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セカンド・ジェネレーションズ 〜逆襲の二世男子〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第3章 「暴力と権力」

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03-01

 雑居ビルが建ち並ぶ街中。

 保護猫カフェ〈にゃんちゃっ亭〉の店長である華川シズヤは、フロアで接客と猫の世話をしていた。

 

 銀色に染まっている短髪はワックスではね上げられており、両耳にはピアス。

 左目には縦方向に切り傷の跡があり、見た目は柄の悪い輩かチンピラのようであるが、客にも猫にも優しい男である。


 首からエプロンを掛けてはいるものの、黒いワイシャツと白いパンツには猫の毛が付着しており、その姿はシズヤの面倒見の良さを物語っている。

 捨てられた子犬を可愛がる不良がモテるのと同じ理屈で、顔の良いシズヤが献身的に猫を可愛がるにゃんちゃっ亭は、いつも女性客で賑わっていた。


 この店には猫が目当ての客の他に、シズヤを目当てとする客も来るということである。

 また、シズヤ以外のスタッフも若くて見た目の良い青年が揃っており、彼らの丁寧な接客のおかげで、にゃんちゃっ亭はホストクラブ顔負けの太い常連客を多く抱えて繁盛していた。


 受付のレジの上で寝る、片目の無い茶トラの猫を撫でるシズヤのスマートフォンが震える。

 シズヤはエプロンのポケットからスマートフォンを取り出し、画面を確認する。


 〈総理のバカ息子〉という表示を見るなり舌打ちをすると、猫が逃げ出さないように慎重に入り口の扉を開閉し、店の外へと出る。

 そして周りに人気が無いことを確認してから、通話ボタンをタップした。


「シズヤか? ミキオだ。いま大丈夫か?」


 電話口から聞こえる男の声は、ミキオと名乗る。


「大丈夫じゃないですぅ。これから猫カフェの閉店作業に入ろうとしてたとこなんですけどぉ。つか、こんな夜中に何すか?」


 露骨に声に抑揚をつけて返答し、不機嫌であることを遠回しに伝えるシズヤ。


「今から行ってもらいたい所がある」


 シズヤの回答を無視し、ミキオは用件の説明に入る。


「ちょ、待てって。俺の声聞こえてますかぁ? 猫ちゃんの、カフェちゃんの、閉店作業ちゃんが、あるって言ってんの!」


 苛立ったシズヤは眉間に皺を寄せ、声のトーンを上げる。


「大至急、捕まえてほしい人物がいるんだ」


「おい、こら、人の話を聞けよ! 国民の声を聞くのが政治家の仕事だろが! こちとら律儀に税金を払ってんだぞ! 高っかい高っかい税金をよぉ!」


「詳しい場所と、対象となる人物の情報を送る。生け捕りだからな。絶対に殺すなよ」


「勝手に話を進めんな! おい、こら――!」


 ミキオに一方的に通話を切られ、ツーツーと話中音が流れる。

 シズヤは仕方なく通話アプリを閉じると、直ぐ様ミキオから矢継ぎ早に大量のメッセージが届く。


「……あんの野郎」


 一気に溜まった通知をタップし、メッセージの内容をひとつひとつ確認する。

 目的地の住所、地図アプリとのリンク、捕獲対象者の基本情報と顔写真、そして謎の地図のような画像。


 シズヤはひとまず地図アプリのリンクをタップすると、イルミンスール記念会館が表示される。


「大至急って、まぁまあ遠いじゃねぇか。てかこれ、やべぇ噂しか聞かねぇカルト宗教だよな」


 地図アプリを閉じると、次は捕獲対象者の情報と画像を開く。


「んで、その教祖の息子を捕まえろってか? なんで? はぁ、冗談キツいにゃん……」


 シズヤは項垂れ、壁に手をつき、溜め息を吐く。




◇◇◇◇◇




 チヒロは項垂れ、壁に手をつき、溜め息を吐く。

 屈まなければ頭をぶつけてしまう程に天井が低く、人ひとりがやっと通れる程の細くて狭い通路を延々と歩き、疲労が蓄積していた。


 ヒカリの手を引きながら、チヒロはルイに指示された通りに一本道を進み続けてゆく。

 日の光が入り込むこともなく、換気口があるわけでもないため、通路内の空気は湿ってカビ臭い。


 重たい荷物を持ち、ヒカリを引き連れ、無理な体勢で暗く狭い通路を歩くチヒロ。

 重なった悪条件の中で移動しているせいで二人は、牛歩のようにゆっくりと進むことしか出来なかった。


 閉塞感と先行きの見えない緊張感から、息苦しさを感じて呼吸が浅くなる。

 聞こえるのは、自分たちの息づかいと足音だけ。


 次第に時間の感覚や距離の感覚が徐々に麻痺してゆく。

 しかしチヒロは、無限に続くのではないかと思われた暗闇の先に一筋の光を見つけた。


「ヒカリ、頑張れ。あと少しだ」


 出口という名の希望を目の前にし、自然と笑みが零れるチヒロ。

 通路の終着点に辿り着くと、そこにはコンクリート製の扉があった。


 扉にはアルミニウム製の朝顔ハンドルが付いており、がっちりとロックされている。

 光は扉の小さな覗き穴から射し込んでいた。


 チヒロは手持ちの鞄とランタンを地面に置くと、両手でハンドルを握って回す。


「ふんっ――!」


 渾身の力を込めるチヒロ。

 踏ん張り、歯を食いしばり、軋むような音を立てるハンドルをじりじりと回してゆく。


 目一杯までハンドルが回ったところでチヒロは、扉に全体重を掛ける。

 すると押された扉はゆっくりと開いてゆき、通路には月明かりがたっぷりと注ぎ込む。


 ルイの言っていた通り、外には鬱蒼とした森が広がっていた。

 扉が開いて空気の通り道が出来たことにより、通路の奥から外に向かって風が流れ出る。


 その風は、ほんのり焦げ臭い気がした。

 チヒロは鞄を持ち、ランタンの小さな明かりを頼りに、ヒカリを連れて暗い森に恐る恐る足を踏み入れる。


 振り返って遠くから隠し通路を見ると、扉は敷地の外壁に埋まるような形で設置されていることに気がついた。

 扉の外側の色や材質が壁に似通っていることから、ぱっと見では扉と判別出来ないように擬態させてあるのだろうとチヒロは思った。


 再び歩き出そうとした瞬間、チヒロの視界に黒い人影が入り込む。

 数メートル先、茂みの暗がりに一人。


「こんばんは。ルイ様の命により、あなた方を迎えに来ました」


 声の主は男。

 暗がりから歩を進め、月明かりを浴び、男は姿を顕にする。


 銀色の短髪に、両耳にはピアス。

 黒のワイシャツに、白のジャケットとパンツ。


 そして左目には、縦長の切り傷の跡。

Beethoven / Piano Sonata No.14, 1st movement

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