誰のための給仕をしているのだろうか。
それは、貴族冒険者に対してであった。
詳しく話をすると、夢子や夢子の友人であるペパー・ミントはメイド冒険者学園に在籍しているのだが、そのメイド冒険者学園に隣接する形で、貴族冒険者学園があるのだ。
そして、この世界では基本的に、メイド冒険者と貴族冒険者がパーティーを組んで魔物と戦っているのだという。
普通、そういうもののパーティーって勇者とか戦士とか魔法使いとか、戦いの役割でパーティーを組むのではないだろうか。
夢子はメイドと貴族でパーティーを作ることに何の意味があるのか理解不能だったが、とにかくこの世界はそういうものだと納得することにした。
また、貴族というだけあって、貴族冒険者学園の建物はメイド冒険者学園のものより大きくて豪華だ。
そして、メイド冒険者学園の生徒はお金を払わずに衣食住が提供されているところ、そのお金の一部は貴族の資金で賄われている。
このため、貴族からの資金提供の対価としてなのか、貴族たちの食事や掃除、ベッドメイキングといった仕事をメイドたちがさせられているのである。
ちなみに、夢子たちが今片づけをしている食堂も、メイド冒険者学園の食堂ではなく、わざわざ貴族冒険者学園の食堂まで行って片づけをしているのだ。
「夢子さん、大丈夫ですか?」
夢子が重ねた皿を抱えてよたよたと歩いていると声が掛けられる。声を掛けてきたのは一緒に片づけの作業をしているミントだった。夢子の様子を心配しているようだ。
「いやいや、大丈夫だよ~。ミントちゃんも大丈夫?私の10倍くらい皿持ってるけど。」
夢子がミントの方を見ると、夢子が10枚程度の皿を抱えるように持っているのに対して、ミントは片手のひらに何十枚もの皿を重ねて持っていた。
「はい!私は大丈夫ですよ。」
屈託のない笑顔でミントが答える。一方で夢子は、10キロ以上ありそうな皿の山を片手で運ぶミントに少し引いていた。
だが、これはミントが特殊なのではない。周りのメイドたちも重そうな荷物を軽々と扱っている。
つまり、メイド冒険者学園にいるメイドたちは人並み外れた力を持っているのが普通であり、むしろ一般人程度の力しか持っていない夢子の方が特殊なのだった。
そして案の定、夢子はすでに落伍者の評価を受けつつあったが、メイドにも冒険者にも興味のない夢子にとっては、とりあえず衣食住があればそれでいいと思っていたのである。
ちなみに学園は3年制で、基本的には4月に入学する者が多いが、普通の学校ではないため一年を通して生徒が入学している。また、年齢もバラバラである。
夢子とミントが学園に入学したのは9月ごろであり、すでに4月に入学していた者たちはグループができあがっていたため、夢子とミントは一緒にいることが多かった。
これは夢子にとって助かることだったが、ミントの人柄が良いためか、最近はミントに話しかける人が増えてきており夢子は危機感を覚えていた。
(私のミントちゃんに有象無象のメイドたちが群がるんじゃない。私が孤立化するだろうが。)
そんな呪詛を心の中で唱えていた夢子だったが、さらに夢子にとって都合の悪い事に、貴族の中にもミントに手を出そうとする者が出始めていたのだ。
「ようミント!今日もかわいいね。何してるの?」
突然、ミントと夢子の前に立ちふさがるようにして1人の男が立ちふさがった。
それは貴族冒険者の2年生の男、ロブ・コルダだった。
「ありがとうございます。私は片づけをしているところです。」
ミントが笑顔でこたえると、ロブはれなりに整った容姿と、貴族らしい横柄な態度を身にまとわせながら、ミントに近づいて行く。夢子には目をくれない。
「そうなんだ、えらいね!けど、女の子がそんな無茶しちゃいけないって。少し休憩しようよ。」
そんなことを言いながらミントをどこかに連れて行こうとする。
(お前と違って暇じゃないんだからミントちゃんを困らせるんじゃねぇ。っていうか無茶って思うならお前も手伝えよ。というかミントちゃんにお皿を持たせたままにするなよ。)
夢子は心の中でロブに文句を言ったが、さすがに声に出すことはできない。
「ごめんなさい。これは私の仕事なので。」
ミントが申し訳なさそうに謝罪する。だが、ロブは諦める様子がなく、「たまにはいいじゃん。」とミントにしつこく絡み、さらにはミントの空いている方の手を引っ張りはじめたのだ。
「あの、ごめんなさい。困ります。」
さすがにミントも困惑している。この様子に、さすがに夢子も怒りが頂点に達する。
(このセクハラ貴族野郎。私の体力が雑魚でも、それ以外で力を持たないと思うなよ。)
そして、夢子はロブを見据えると、体を動かすことなく、心の中で魔法を唱えたのだった。
(『眠れ』)
イメージを文章にするのは難しい。
読んでもらえたらうれしいです。




