表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

第3話 一人じゃない夕食

掲示板の前で、俺たちは依頼を吟味する。


「なぜ騎士の職を捨てて冒険者に?」


「騎士は確かに名誉ある職業だ。だが、命令がなければ動けない。担当地域から出ることも許されない」


セリファーナは少し寂しそうに微笑んだ。


「私が守れたのは、ほんの一握りの村だけだった。でも、助けを求める声は国中から聞こえてくる。騎士団は人数が少なくて、全ての村を守ることはできない」


「それで冒険者に?」


「ああ。冒険者なら、自分の意志で動ける。助けを求める人がいれば、すぐに駆けつけられる。それが私の望んだ生き方だ」


俺は驚いて、セリファーナを見つめた。


「へえ......そういうことを考える貴族もいるんだな」


貴族の令嬢が、騎士という職業を選ぶ。それだけでも世間は騒いだ。

なのに彼女は、その騎士の地位すら捨てて、さらに身分の低い冒険者になった。

全ては、より多くの人を救うために。


「私は変わり者か?」


「いや......変わり者なんてもんじゃない。相当な、その......」


「立派な人だと思う」


素直にそう言うと、セリファーナは少し照れたような顔をした。


......少し気まずい空気が流れる。


「これなんてどうだ?」


俺が慌てて指差したのは、ゴブリン討伐の依頼だった。

新人向けの定番で、報酬もそれなりだ。


「ゴブリンか......どんな魔物だ?」


「......知らないのか?

 騎士は普段魔物と戦うことは無いのか?」


「主に村々の巡回と、行事の際の警備だな。他にも山賊から商隊を護衛したり、行方不明者の捜索だったり......

 剣の腕は訓練で磨いたが、実際の魔物相手は今日が初めてに近い。恥ずかしい話だが」


なるほど、実戦経験が皆無なわけか。

これは思った以上に面倒なことになりそうだ。


「ゴブリンは小型の人型魔物だ。一体一体は弱いが、群れで行動することが多い」


「なるほど、勉強になる」


セリファーナが真剣な顔でメモを取り始めた。

その姿は、まるで学生のようだ。


「どれどれ......『東の洞窟のゴブリン討伐』か」


俺は依頼書を読み上げる。


「被害内容は......農作物の略奪、家畜の窃盗、そして―」


「そして?」


「最近では、畑仕事をしている村人への襲撃も始まったらしい。今のところ怪我人で済んでいるが、このままだと死人が出るかもしれない」


セリファーナの表情が引き締まった。


「それは急がねばならないな」


依頼を受け、俺たちは街の外へ向かった。

目的地は街から半日ほどの距離にある洞窟だ。


「なあ、ウェンデル」


道中、セリファーナが口を開いた。


「君は長く冒険者をやっているのか?手慣れているように見えたが」


「まあ、三年くらいかな」


「三年......私と同じくらいの歳に見えるが」


「16歳だよ」


「では、13歳から?随分若いな」


セリファーナが感心したような声を出す。


「......両親が冒険者だったんだ」


俺は前を向いたまま答えた。


「だったんだ?」


「ああ。俺が10歳の時に、冒険で命を落とした」


歩調が少し乱れたが、すぐに立て直す。

もう6年も前の話だ。今更感傷的になることもない。


「それは......すまない」


「気にするな。もう昔の話だ」


俺は努めて明るく言った。


「両親が死んだ後は、村の大人たちが面倒を見てくれた。『困った時はお互い様』って言ってな。畑仕事を手伝ったり、力仕事を引き受けたりして、何とか暮らしてきた」


「それで冒険者に?」


「生活のためさ。13歳になったら冒険者になれるからな。村の人たちにこれ以上迷惑はかけられないと思って」


本当は、両親の真似がしたかっただけかもしれない。

でも、それは口に出さなかった。


「君は優しいんだな」


セリファーナが静かに言った。


「え?」


「私を助けてくれたのも、きっとそういう性格だからだろう?困っている人を放っておけない」


「......別に、そんなんじゃない」


俺は顔を背けた。

図星を指されて、なんだか照れくさい。


やがて、目的地の洞窟が見えてきた。

入り口付近に、緑色の小さな人影がうろついている。


「あれがゴブリンか」


セリファーナが剣を抜いた。


「待て、まず作戦を―」


「任せろ!」


俺の制止も聞かず、セリファーナは突進していった。


「おい!」


ゴブリンたちが彼女に気づき、甲高い声を上げる。

5匹、いや6匹か。予想より数が多い。


セリファーナの剣が閃いた。

一瞬で2匹のゴブリンが地面に倒れる。


(強い......)


その剣技は、確かに一流だった。

だが―


「後ろだ!」


俺の警告と同時に、物陰から新たなゴブリンが飛び出してきた。

セリファーナは反応できない。


俺は瞬時に判断し、腰の剣を抜くと同時に投げ放った。

回転しながら飛んでいく剣は、正確にゴブリンの胴体を貫き、セリファーナへの攻撃を防いだ。


「ありがとう!」


礼を言いながらも、彼女は前へ前へと進んでいく。

完全に周囲への警戒を怠っている。


(これじゃあ護衛じゃなくて子守だ......)


俺は苦笑しながら、投げた剣を回収しつつ、彼女の背中を守ることに専念した。


戦闘は40分ほどで終わった。

ゴブリンは全滅、俺たちは無傷だ。


「やったな!初めての依頼完了だ!」


セリファーナが満面の笑みを浮かべる。

返り血で顔が汚れているが、本人は全く気にしていない。


「ああ、でも次からはもう少し慎重に―」


「やっぱり君は素晴らしい仲間だ!」


また仲間認定された。


「あの絶妙なタイミングでの援護、完璧な連携だった。こんなに息の合う相手は初めてだ」


「いや、それは俺が必死に合わせただけで......」


でも、セリファーナは聞いていない。

すでに洞窟の中を物色し始めていた。


「おい、勝手に奥に行くな!まだゴブリンがいるかも―」


「大丈夫だ、君がいるからな!」


(信頼が重い......)


結局、俺は彼女の後をついて行くしかなかった。


街に戻り、ギルドで依頼完了の手続きを済ませる。

報酬の銀貨20枚を受け取ったセリファーナは、当然のように半分を俺に差し出した。


「いや、俺はただの手伝いだから......」


「何を言っている。一緒に戦った仲間だろう?」


「だから仲間じゃ......」


俺の言葉を遮るように、セリファーナは真剣な表情になった。


「ウェンデル」


急に真面目な声で名前を呼ばれ、俺は口をつぐんだ。


「私は本気だ」


セリファーナは真っ直ぐ俺を見つめる。


「貴族の道楽だと思われても仕方ない。実際、冒険者になりたいなんて言った時、家族も使用人も皆反対した」


その青い瞳に、強い意志の光が宿っていた。


「私のことを『馬鹿だ』と。周りの貴族たちも同じだった。身分を捨てて民のために働くなんて、愚かな考えだと」


彼女は一度言葉を切り、そして続けた。


「でも君は違った。『立派だ』と言ってくれた。私の考えを、初めて認めてくれた」


「セリファーナ......」


「それに、君を見ていて分かったんだ。ギルドで私を助けてくれたのも、村の人に迷惑をかけたくないと街に出てきたのも、全部誰かのためだろう?

 君は、自分よりも誰かのために動いてしまう。私と同じだ」


彼女は手を差し出した。


「だから確信したんだ。君となら、本当の仲間になれる」


「改めて聞く。私の仲間になってくれないか?」


その手を見つめながら、俺は考えた。


正直、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしない。

実際、今日一日だけでも振り回されっぱなしだった。


でも......


両親が死んでから、俺はずっと一人で戦ってきた。

村の人たちは優しかったが、家族になってくれるわけじゃない。

いつも一人で依頼を受け、一人で魔物と戦い、一人で街に帰る。

それが当たり前だと思っていた。


でもセリファーナは、自分よりも誰かのために動いてしまう俺のことを、同じだと言ってくれた。

初めて、俺という人間を丸ごと認めてくれた気がした。


「......面倒事は御免だぞ」


俺はため息をつきながら、その手を握った。


「任せろ!面倒事にならないよう、私が守ってやる!」


「逆だろ......」


でも、悪い気はしなかった。


こうして、俺とセリファーナの奇妙なパーティが結成された。

この時はまだ、これが王国最強のパーティーへの第一歩だなんて、思いもしなかった。


「ところで、パーティ名はどうする?」


「パーティ名?」


「ああ、ギルドに登録する時に必要なんだ。何か希望はあるか?」


セリファーナは少し考えてから、にっこりと笑った。


「今はまだ思いつかない。仲間が増えてから、みんなで決めよう」


「仲間が増える、か......」


この天然お嬢様に付いて来る物好きが、他にいるとは思えなかったが。


「とりあえず、今日は祝杯をあげよう!初クエスト成功と、パーティ結成を祝して!」


「おい、まだ日も高いぞ」


「構わん!さあ、行くぞ!」


またも腕を引っ張られ、俺は酒場へと連行された。


(なんでこうなった......)


でも、まあ。

久しぶりに、一人じゃない夕食も悪くないか。


そんなことを思いながら、俺は彼女の後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ