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セカンド・ジェネレーションズ 〜逆襲の二世男子〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第5章 「愛と誠」

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05-04

 やや過呼吸気味になるナミ。

 再び溜まり始めた涙を堪え、肩と唇を震わせながら演説を続ける。


「私たちイルミンスールでは、男系長子承継制を教義のひとつとしています。そしてルイは次期教祖として相応しい人物であるために、私とナユタが手塩にかけて育てた大事な大事な息子なのです。ですが今、ルイは私の元にはおりません。記念会館で火事があった夜から音信不通になり、行方が分からなくなってしまっているのです」


 眉をひそめ、目には力が籠もり、カメラを鋭く睨みつける。


「焼け落ちたイルミンスール記念会館では、ナユタと覚しき死体と火傷をしたラタトスク以外は見つかっておりません。つまり、ルイは今もどこかで生きているということになります。連絡がつかない理由は定かではありませんが、きっと、必ず、生きていることでしょう。だって、あの子が……、あの子までもが……、死んでしまうはずがありませんから……」


 ハンカチで目頭と目尻を拭い、ひと呼吸を置く。

 深呼吸をしながら体の震えを落ち着かせる。


 カメラを見つめるナミの瞳は揺るぎない意志を宿していた。


「そこでラタトスクの皆さまにお願いがあります。ルイに関する情報が御座いましたら、私たちの元へとお寄せいただきたいのです。どんなに些細なことでも構いません」


 頭を下げ、上げる。


「愛する息子が突然いなくなってしまったという、この不安感。そのまま帰って来ないのではという、この恐怖。ご子息がいらっしゃる方であれば、ご理解いただける感情かと思います。そしてルイは、私の大事な息子であると同時に、皆さまの教祖となる人間です。ですから、どうか何卒、ご協力の程よろしくお願い致します」


 ナミは再び頭を下げ、そのまま配信が終了する。


「配信終了です!」


 パソコンを操作していた信者の合図を聞いたナミは顔を上げ、何食わぬ顔で懐からスマートフォンを取り出し、電話を掛ける。


「もしもし、あたしよ。今すぐ来て頂戴な。メイクを直しますからね」


 手短に用件を伝えると電話を切る。

 するとすぐに部屋の扉が開き、待機していた若い女性が入室して来る。


 その手には化粧箱。

 彼女はナミの呼び付けたメイクアップアーティストであり、イルミンスールの信者である。


 ナミに近付くなり、すかさずメイク道具を準備して手早く化粧直しを行ってゆく。

 その手際は良く、十分も掛からずに作業を終了し、一礼をしてから部屋を出た。


「それじゃ次、幹部向けの配信を始めましょ」


 パンパンと手を叩くナミ。

 パソコンを操作する信者は十秒を数え、配信が開始された旨の合図を送る。


「全国各地の幹部の皆さま、ごきげんよう。先程の配信はご覧になられたものかと存じます」


 打って変わって、冷たい表情と声色のナミ。

 一切の感情を読み取れない程に淡々とした態度である。


「さて早速、本題ではありますが、イルミンスール記念会館を燃やし、教祖ナユタを殺害したと思しき人物を探していただきたく、この配信を行っている次第でございます。その人物の名前は、桜田チヒロ。信仰心の薄いラタトスクにございます」


 配信の画面が静止画へと切り替わる。

 映し出されたのはチヒロの顔写真。


「火事のあった夜、イルミンスール記念会館にいた者の中で行方が掴めていない人物が五名おり、その内の一名がこの桜田チヒロになります。そして、次」


 写真がチヒロからヒカリへと切り替わる。


「彼女の名前は桜田ヒカリ。桜田チヒロの妹であり、行方知れずの一名です。きっと今も桜田チヒロと行動を共にしていることでしょう」


 配信の画面がヒカリの顔写真から、ナミの動画へと戻る。


「この二人が非常に怪しい。もはや黒であると言っても過言ではありません。なぜなら残りの三名は、私の息子であるルイと、その側近なのですから。是非とも皆さまには穏便に、そして内密に桜田兄妹を探し出していただきたい所存でございます」


 ナミはカメラに向かって深々と頭を下げる。

 そして、そのまま幹部向けの配信は終了した。


「はい! 終了しました!」


 配信担当の信者から声が掛かると、ナミは徐ろにカオルの髪の毛を雑に掴む。


「カメラマンさん、撮ってちょうだいな」


「は、はい……」


 言われるがままに、カメラマンは録画を開始する。

 痛みに耐えるカオルは反射的に目を細め、歯を食いしばった。


「あんたが代わりにいなくなれば良かったのに!」


 ナミはカオルの頬に思い切り平手打ちをする。

 肉と肉が弾ける大きな音が室内に響いた。


「あんたが代わりに死ねばよかったのに!」


 往復ビンタ。

 再び大きな音が響き渡る。


 カオルは左右の口角から血を流し、頬は赤く腫れ上がる。

 ナミはそんなカオルを引き摺ってカメラに近付くと、鬼の形相でレンズを睨みつける。


「ルイ、まさか貴方が私に反旗を翻すとは夢にも思っていなかったわ! 二世会なんてくだらない組織は解体して、さっさと戻っていらっしゃい! あなたが戻って来るまでカオルは厄介部屋に閉じ込めておきますからね!」


 こうして録画された暴力的な映像は、後に編集され、その動画ファイルはルイ宛てに送信された。

 ナミとカオルの顔はディープフェイクで別人の顔に変わり、背景には薄いモザイク処理が施されている。


 また音声も加工され、一部にはピー音も入れられていた。

 それらは、もしも動画が世に出回ってしまった際に、撮影者の特定が出来ないようにするための小細工である。


 ちなみに「厄介」とは過去に、国内のとある貧しい地域に存在した風習であり、長男以外の兄弟姉妹が長男のために働かされるという、ある種の奴隷制度のことである。

 彼ら彼女らは戸籍に「厄介」と記載されていたことが、その呼称の由来となっている。

Beethoven / Piano Somata No.17, 1st movement

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