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ユリ 散る

登場人物の名前はユリの品種名から来ています(軽く検索して見つけてきただけなので間違いがあったとしても御愛嬌ということで)

理由は・・・・言わずもがな、ですよね

王太子の婚約破棄騒動から十数年が経過した。

栄華を極めた長きにわたる王国も平民を蔑ろにする政治が災いし革命が起こった。王軍も公侯爵軍も自国民に刃を向けるのを良しとせずその多くが革命軍に寝返った。

いまや王族や上級貴族で生き残っているのはカサブランカとその側近たちなど少数の集団が僅かに残るのみであり、王国崩壊はもはや確定事項であった。


カサブランカたちも孤立無援であり逆転の目はどこにもない

カサブランカ以外の女たちは下級貴族や平民、孤児の出身であるため、抵抗をやめ投降したり上手く逃げ出せば命の危険は、さほど大きくないことが救いといえば救いだろうか。


しかしカサブランカだけはそうはいかない。公爵家の出身であり王妃でもあるため最有力の標的であり投降しても処刑は免れないし、逃げ出しても草の根分けてでも探し出されることだろう。


「エルドレッド、貴方はどうします?投降するか逃げ出すか、それとも」

「わたしは最期まで姫様をお守りいたします。そして願わくば姫様に看取っていただきたく存じます」

エルドレッドは迷いなく答える。

「ありがとう。貴女の忠義に感謝します。」

「忠義では御座いません。愛するものを守り通すためです」

カサブランカは一瞬虚をつかれ、やがて軽く赤面しつつも穏やかに微笑み抱擁を交わす。


「アスコット、貴女はどうします?」

「共に来いとは言ってくださらないのですね。それならここを去ることにいたします」

目を細めるエルドレッド。その心根は安堵であろうかそれとも寂しさか


「エマニーはどうします?」

「わたしは投降します。まだやるべきことが残っておりますので」

「ふふふ。そう、でしょうね」

何かを察したようなカサブランカ。


「他の者達はお逃げなさい。投降するのも自由です」

否は許しませんとその目は語っていた。泣き出す者も少なくない。そんな女たちを改めて一人ひとり包容し感謝と愛の言葉つ告げる。


別れのときは終わる


「さあ、お行きなさい。そしてお生きなさい」


この言葉を最後にエルドレッド以外の女たちが去っていく。


やがて二人のもとに革命軍の兵士たちが押し寄せる。

「さて、男なら遠慮なくその生命もらい受けるといたしましょうか」

カサブランカが告げる。その言葉通り、押し寄せる男どもを次々に殺めていく。

エルドレッドも負けず劣らず奮戦する。

カサブランカは主に攻撃しエルドレッドはカサブランカを守る。


力で押し切ろうとしていた革命軍の兵士たちもやがて恐れをなしたか二人を遠巻きにするにとどまるようになった。

するとカサブランカは高らかに宣言する。

「男どもに指一本触れさせる気は御座いません。私を倒したければ、あるいは捉えたければ乙女を連れていらっしゃい。女性相手に粗暴な行いはいたしませんわよ」


その言葉に嘘はないのだが、彼女のことをよく知らない立ち場からすればおいそれと信じて女性を危険な場所に送り込むわけにもいかない。

膠着は何日も続く。敵は女性二人だけなのに散発的に起こる戦いは何故か革命軍にばかりいたずらに犠牲を増やしていく。一体彼女たちはいつ休んでいるのだろう?まるで鬼神とでも戦っているかのような錯覚を覚える


やがて一人の女性が数人の仲間を引き連れ前線に現れた。

彼女は指揮官と話し合う。否、一方的にこの先の作戦を告げ、従うことを求めた。

はじめのうちは渋った指揮官も打破できぬ膠着に音を上げ彼女に従いすべてを委ねることにする。


「おい、お望み通り女を連れてきた。さっさとその首を差し出すがいい」

そう言うと、男たち全員下がっていった。


そのことを確かめると、カサブランカとエルドレッドが現れる。ふたりとも丸腰であった。


「やはり貴女が来ましたね、エマニー。それと他の娘達も私の最期を見届けに来てくれたのですね。感謝します」

そこにいたのは奥宮(ハレム)で共に過ごした女たちだった。ただ一人を除いて


「アスコットはどうしました」

そこに居ない一人について問いかける


「彼女は自害しました。カサブランカ様に『共に来い』と言ってもらえなかったことに絶望して」

「アスコットには憎まれていると思っていました。王太子との仲を引き裂いて無理やり自分のものにしましたから。彼女にどうしようもなく惹かれ、愛してしまったのです。一方的な想いで彼女を縛り付けた。でも後悔はできない。だって同じ場面があったら同じ行動を取らずにはいられないから」


「だったらなぜ彼女の気持ちを察してあげなかったのです!始まりは最悪だったかもしれない。でも、貴女から深い愛情を向けられアスコットもやがて貴女を愛するようになった!」

激昂するエマニー。この場にいる全員が彼女が感情をあらわにするのを始めて見た


「彼女に謝らなくてはいけませんね。でも、あの世というものがあったとしてもアスコットの行き先は天国、私は地獄でしょうからそれも叶いませんね」

「アスコットならあえて地獄を選んで貴方を待って居るのではないでしょうか」

「そうならいいですわね」


「伝えるべきことは終わりました。では、お覚悟を」

再び感情をなくし淡々と告げるエマニー。そこへエルドレッドが両手を広げ立ちはだかる。

「お待ちなさいエマニー。カサブランカ様を手に掛けるのは私を殺してからにしなさい」


そうエルドレッドが言うとエマニーは一切の躊躇を見せずエルドレッドを切り捨てた。

だが、その場に居た全員が、その中にはカサブランカと当のエルドレッドまでもが含まれる、当然のことと受け止めていた。

カサブランカは女性を傷つけることは出来ない。エルドレッドはそんなカサブランカの意思に逆らえない。戦いはどちらかが滅びるまで止まらない。エルドレッドはカサブランカが倒れるのを見るのは耐えられない。

ならばエルドレッドが先にこの世を去るしかない。互いをよく知った仲である。全員が理解していた。


エルドレッドの亡骸に歩み寄るカサブランカ。

「エルドレッド、長年の忠義に感謝する。そして、愛してくれてありがとう」

2人の最期の約束はこうして果たされた。


「別れは済みましたか」「ええ」

エルドレッドの遺体への抱擁を解く。服は血に染まったが顔は一切汚れていなかった。どこから見ても彼女がカサブランカであることが分かるようにというかのように


「それでは屋上に参りましょう。王国の最期を見届けようとする民衆が待っております」

首肯するカサブランカ。


王宮の屋上に出ると周囲には多くの人が周囲を取り囲みその時を待っていた。

エマニーは前に進み出、他の女たちは後ろに控える。カサブランカは拘束されることもなく一切の抵抗もしない。ただ、凛としてそこに遭った。


「王国最期の時が来た!ここに国王派最後の生き残り王妃カサブランカの処刑を執り行う!」

エマニーは高らかに宣言した。歓声がわく。


「ではお覚悟」

この言葉を合図にその場は静まり返る。


カサブランカは一切目をそらさない。だがその視線はただ穏やかなものであった。


エマニーの刀が一閃する。それは女性のものとは思えないほど力強いものでだ

カサブランカの首が一撃で切り落とされ、頭部が宙を舞う。それを素早く抱きとめるエマニー



滅んだ王国の遺産の中にカサブランカの描いた人物画が多数見つかった。その全てが美しい女性の裸婦像だったが、ただ1枚だけ着衣の女性があった。その1枚は自画像ではないかというのがもっぱらの噂だが、彼女を手に掛けた女性に似ているのではないかという者も一部には居た。

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