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悲しみと怒りの夢子の日記

(どうして私がこんな目にあわなければいけないのか。)


 枕木夢子は夜になるといつも考える。





(つらい。苦しい。悔しい。)


 ガリガリガリ


 薄暗闇の中で、何かをひっかくような音がする。


 それは枕木夢子がノートに文字を書く音だった。


 夢子は今、他にメイドがいる部屋の中で一心不乱にノートに向かっていた。


 他のメイド達は夢子に催眠魔法を掛けられて眠っており、静かに寝息をたてている。


 灯りもなく、物音もしない中で、夢子はノートに日記を付けていたのだ。


 日記を付けている夢子の表情は真剣そのものだったが、その顔には苦渋の表情が浮かんでおり、強く食いしばられた口からは歯がのぞいていた。


 ガリガリガリガリ


 夢子が握ったペンは、強く握られすぎているせいか震えるように動き、ノートに溝を掘るかのように小さい文字の跡をつけていった。


 このノートとペンは街で夢子が買ったものだ。


 ノートもペンも店で一番安いものだったが、お金のない夢子にとっては一番安いモノを買うのが精いっぱいであった。


 そして、なけなしのお金で買った一番安いノートとペンが、夢子にとっては心の支えになっていたのである。


 夢子はまず、ノートに自分の名前、住所、仕事や趣味などを書いた。それから、元いた世界で記憶に残っていることは何でも書いた。


 それは、夢子が元いた世界のことを忘れないためだった。


(この世界は私のいるべき世界ではないのだ。)


 それは夢子が、この世界に来てからずっと考え続けていることであった。


 元いた世界が好きだったわけではないが、それでもこの世界よりははるかにましだった。


 この世界では常に疎外感や無力感を感じながら、出来もしない魔物との戦いをさせられているのだ。


 それでも周りにへつらって生きざるを得ないことが、どれほど苦しい事か。


 そして鬱屈とした毎日を送る中で、夢子は元いた世界の事を思い出しにくくなっていることに気づいたのだ。


 それに気づいたとき、夢子は身が震えるほどの恐怖に襲われた。


 元の場所に戻りたいと思っているのに、元の場所の記憶が失くなってしまうかもしれない。


 自分の過去を思い出すことが出来なくなってしまうこと。それは夢子にとって、今までの夢子の人生が消えてしまうことと同じことだった。


 だからこそ、記憶が亡くなってしまう前に記録を残すために、夢子にはなによりもノートとペンが必要だったのだ。


 そして、ノートはそのまま、この世界での日記帳にもなっていった。


 夢子はこの世界での常識や作法、勉強など、学んだことを可能な限り記録していった。


 それは早くこの世界に慣れるためであり、実際、日記をつけることで夢子はかなり早いスピードで学園での生活を学んでいった。


 それは夢子の役に立ったが、元々のスタート地点が異なっており、学園で全員から落伍者と見られていることに変わりはない。


 それでも、力を使わないことに関しては失敗することが少なくなってきているのは確かだった。


 ノートを書くことに慣れてくると、ノートには学んだことや事実の記録だけでなく、夢子の感じたことが書かれるようになる。


 その多くは不安や心配事に関することであった。


 そして今も、夢子は目を血走らせながら今日の出来事を記していた。


(今日は生き残れたけど、明日はどうだろう?突然この場所を追い出されないだろうか。明後日は?それより先は?)


 そんなことを考えながらペンを走らせていたが、ふいに、ペンを握る指に痛みが走る。


「痛っ。」


 夢子が指を見ると、夢子の指はペンを強く握りすぎたためか赤くなり、うっ血しているようだった。


 赤くなった指と痛みを感じて、ノートにぶつけていた夢子の感情は表に噴き出した。


「……ヒック。ヒック。ウゥ~~~。」


 夢子はペンを置いて顔を覆い、声を殺して泣き声を出した。


(どうして私がこんな目にあわないといけないのか。こんな目にあっていいような悪い事なんてしてないのに。)


 それは。夢子がこの世界に来てから何度も繰り返し考えていることだった。


 夢子はこの世界に来たことについて、理由も目的もわからずに苦しみ続けているのだ。それは当然の悩みだっただろう。


 そして残酷なことに、それに対する答えはどこにもないのである。


 だが、夢子はそれで絶望したままではなかった。


(絶対に、このままで終わらせてやるものか。必ず「何か」をおこしてやる。)


 夢子はその「何か」を見つけているわけではなかったが、それでも負けたくないという想いだけは消えていなかったのである。


 しばらくして泣き声が止み、顔を覆った手を離したとき、夢子の目には強い光が宿っていた。

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