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セカンド・ジェネレーションズ 〜逆襲の二世男子〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第2章 「教祖と信者」

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02-05

「何度死のうと思ったことか。何度、自分で自分で自分を傷付け、自殺を試みたことか。でもね、人間って思っていた以上に生命力が強いんだ。生半可な覚悟じゃ死ねないように出来ているんだよね。お陰で今もまだ、こうしてのうのうと生きている。僕という存在を望む人間と、望まない人間の狭間で、押し潰されそうになりながら――」


 ルイは服から手を離し、落ちた袖は痛々しい腕の傷跡を隠す。


「僕の気持ちは誰にも理解出来ないだろうと思ったよ。全てを諦め、世界を呪ったよ。この世に自分を産み落とした両親を恨んだよ。でね、そうしている内に、こう考えるようになっていったんだ。悪いのは産まれてきた自分ではなく、自分を産んだ両親なんじゃないかって。自分で自分を責める必要はないんじゃないかって。僕は何も悪くないんじゃないか、ってね」


 満面の笑みを浮かべるルイ。

 チヒロにはその笑顔が神々しいものに感じられた。 


「そこからさ、僕が二世会を作り始めたのは。自分のことを嫌う人間に積極的に働きかけ、自分の胸の内を曝け出し、必死に説得して組織を作り上げたんだ。もちろん中には同意してくれない人もいた。両親に告げ口をする裏返り者もいた。両親から邪魔をされることもあったよ。でもね、僕は諦めなかった。両親は僕のことを殺す訳にはいかないことを知っているからね」


「……教義か」


「そう、イルミンスールの教義では男系長子承継制が採用されているんだ。だから両親は僕の邪魔は出来ても、殺すことは出来ないんだよ」


 男系長子承継制とは、長男が家督を継ぐという風習である。


「そして、その逆は可能。僕は両親を殺すことが出来るんだ。だから僕は、両親を死に追いやろうと決めたのさ。しかも、徹底的にね。だから、もしかしたら、今の君になら、多少なりとも僕の気持ちを理解してもらえるかもしれないと思ったんだよ。僕の父を殺したチヒロ君にならね」


 チヒロはルイの心を理解しようと思っていた訳ではなかった。


「僕と君の気持ちは同じさ。そうだろう?」


 しかしルイの言葉と気持ちを、殺意という概念を通すことで、ほんの僅かばかり理解出来た気がした。

 チヒロは、ルイの語った人生を自分の人生と重ねて見てしまったのである。


 そして不意に、一筋の涙が頬を伝う。


「クソっ……。何を泣いてるんだ、俺は……」


 一度ならず二度までも、ルイに殺意を向けたという事実。

 そして今、ルイに対する理解を示しかけているという事実。


 正反対の事実の狭間でチヒロの心は揺れ動く。

 もしかしたら自分よりも辛い人生を送ってきたかもしれないルイを思うと、何故か涙が止まらない。


「君が父を殺した後に、僕を殺そうとしたのは自然なことさ。だって僕が君なら、君と同じことをするだろうから。だから泣かないでおくれ」


 チヒロは心の中を見透かされたような気持ちになる。


「僕は君の心を理解しているつもりだ。そして君も今は、僕の心を理解しているんじゃないかな? さて、ここで改めて提案だ。このまま僕と行動を共にし、戦ってくれはしないだろうか?」


 ルイはチヒロに近付き、手を差し伸べる。


「しかし、俺に何が出来る? 俺なんかに何が出来るっていうんだ? 何の役にも立たない、出来損ないの、この俺に……」


「出来損ない? 君が? 何でそう思うの?」


「何でだろう、分からない……。でも昔から、そうなんだ。子どもの頃から、ずっと出来損ないなんだ。そう母親に言われてきたから……」


 俯くチヒロ。

 ルイは両手でチヒロの顔を包み込む。


「僕はね、四年前に二世会を立ち上げたんだ。そしてイルミンスール解体のための準備を着々と進めてきた。でね、実は一年位前から、やろうと思えば計画を実行に移せる状態だったんだよ。でも、そうしなかった。出来なかったんだよ。怖かったんだろうね、きっと。両親を死に追い込むと意気込みながらも、心のどこかで怖気づいていたんだ、僕は」


 チヒロの顔をゆっくりと上に向け、目線を合わせるルイ。


「でも君は、チヒロ君は、僕が恐れて出来ずにいたことをいとも簡単にやってのけた。それはとてもすごいことだ。だから君は出来損ないなんかじゃないよ」


 頬から肩へ、肩から背中へとゆっくり両手を回し、ルイはチヒロを優しく抱き締める。


「君は僕の背中を押してくれたんだ。君は僕にとって救世主なのさ」


 ルイの言葉にチヒロは救われる。


「俺に、出来るかな……?」


「出来るさ。君と僕なら、絶対に」


 そして希望を抱き始める。


「でも戦うって言ったって、何をどうすればいい?」


「僕と一緒に身を潜めて時間を稼いでほしい。状況を複雑にし、母や警察、その他の敵の目から父が死んだという真実を隠す。そして生み出された猶予を使い、イルミンスールを潰すのさ」


「潰す? どうやって?」


「この部屋にある資料を少しずつ世間に公開し、世論を味方につけるんだ。スキャンダルってやつだね。そうやって火をくべてしまえば、後は勝手に燃え広がる」


「スキャンダル――」


「そうさ。資料は大量にある。流石に僕一人では持ち切れないから、一緒に持ち出してくれないか?」


 ルイはチヒロの両肩を掴み、再び目線を合わせる。


「三人で一緒にここから逃げよう。君たちが眠っていた間に手はずは整えてある」


 チヒロは未だ自分の腰元で泣いているヒカリを見下ろす。

 ルイの提案を断ったところで、自分にもヒカリにも不幸な人生しか待っていないということは明らかであった。


 殺人犯として逮捕され、刑務所に入るという自分の未来。

 殺人犯の妹として、世間から冷たい目で見られながら生きなければならないヒカリの未来。


 そして存続し続けるイルミンスール。

 そんなことにしかならないならば、とチヒロは決断を下す。


「……分かった。俺で良ければ協力するよ」


 チヒロは肩の上にあるルイの手を握り締める。

Satie / Sarabande No.2

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