04-04
雑居ビルが建ち並ぶ街中。
雀荘〈健康麻雀・華うらら〉の店長である華川シズヤは、フロアで接客と子供達の世話を見ていた。
華うららは一般的なフリーやセット卓の他に、シニアの部、ジュニアの部、レディースの部で麻雀教室が存在し、日中は老若男女問わず多くの人で賑わっている。
また、にゃんちゃっ亭同様、店員がみな若くて容姿端麗であることから、子供を麻雀教室に通わせるママさんコミュニティや若い女子の間でも人気が高い。
麻雀卓とは別に、広い室内の角には普通のテーブルが置かれており、子供の付き添いで来ている保護者がカフェとして利用出来る待ち合いスペースが設けられている。
若い母親達からの視線を浴びながら、シズヤはジュニアの部の卓で低学年の男子小学生に、七対子の待ち牌について力説していた。
「いいか、少年。白、發、中てのはスジなんだよ、スジ。数牌だけじゃなく、字牌にもスジがあるんだ。だから相手の河が散らかっていて、テンパイ気配が濃厚で、最後の手出しが字牌だったらスジ引っ掛けを疑って打たなきゃならん訳だな」
「はい、先生。次からは気を付けます」
「うむ、良き良き。じゃあ次局行ってみようか」
少年が全自動雀卓のボタンを押し、卓上の牌を落として再度ボタンを押すと、新たな山と配牌がせり上がる。
そのまま少年の後ろでアドバイスをしようとしていたシズヤであったが、スマートフォンが鳴ったので卓を離れた。
画面の表示は、総理のバカ息子。
西島ミキオからの着信である。
シズヤは従業員用の控室に場所を移し、電話に出る。
「はい、もしもし」
「シズヤか。その後どうだ?」
「怪我が痛いでーっす。顔とか絆創膏だらけでーっす。肋骨にヒビ入ってまーっす」
ルイとの戦闘で怪我を負わされたシズヤは、顔のあちこちに絆創膏を貼っていた。
「そんなことはどうでもいい」
「どうでもいい訳あるか、ボケ! こちとらイケメンをセールスポイントにして商売しとるんじゃい!」
「で、その後、捕らえた二世会の連中は何か吐いたか?」
「……ったく、相変わらず国民の声を聞く力の無ぇ政治家だな。街頭演説中にブッ殺してやろうか?」
「止めとけ。組ごと潰すぞ」
「けっ、冗談の通じねぇ野郎だ」
「冗談になっとらん」
「はぁ……。奴らは何も吐いてねぇよ。今も親父ん所でキツめの拷問を受けてるはずなんだけどな。よっぽど口が堅いのか、或いは何も知らないか」
「藤原ルイの迎えを任された奴らだぞ。何も知らない筈はない。二世会の中でも、特に純度の高い情報を持っているはずだ。必ず何か吐かせろ」
「うい」
「絶対に殺すなよ」
「うちの親父がそんなヘマこくかよ」
「それじゃ」
「う〜い」
通話を切ったシズヤは卓の並ぶ部屋へと戻ろうとするが、扉に手を掛けたところでスマートフォンが再び鳴り出す。
「ちっ、今日は電話が多い日だ」
画面に表示されているのは見知らぬ電話番号。
その下四桁は「0110」であった。
シズヤとの通話を切ったミキオは議場に入り、自分の議席に着く。
休憩時間が終わると国会審議が再開した。
演壇では自由勤民党の議員が特定電気通信規制法の改正案について発言をしていた。
その趣旨は、SNS上における有害な情報の発信に規制をかけようというものである。
その目的が、自由勤民党による言論統制であることを知っているミキオは発言を聞くこともせずに、右隣に座る真世界党所属の年配議員に話しかける。
彼もまたイルミンスールの信者であった。
「その後、進捗いかがでしょうか?」
「華川組の若頭が見たという、藤原ルイと一緒に逃げた若い男女だがね、どうやら桜田チヨコという信者の子供である可能性が高いそうじゃ。桜田チヨコには大学生の息子と高校生の娘がおってな、昨日の会合に出席しておる。そして二人共、記念会館に来た記録は残っているんじゃが、出て行った記録が残っておらず、現地のどこにも見当たらなかったそうなんじゃ」
「なるほど、当たりの可能性が高いですね。それで、その二人の足取りは?」
「公安を使って二人のスマホの位置情報を追わせておるが、それぞれが別れて南北に移動しておるそうじゃ。息子の方が北に、娘の方が南に。これは恐らくブラフじゃろうな。全くの別人がスマホを持って移動し、捜査の撹乱を図って時間稼ぎをしているだけじゃ」
「小賢しいですね」
「一応、両方を追ってはいるんじゃが、捕まえたところで本人ではないじゃろうし、大した情報も得られんじゃろうな。どうせ二世会の下っ端じゃろうて」
「そうですか。しかし、ルイの仲間が誰なのか、それが分かっただけでも収穫ですよ」
「桜田チヨコと娘が住む家と、息子が一人暮らしをしているアパートには本庁の捜査員が向かっておるそうじゃ。何か目ぼしい物が出て来ると良いのじゃが」
「すみませんが、引き続きよろしくお願いします」
「うむ」
そう答えると年配の議員は瞼を閉じ、躊躇いもなく居眠りを始めた。
ミキオは続いて、左隣に座る自由勤民党の中年議員に話しかける。
「その後、進捗いかがでしょうか?」
「どうもこうも無いよ。なんで藤原ルイを逃がしちゃうかね?」
「すみません。その件については改めてお詫びいたします」
「しっかりしてくれないと困るよ? 総理の息子なんだからさ」
「はい。申し訳ございません」
「華川の車、見つかったそうだ。あすなろ署に通報があったらしい。不審車両が違法駐車されているとな。で、所轄の刑事が調べていたそうなんだが、本庁の人間が行くまで迂闊に触らないように言ってある。そっちで一通り調べたら返してやるよ」
「すみません、ありがとうございます」
「こっちはそんなもんだね。じゃ、きっちり後処理しといてよ」
「はい」
そう言い付けるなり中年の議員はスマートフォンを取り出し、馬券の購入を始める。
ミキオが議席をぐるりと見渡すと、出席している議員の殆どは寝るか、談笑するか、スマートフォンを密かにイジるかという、見るも怠惰な光景が広がっていた。
Puccini / Nessun Dorma




