この娘は私のです
2話構成の予定
1話目は胸糞悪く2話目は残酷な展開になると思うのでそのような話が苦手な方はご注意ください
王城の奥の一室、通称密談部屋で王太子が婚約者である東公爵家三女カサブランカに相対していた。後ろには一人の少女が控えている。
「カサブランカ。君との婚約をなかったことにしてもらいたい。もちろんそれなりの償いはする」
もともと政略結婚であり、カサブランカにとって自分は恋愛対象ではないどころか嫌っている様子すらある。機嫌を損うことのないようちゅういして、相応の賠償を示せば拒否されることはないであろう。
そう思っていた。ところが
「理由は、そこにいる柊男爵家のアスコット嬢ですわね。でも残念ながらその娘は私も目をつけていましたの。差し上げませんわよ」
王太子は思う。こいつ何を言っているのだ?(著者もそう思う)
「なに馬鹿なことを。アスコットはお前のものじゃないだろう」
その時不意に扉がノックされた。
「殿下、カサブランカお嬢様。柊男爵のお使いの方がお見えです」
「あとにし「お通しして」
王太子の言葉を遮るカサブランカ「あら、いいタイミングですわね」
「失礼します」
執事服に身を包んだカサブランカよりやや年上くらいの女と同じく執事服の初老の男。ただし仕立ての良さでは女のほうが圧倒的に上であった。二人の雇い主の力関係の差であろう
女執事はカサブランカの後ろに控え、初老の執事はアスコットに手紙を渡し耳打ちする。手紙はきちんと封印を施した正式なものである。顔を上げたアスコットにすぐに読むよう視線で促すカサブランカ
「エルドレッド、準備を」「はっ」
なにをかは言わない。この状況でお茶でも飲もうというのであろうか?
手紙を読み進めるに連れみるみる青ざめるアスコット。カサブランカと手紙の間で何度も視線を往復させる
「あの、これって?」
「そこに書かれている通りよ」
「そんな・・・・・」絶望に顔を歪ませるアスコット
「いったいどうしたというのだ?」
王太子はアスコットに問いかけたが答えたのはカサブランカだった
「わが南公爵家といたしましては柊男爵領に色々と支援を行っておりまして」
「貴様まさか支援と引き換えにアスコットを」
声を荒らげる王太子に対し涼しい顔で答える
「殿下お言葉が乱れておりますわ。王者たるもの常に冷静に、内心を表に出してはいけませんわ。それと人聞きが悪いので申し上げておきますが、アスコットがどうしようと支援を渋ることはないと確約しておりますわ。ただ」
そこで一旦言葉を区切る
「色々と男爵の弱みを握っておりまして、それこそ支援を打ち切られる以上に致命的な・・・・ 大恩ある公爵家の要望と強力な脅しが重なると逆らえる下級貴族はそうそう居ませんわね」
「よけいに悪いわ!」ぜーぜー「だが実家は実家アスコットはアスコットだろう。彼女が従うこともあるまい」
そこまで話したところで
「失礼いたします。準備ができました」
エルドレッドが戻って来る。「準備ができました」
そう言うとソファーやイーゼル、キャンバスを運ぶ男たちを従え自分は絵の具を持っている
「お嬢様、どうぞ」
「アスコット自身の弱みも握ってほしいましてよ。アスコット、受け入れるのなら着ているものを全て脱いでそのソファーに横たわりなさい」
かなり無茶に思える要求をする。
「な、何を言っている」
驚愕の王太子
「私絵画を嗜んでおりますの。アスコットにはそのモデルを務めていただきたいですわ」
思い悩むアスコット。再び手紙とカサブランカの間で視線を彷徨わせる。しかしやがて諦めたように服に手をかける。
「お手伝いいたします」
エルドレッドが申し出る。
「ま、まて。俺は席を外す」
「あら、お話はまだ済んでおりませんわよ。出ていかれては困りますわ」
その間にもアスコットの服を脱がせていくエルドレッド。王太子に席を外す暇を与えず全て脱がせてしまう。
アスコットは恥ずかしそうに身を捩り必死に手で身体を隠そうとする。見てはいけないと思いつつもついチラ見してしまう王太子。
「あら、モデルにいやらしい視線を向けるのはいただけませんわね、殿下。アスコットも恥ずかしがらないように。ふたりとも服を着ているときと同じような態度を心がけてくださいな」
むちゃを言わないでくれと思う二人。
「それじゃ、そのソファーに横たわって右手は・・・・」
体を隠すことが不可能な姿勢を求める。エルドレッドに指示し細かい調整を行うと早速キャンバスに向かい描き始める
「エルドレッド、エマニーを連れてきてちょうだい」
誰だと問いたげな王太子を無視して話を再開する
「この娘は奥宮に入れることにいたします。建前上は貴方の奥宮ということになりますが、もちろん貴方は入れませんよ?」
「この王城にハレムなどない!」思わず叫ぶ王太子。
「これから作ります。この娘以外にもたくさん囲うつもりなのでそのつもりでいてくださいね」
「そんな事父上が認めるわけないだろう」
国王は真っ当な人間だ。そのはずだ。こんなこと認めるわけない
「陛下からは既にお許しいただいておりますわ。実は陛下の弱みも色々と握っておりますの。ちなみに殿下の弱みも把握しておりますのよ」
「一体何を・・・・」
「知らないほうが幸せでなこともありますのよ」
しばらく沈黙が続く。その間カサブランカは黙々と描き続ける。
「エマニーを連れてきました」
カサブランカが少女を伴って戻って来る。見るとカサブランカによく似た容貌だ。
「紹介いたしますわ。この娘はエマニー。私の代わりにこの娘にお世継ぎを生んでもらい、その後は乳母として子育てをしてもらうことにします。もちろん子供は私が生んだことにします。この娘が妊娠したら私は体調管理を名目に引きこもって世間の目をごまかすことにいたしますわ」
エマニーは無表情に目礼をする
「そんな馬鹿な話あるか。その娘にそんな役割をさせるとか正気か?」
怒気をはらんだ声を出す王太子。しかし、カサブランカは涼しい声で返す。
「あら、政略結婚の花嫁は皆同じようなことをさせられましてよ。私は相手が誰であれ殿方と褥をともにする気など毛頭ございませんから代理のものを連れてまいりましたの。一応正妻の子という体を保つために私と似た娘を見つけてきましたわ。その娘は私生児なので後腐れもございませんし、本人にも納得させておりますわ」
無表情に頷くエマニー
確かに普通に結婚すればカサブランカは好きでもない男の子を生むことを求められることになる。貴族や王族の女性の多くも同じだ。思い悩んでいると
「だからといって私が輿入れする前に手を出したりはしないでくださいね。万一出産のタイミングが合わないなんてことになったら私が結婚前にそのような行為に及ぶふしだらな女だと思われる事になりませんから」
「誰が手を出すか!」
声を荒らげる。このことでこの話題を続ける気力をそがれる
結局有耶無耶のうちにこの奇妙な関係を受け入れる羽目になる王太子であった。
話が一段落してもカサブランカの写生は続く当然服を着ることを許されないアスコット。そんな彼女を見るエマニーの視線はひどく冷たいのだが、そのことに気づいたのはエルドレッドのみであった。
「あら殿下、まだいらしたの?そんなにアスコットの裸体をご覧になりたいのかしら。まあ彼女の裸体をお見せするのはこれで最後ですので、名残惜しいのはわかりますが・・・・ お見せしませんよ?」
彼女が脱がされる前に退出しようとしたのを引き止めた上、本来この部屋は王族のものであり手配したのは自分だというのにひどい言われようである。
その後カサブランカは宣言の通り奥宮を作り、多くの女性を引き入れ自分に侍らせるが、王太子には(国王に即位後も)指一本触れさせることはなかった。
なお、王太子とエマニーの間に生まれた子供が婚約破棄騒動を起こして失脚することになるのだが、それは別のお話である。
最後にある別のお話が『このあたくしが婚約破棄ですって!?(ラッキー)』です。
この王国では国王は無二の存在であり追うという称号があるだけで、公式には名前はありません。王太子もそれに習って王太子の称号のみです。