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セカンド・ジェネレーションズ 〜逆襲の二世男子〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第3章 「暴力と権力」

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03-04

 満足部屋に放たれた火が燃え盛り、発生した大量の煙。

 それを堰き止めるために、ルイは隠し通路の扉を閉じていたのである。


 そして戦闘中、不利を装って壁際にシズヤを誘い込み、機会を見計らって扉を開放。

 行き場を失って溜め込まれていた煙が、シズヤを襲ったという次第であった。


 ルイは息を止めながら、隠し通路の扉を閉める。

 すると煙の流出が止まり、空気中に漂う分は風に流されて霧散した。


「さぁ、逃げよう、チヒロ君」


「こいつの持ち物は漁らなくていいのか?」


 チヒロは倒れているシズヤを指差す。

 ルイは腕時計を見て現在の時刻を確認する。


「そうしたいところだけど、時間が惜しいかな」


 ルイはチヒロから鞄をひとつ受け取り、落ちていたランタンを拾って茂みの中を進んで行く。

 チヒロはヒカリの手を引き、ルイの先導に従って後を追う。


 数分歩くと三人は森を抜け、イルミンスール記念会館と市街地を繋ぐ車道に出る。

 そこは日中にチヒロが歩いて通った、片側一車線の道であった。


 道路上には外灯が点々と存在しており、光が届く範囲は明るいが、そうでない場所は真っ暗である。

 ルイは辺りを見回すと、道の途中にある待避所を見つけ、そこに車が停まっているのを確認する。


 三人が近付くと、待避所には二台の車があった。

 そのうち一台はシズヤのパナメーラ。


 もう一台は六人乗りの乗用車である。

 ルイはランタンを顔の高さに持ち上げて、乗用車の中を覗き込む。


「やはり誰も乗っていないか。これが二世会の車なんだが……」


 その時にチヒロが見たルイの横顔は、とても悲しそうなものであった。


「さっきの奴らに襲われたのかな」


「恐らくね。僕を殺すつもりはなかったみたいだから、もしかしたら彼らも生きているかもしれない……。という希望的観測を抱くことにするよ」


 市街地の方角から、消防車のサイレン音が聞こえ始める。

 そして、それは徐々に近付きつつあった。


 ルイはチヒロから車の鍵を受け取り、ボタンを押してロックを解除する。

 チヒロはヒカリと荷物を後部座席に乗せると、自分は助手席に座る。


 それを見たルイは運転席に乗り込んだ。


「免許は持っていないのかい?」


「献金で金が無いからな。教習所にも通えやしない」


「……すまない」


「だから言っただろ、俺は役立たずだって。運転は任せた」


 ルイは頷くとエンジンを掛けて車を発進させる。

 緩い坂道をゆっくりと下っていると、途中で三台の消防車とすれ違う。


 回る赤色灯が車内を照らし、けたたましいサイレンの音が後方に遠く離れていく。


「ルイ、もしかして火をつけたのか?」


「そうだね。状況をややこしくて、時間を稼ぐ為の隠蔽工作さ。ちなみに消防に通報をしたのも二世会の人間だよ。記念会館には二世会のメンバーが何人か残っていて、普通の信者の振りをしながら僕の指示に従って動いてくれている。彼らにもアリバイが必要だ」


「消防車ってもっと早く来るイメージなんだけど、もう結構な時間が経っているんじゃないか?」


「記念会館の自動火災放置器を意図的に切ってあったのさ。これも二世会の仕業だ。そして、敢えて遅れて通報をしたのも二世会の仕業だね。全て仕組んであることだよ」


「普通の信者は残っていないのか?」


「君が父を殺した後に、僕が指示を出して普通の信者は家に帰らせた。僕の母と弟も含めてね。今あそこに残っているのは全員が二世会のメンバーなんだ」


「すごい徹底ぶりだな」


「そう。前フリ無しで咄嗟にここまでのことが出来る程に、二世会の規模は大きいんだ。それだけイルミンスールを恨んでいる信者が多いってことさ。チヒロ君と同じくね」


「なるほど」


 山を下り終えると交差点の信号に捕まり、停車する。

 赤信号を待っている間に、街の方からパトカーと救急車が複数台、サイレンを鳴らしながら走って来る。


「顔を伏せて」


 ルイの言う通りにチヒロは頭を低くする。

 パトカーと救急車をやり過ごした二人は顔を上げ、青信号に変わった交差点を発進する。


 進む方向は、市街地とは逆方面。


「ところで、俺たちを襲ってきた連中は何者なんだ? 心当たりはあるのか?」


「無い……、こともない」


「どっちだよ……。昔、裏切り者がいたみたいな話をしていたし、内通者がいるんじゃないのか?」


「チヒロ君が父を殺した後、僕は記念会館にいた二世会の何人かに声を掛けたんだ。そして、そこから更に他の二世会のメンバー数名に情報と指示が行き渡った。チヒロ君の言う通り、その中にスパイないし裏切り者がいたんだろうね。で、そいつらが、また別の何者かに情報を流した結果、送り込まれた刺客があのハリネズミ君てところかな」


「その何者かまでは分からない、と」


「父が死んで困る人間も、悪事の資料を晒されて困る人間もごまんといるからね。その中の誰かなんて特定は出来ないさ。今は、まだ」


「あっ、財布とスマホを拾ったのはそういうことか。身分証明書を見れば、あいつらが何者なのかが分かる」


「取っておくのは財布だけでいいよ。スマホは捨てようか。どうせロックが掛かっているだろうし、位置情報を追われたくないし」


 ルイは川に架かる橋の上で車を停める。

 夜も更け、街から離れているため人も車も通らない。


「今? ここで?」


「丁度いいじゃないか。窓開けて、こんな感じでポイッて」


 そう言いながら、ルイは平然と自分のスマートフォンを川に向かって投げ捨てる。


「環境破壊は気が引けるなぁ」


「仕方ないさ。壊れてくれなきゃ現在地がバレて困るからね」


「わかった」


 チヒロは窓を開け、襲ってきた男達から回収した三台のスマートフォンを川に向かって投げ捨てる。

 ポチャン、ポチャン、ポチャンと、水面を叩く音が静かな夜空に響き渡った。


 ルイは再びアクセルを踏むと、橋を渡った先の交差点でユーターンをして進路を変える。

 方向は、市街地方面。


「なぁ、ルイ。俺たちはこれから、どうなっちまうんだ?」


 口角を上げ、「さぁね」と言いたげな表情を浮かべるルイ。

 チヒロの問いに答えることはしない。


 ラジオのチャンネルを変えて、音量を上げ、スピーカーから流れてくる音楽はクラシック。

 追いかけても逃げていく月を目指して、ルイは車の速度を上げてゆく。

Debussy / Clair de lune

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