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俺、ちょっと走ってみる  作者: 双鶴


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3/6

第3話 弁当とゾーン (葵)

火曜の午後。

駒沢公園のジョギングコース。

颯は、2周目の終盤に差しかかっていた。


「…心拍数、142。ゾーン入ってる」


腕の振りは少しだけ滑らかになった。

足裏の着地が、地面と対話しているみたいだった。

風が頬を撫でる。

汗が耳の裏をつたう。

呼吸は、浅いけどリズムがある。


「…これが“ゾーン”ってやつか?」


走ることが、少しだけ“気持ちいい”に変わっていた。


コース脇では、葵が麦茶のボトルを持って待っていた。


「お疲れ。今日の心拍、いい感じだったね」


「…なんでわかるの?」


「昨日の弁当、糖質ちょい多めにしたから。今日の走りに合わせて調整したの」


「…マジで?」


「マジ。料理部なめんなよ」


---


水曜の昼休み。

教室の空気は、いつも通りほんわかしてる。

俺は、葵の弁当を開けた。


「今日は、豚の生姜焼きと、雑穀米。あと、ほうれん草の胡麻和えと柿」


「…なんか、俺より弁当の方がゾーン入ってない?」


「うるさい。昨日の心拍数、140〜150だったでしょ?脂肪燃焼ゾーンだから、ビタミンB群と鉄分強化してるの」


周囲の席から、いろんな声が飛んでくる。


「颯、また葵の弁当?」「でも、あの空気感、なんか憧れる」

「颯の走りに合わせて弁当変えるって、もうトレーナーじゃん」


陽太が笑いながら言った。


「お前、次は何ゾーン狙ってんの?“恋愛ゾーン”とか言い出すなよ?」


「いや、今は“脂肪燃焼ゾーン”で手一杯だって」


翔太が分析口調で言う。


「でもさ、ちゃんと継続してるよな。俺、ちょっと見直した」


結衣が葵に話しかける。


「弁当、ほんとに毎回違うんだね。すごいなあ」


「うん。颯の走りに合わせて、栄養も変えてるから」


「…なんか、青春って感じする」


俺たちは気にしない。

でも、少しずつ“本気”になっていくのは、確かだった。


その夜、颯は科学ノートにこう書いた。


《第3回:2周ジョグ(約4.3km)。心拍ゾーン維持。呼吸安定。弁当連携成功。》


葵は、レシピ帳に「ゾーン別弁当・第1週」を記録していた。


---


トレーニング豆知識


心拍ゾーンって?

→最大心拍数=220−年齢。脂肪燃焼ゾーンは60〜70%、持久力アップは70〜80%。スマートウォッチがなくても、会話できるペースが目安。


アスリート弁当豆知識


ゾーン別弁当って?

→脂肪燃焼ゾーンには、豚肉(ビタミンB群)、雑穀米ミネラル、ほうれん草(鉄分)、柿(抗酸化作用)。走りの質に合わせて栄養も変える!


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