王先生と弟子
念動力に目覚めた友和だったのだが、随時使えるという訳ではないのだ。
つまり突発的にムズムズしてきてテレキネシスが使えるようになり、喜び勇んで物品を動かしていると、徐々に力が抜けたように能力が無くなるのである。
いつどのように念力が宿るのかは友和にも予測不能なのだ。
持続時間についても同じ事が言えた。
すぐに衰える事もあれば、暫く続く事もあった。
ともあれ王先生の治療院で不定期に行われる気功教室だけは、毎回参加する友和であった。
月謝を無駄にしたくないだけではなく、やはり何らかの因果関係を感じるからだ。
「ハイ! こんと江守さんやてみるか? ──
あいや、江守さん、あなた、とうしたの?
私には見えるよ。
さきから江守さんの(気)。満ち満ちてるよ。
弟子近藤、ちょと来るここ立つ。江守さん弟子近藤倒す。
ハイ! やてみる」
王先生に言われた通りに、立っている弟子近藤から2メートル程離れ、右足を前に出して、王先生と同じかけ声を出して、右手を開いたまま突き出す。
「はい!」
弟子近藤はすっ飛んだ。
危うく壁に頭を打つ処だったのだが、予測していた王先生が壁の前に待機していて、しっかと受け止めた。
「凄いね。──
江守さんの(気)の力、大変大きいね。
こんなの見た事無いね。
ヨシ! 決定。江守さん私とテレビ出るね。
出演料がぽり貰て、みんなて金玉楼行てパーティやるよ。
弟子たくさん集まる、お金儲かる。今の弟子みんな贅沢する。
江守さんのお蔭ね。
良かた、良かたね」
3人いる兄弟子達が笑う。
兄弟子達はいずれも友和よりもずっと若い人達で、気功師になれる程の者はいなかった。
皆二十代である。
近藤君、土方君、沖田君といった。
弟子近藤が尋ねた。
「江守さん、いつから(気)が宿ったんですか?」
友和が答える。
「半月前だよ。突然だ」
弟子土方が尋ねる。
「どんな状態で目覚めたんですか?」
「文太橋のたもとのおでんの屋台でな、ジャガイモが食いたいジャガイモが食いたいと、一心不乱に念じたんだ。そしたら鍋から飛んで来た」
爆笑であった。
弟子沖田が言った。
「僕は身体が弱くて入退院を繰り返しています。白血病なんです。少しでも丈夫な身体になりたくて、お医者の紹介で此処へ来たんです。僕もある日突然、江守さんのようになりたいなあ」
王先生が弟子沖田の肩を優しく叩きながら言った。
「きと、なれるよ。たれてもなれるはずたよ」
後日、分かった事なのだが、沖田君は白血病に加え、脳の難しい場所に腫瘍があって、余命半年との事であり、本人も近藤も土方も、勿論、王先生も、その事を知っているとの事なのだ。
子供の無い友和ではあったが、この息子のような年齢の沖田君の為に、何か出来る事はないだろうか? と、真剣に考えるのだった。
せめて沖田君の命のあるうちにフェロモン号と遭遇出来たら、超科学の力で治療は可能かもしれないのだが……。
善行から聞いたのだが、あのベントラーおじさんの「ベントラー」という言葉は、UFOを呼び寄せる呪文だと言う事なのだ。
たまに見かけるベントラーおじさんに向かって、
──ガンバレ! 頑張ってフェロモン号を呼び寄せてくれ!
と念じる友和であった。