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そして次の舞台へと。

 結局――と、たまらず俺は叫んだ。


「結局、アンタが一番演技下手だったじゃねえか!」


「ごめんて!!!」


 ……昼前の学園長室である。

 

 他の生徒はホームルームでそれぞれのクラスに集まっているはずだが、俺とルネリアは免除されてこの学園長室に呼び出されていた。


 参った参った、と頭を掻くアンブレラ。

 こいつ……全然反省してねえな!


「いやあ、まさか台詞が全部飛んじゃうとはねえ……。

 はあ……私に役者の才能はないのかも」


 肩を落とす。

 おお、意外と落ち込んでいるのかと思いきや、


「あるのはただ……指導者としての器だけなのかな……」


 などと呟いている。だいぶ図々しい。


「まあでも、キミのフォローも酷いもんだったけどね」


「ああ!?!?!?!?」


「だ、だって本当だもん!」


 ……奴隷を引き連れた目つきの悪い男(俺)の残虐さを存分にアピールしたところで、止めに入る教師(に扮したアンブレラ)。


 さり気なく男の名がアルター=ダークフォルトであり、そして“彼”の名がセロ=ウィンドライツであることを説明。

 さらに教師がうっかりセロが無能力者ミュートレイスであることを明かしてしまい、アルターの嫌悪の対象となる。

 こうして、ふたりは出会うのだった――。

 

 ――というのが本来の流れだったがその教師役が役割を放棄して退場しやがったので、俺がアドリブでなんとかした次第だ。


 ……な、なんとか……なんとか、なってた……よな?

 

 正直、まったく自信はない。アンブレラの言うとおり、思い返せばだいぶ不自然だったような気もするが、ともあれ俺のせいではないはずだ。


「それにしても、ルネちゃんの演技力は非の打ち所がなかったねえ……」


「そうなんですよねえ……。

 はやく女優になれよ……」

 

「なぜかどうしても私を役者にしたい勢力がいるようですね」


 俺の後方で控えるルネリアが呆れている。


 もうお分かりかとは思うが、俺はあのとき暴行したり窒息させたりしていない。

 今朝の暴行劇はすべて俺のそれっぽいモーションに合わせた彼女の演技だったのだ……と説明したところで、信じる者は皆無だろう。


 とはいえ、俺に人ひとりを宙に舞い上がらせる脚力はないし、そもそもルネリアの戦闘力と剛性は非常に高い。その気になれば俺の全力キックなど難なく回避するか、棒立ちのまま受け止められるだろう。


「しかしあれ、どういう原理で吹っ飛んでたんだ?」


「腕力です」


「腕力……?」


「こう、地面をぐっと押して転がるだけです。誰でもできるかと」


「酸欠で顔色も悪くなってたけど……?」


「ただ息を止めるだけです。気合いです。誰でもできるかと」


「いやできねえよ」


 俺が役者志望だったらこいつを見た瞬間に絶望して田舎に直帰しているだろうな。


「まあ、ともかくルネちゃんのおかげでなんとかなって良かった!」


 めでたしめでたし、と続きそうだったがそんなわけもなく。


「じゃ、次はこれね」


「……ツギハコレネ?」


 とんでもなく嫌な響きの言葉が聞こえた気がしたが一体どういう意味だろう。


 まさか「次はこれね」と言われたわけじゃないとは思うが。

 まさか受け取れと言わんばかりに差し出されている紙束が、まかり間違っても次の“脚本”などではないと思うが!


「なにキョトンとしてるの。最悪の隣人、“アルター=ダークフォルトくん”の出番が今日で終わりなわけないでしょ」


「…………ウゥ」


「たしかに、アンブレラ様は『決闘して負けてもらう』というような旨のことをおっしゃっていましたね」


「ゥゥゥ…………!」


「こら。威嚇しちゃだめですよ」


 紙束をパラパラとめくるルネリアになだめられる。


 そりゃまあ、俺だってなにも今日で全てが終わると本気で思っていたわけではないが……。

 ないが!

 そう思い込むことで頑張れたところはあるじゃん!


「ウゥゥ……」

 

 鼻に皺を寄せながら“脚本”に目を通していく。


 書かれている展開を大まかに言えば「セロの意外な優秀さに日々プライドを傷つけられているアルターがブチ切れ、なんやかんやで決闘。接戦の末、番狂わせで無能力者のセロが勝利!」とのことである。

 

 気持ちのいい展開っすねえ~。

 衆目の前でボコされるのが俺という点を除けばなァ~~~!


「あの――確認しておきたい点が」


 すっとルネリアが挙手した。読み終えたらしい。


 てっきり「奴隷を虐めるシーン、もっと日常的に入れておきませんか?」とか言い出すのかと思ったが――。


「セロ=ウィンドライツ様は、対人戦闘に秀でた方なのですよね」


「うん、そうだよ」


「例えば、どこかのタイミングでウィンドライツ様がブチ切れてきた場合の……セーフティのようなものはないのでしょうか」


 …………たしかに!

 嫌がらせしまくることで、彼が突然本気で殺しに来る可能性は否めない。

 ……そうなったらどうしよう。


 そりゃ俺だって貴族の端くれである。一応剣術の心得くらいはないこともない。

 ……ないこともないが、ガチのやつとはまた話が違うじゃん。

 俺が剣を構えて礼とかしてる間に、向こうは唾で目潰しし金玉を蹴り上げてくるだろうな。

 

 まあでも、まさかそこらへん考えてないことはないよな、とアンブレラを見たがキョトンとしていた。

 ……とんでもなく考えてなさそう!


「アルターくんは凄く強いって聞いてたけど……」


 しかもガセネタを掴まされていた。なんだその情報は。



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