アルル・レモングラスは友達が少ない
枕木夢子、ペパー・ミント、アルル・レモングラスの3人は学園に戻り、それぞれ魔物を倒して得た魔石を訓練の成果として納めていた。
そして、アルルとミントはある程度魔物を倒していたため、とくに問題なく受領が終了したが、夢子はそれほど魔物を倒していないためか、女メイド教師に呼び出しを受けているようだった。
ミントは夢子の様子を心配そうに見ていたが、一方でミントの傍に立つアルルは夢子のことを冷ややかな目で見ていた。
(ミントも物好きね。こんな人と友達になってどうするの。)
アルル・レモングラスは友達が少ない。
いや、正確に言うならば、いないと言ったほうが適切だろう。
アルル自身はそれを特段気にしたことなどないのだが、アルルの兄からすると気になることらしい。
アルルの兄はアルルと同じようにメイド冒険者学園の生徒であるが、(男性なので執事服を着ているが、この世界では男女ともメイドと呼ばれている。)アルルと違い多くの友人を有しており、貴族やメイド、男女を問わずいつも友人と行動を共にしていた。
その中には優秀な者もいたが、あまり優秀でない者も多くいるようだった。
アルルからすると、優秀な者と付き合うのは良いかもしれないが、劣っている者と付き合うことに意味はないと思っていた。
アルルがそう言うと兄はあきれた顔をして、
「お前は友達を大げさに捉えすぎなんだよ。」
と肩をすくめながら言った。
そして、アルルの兄は友人と遊びに行くといいその場から去っていく。その様子を見てアルルは複雑な表情を浮かべた。
(そんなに毎日誰かとつるんで何かやることがあるの?)
とてもそうは思えない。どうせ何人かで集まっても、実のない話を延々としているのだろう。
学園のメイド達や貴族達も同じだ。意味のないときでも仲間内でつるんでいる。
魔物と戦うときには他の人と組むときもあるだろうが、それ以外の場でも長々と一緒にいてどうするのだろうか。
それも、劣っていたり怠惰な相手ならなおさらだ。
(私は友達を作らないんじゃない。作る意味が感じられないだけだ。)
そう考えていたアルルは、もちろん学園で誰かと話をしようとすることもなかった。
そして、それはアルルの希望どおりの状況であったはずだが、それでもなぜか、一人で行動しているときに複数人で行動している人を見るともやもやとした感情を覚えていたのも確かであった。
アルルの、そんな意固地になっていたような状況が変わったのは最近のことだ。
いつものように一人で行動していたアルルに、ミントが話しかけてきたのである。
「アルルちゃん、一緒に訓練に行かない?」
笑顔で話しかけてきたミントに対して、アルルはあまりに突然の出来事だったためか、
「えっ、えっと。別に……いいけど。」
と、声を詰まらせながら返すのが精いっぱいだった。(本人としては平静を装っていたつもりだったが。)
一方で、了承の返事を聞いたミントは笑顔を深めてアルルの前に寄った。
「いいの?ありがとう!アルルちゃんて剣を二刀流で使ってるでしょ?前からかっこいいなって思ってたんだ!」
「そ、それほどでもないわよ。」
そんな謙遜するような言葉を言いながら、アルルの顔はすでに笑顔になり始めていた。
それは、久しぶりに自分に話かけてきた人がいたということもあるが、話しかけてきたミントから悪意が感じられず、友好的な態度だったということもある。
また、他のメイドが基本的に1本の剣を扱っているのに対し、アルルはあえて2本の剣を使っていた。
これは、複数の敵を相手にするなら二刀流のほうが対処がしやすいだろうという、アルルからすれば合理的な考えからの行動だった。
しかしながら二刀流は扱いが難しく、アルルは人並み以上の苦労を背負う形になっていた。
そんな苦労をしながら二刀流を続けているなかで、ミントが自分を素直にほめてくれたことは、アルルにうれしいという感情を起こしたのだった。それでも、
(けど、私の力に頼りきりになるような人じゃだめだから。)
と、試すような気持ちでミントと行動を共にしたところ、ミントはアルルと同程度に実力を有しており、かなり優秀なメイド冒険者ということがわかる。
そして、その後もミントは度々アルルの事を誘うようになり、アルルはミントに友情を感じるようになっていったのだった。
さらにアルルが気を良くしたのは、ミントは年度の途中から学園に入って来たものの、明るい人柄によるものか、すでに自分より友達を作っていたのだが、そんなミントがわざわざ自分から友達になろうとしてきたことだった。
そうして、ミントを値踏みしていたアルルは、(これなら私の友達として合格ね。)などと考えていたのである。
だが、ミントと友達になり気を良くしていたアルルにとって、我慢ならないことが生じていた。
それは、ミントが枕木夢子と仲良くしていることであった。
ミントによると、学園に入学するときに一緒だったので仲が良くなったらしい。だが、アルルから見て夢子は最底辺の人間であった。
剣を持つ程度の筋力もなく、一般常識すらもかけているように見える。あきらかにメイド冒険者にふさわしくない人間だ。そして、それにも関わらず学園に居座っているのである。
アルルにとっては、別に夢子がどんな人物であろうと興味はない。問題なのは、そんな底辺の人間がミントと仲が良いということである。それも、一緒に入学した程度の繋がりでだ。
(そんなの、落ちこぼれがミントに頼ってすがりついてるだけじゃない。ミントにとってあまりに良くないことだわ。)
実際のところ、それはミントにとってマイナスというよりも、アルルが気に入らないというだけであっただろうが、アルルはミントが夢子と離れることが正しいと考えていた。
「ねぇ、このままあの人のことを待ってるつもり?早く戻りましょうよ。」
アルルはミントが夢子を待っているのを見て、思わず口を開いた。
すると、ミントは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
「ごめんね。私は夢子さんのことを待ってるから、ミントちゃんは先に戻ってて。」
そう言われてアルルは少しイラついた様子を見せた。
「そう。じゃあ私は行くけど、待ってても疲れるだけだと思うわよ。」
ミントには失礼かもしれないが、アルルがわざわざ夢子のことを待つ理由はない。
アルルは学園の中に戻ろうと歩き出す。そして最後に夢子の方を見てみると、夢子は女メイド教師にぺこぺこと頭を下げていた。
何を話しているのかは知らないがどうせ、これくらいの成果で許してくださいとか、そういったくだらないことを話しているのだろう。
そう判断したアルルは「ふんっ。」と不満の声を出すとその場を離れて行った。
そして、学園の中に戻っていくアルルの背中をミントは何も言わずに見ていたのだった。
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