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セカンド・ジェネレーションズ 〜逆襲の二世男子〜  作者: あゐおゐ ゑゐる
第1章 「22歳の出会い」

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01-12

 会合が終わりホールを出たチヒロは、トイレの洗面所で顔を洗う。

 鏡越しに自分の顔をまじまじと見ると、目立った怪我こそ無いものの目の下には隈が出来ており、心なしかやつれているように見えた。


「はぁ、死にてぇ……」


 そう独りごち、チヒロはハンカチで顔を拭く。

 洗面台に置いていた自分で買った花束を持ってトイレから出ると、そこにヒカリの姿はなく、チヨコだけが待っていた。


「……お待たせしました」


 腕を組み、仁王立ちをするチヨコの顔は怒りに震えており、罵詈雑言を浴びせられるのは火を見るより明らかであった。


「……今日は、すみませんでした」


 チヒロは反射的に謝罪の言葉を口にする。


「言いたいことは家に帰ってから言うわ。ここで言っても、周りからみっともないと思われるだけだもの。もうとっくに、みっともないって思われているでしょうけどね」


「……ごめんなさい」


「ったく。まぁいいわ、アンタもとっとと荷物を取ってらっしゃい。帰るわよ」


「……はい」


 チヒロはふと、この場にいないヒカリの所在が気にかかる。


「そういえば、ヒカリは?」


「控室よ。あの子も荷物を取りに行ってるわ。ほら、アンタもさっさと行く」


「行ってきます」


 小走りでホワイエから控室に移動するチヒロ。

 会合に参加した信者たちは概ね退館し、建物内の人気は薄くなっていた。


 会合が終了したことで、控室がある通路の照明は部分的に消えており、辺りは薄暗くなっていた。

 チヒロは記憶を辿りながら、複数並ぶ部屋のうち、いずれがヒカリの控室であったかを探す。


 廊下にあるいくつもの扉の中に、隙間から光が漏れ出ている扉を見つけ出したチヒロ。

 うろ覚えでありながらも、チヒロはその扉のノブに手を掛ける。


 扉を開けようとした刹那、中から人の話し声が聞こえた。

 低い男の声である。


 チヒロは部屋を間違えたかと思ったが、続いてヒカリの声も聞こえてくる。

 どうやら部屋を間違えたのではなく、ヒカリが中で誰かと会話している様子であった。


 しかし、誰と?

 そう疑問に思ったチヒロは気付かれないように静かにノブを回し、ゆっくりと扉を少し開ける。


 隙間から部屋の中を覗き込むと、そこには教祖であるナユタと親しげに会話をするヒカリの姿が見えた。

 二人は部屋の奥で話をしていたため、会話の内容までは聞き取れない。


 不意にチヒロは思い出す。

 教祖は女癖が悪く、若い信者に手を出しているという噂を。


 途端にチヒロの思考回路はぴたりと止まり、会話をする二人から目が離せなくなる。

 荷物を取りに来たという目的などは、とうに頭の中から消え去っていた。


 何か善からぬことが起こるのではないか、という予感と悪寒に心と体が戦慄く。

 瞳孔が開き、瞬きを忘れ、呼吸は浅くなり、目と口の中が渇く。


 チヒロの全神経は二人の動向に集中していた。

 教祖と妹による謎の蜜月に心を奪われていた。


 心臓の動悸が速くなり、他の音が聞こえなくなるほどに鼓動が大きく聞こえる。

 噴出するアドレナリンが体内を駆け巡る。


 そんなチヒロの昂りが限界に達する変化が起こる。

 ナユタはヒカリの肩に右手を置き、左手を腰に回す。


 そして、そのまま自分に引き寄せ、ヒカリを強く抱き締める。

 愛おしげな表情で妹を抱擁する教祖。


 その光景を目にしたチヒロの昂りは限界を突破した。

 激昂は再び、積もり積もった負の感情を派手に舞い上げるための引き金となった。


 父親を自殺にまで追い詰めた相手が目の前にいる。

 母親を引きずり込み洗脳した相手が目の前にいる。


 妹に手を出そうとしている相手が目の前にいる。

 俺の人生を大きく狂わせた相手が目の前にいる。


 やはり、こいつは許せない。

 こいつだけは決して許してはならない。


 この世に生きていてはならない存在なのだ。

 だから、殺す。


 そう、こいつは殺されるべくして殺されるのだ。

 死して然るべき人間なのである。


 何なら人間ですらない。

 こんな奴に人権など欠片も必要ない。


 獣だ。

 奴は野蛮で下等な獣だ。


 死ね。

 死ね。


 死ね。

 死ね。


 死ね。

 死ね。


 死ね。

 死ね。


 チヒロの中でぐるぐると渦巻く思考と殺意が覚悟に変わり、そして行動へと移る。

 殺人という、行動に。


 チヒロは音がしないようにゆっくり扉を開けると、息を殺して部屋の中に入る。

 足音を殺して近付き、二人に気付かれずにナユタの背後にまで距離を詰める。


 衝動に駆られているにも関わらず、チヒロの動きは全て冷静沈着であった。

 ステージ上での失敗と失態は結果として予行演習となり、今現在こそが本番と相成ったのである。


 チヒロは胸ポケットから折りたたみ式ナイフを取り出し、静かに刃を表に向ける。

 両手で逆手にナイフを握り締めると、両腕を上に大きく振りかざす。


「死ね」


 チヒロは小さく呟くと、全身全霊を込めてナイフを振り下ろし、ナユタの背中に突き立てる。


「がっ――!」


 深く突き刺さったナイフを引き抜くチヒロ。

 ナユタは衝撃と痛みでヒカリを放し、前のめりになる。


「死ねぇっ!」


 再びナイフをナユタの背中に突き立てるチヒロ。

 ナユタは更に前のめりになると、その勢いに押されたヒカリが数歩後退る。


「だっ、誰だ!」


 自分を襲撃している人間の正体を知ろうとすべく、振り返ろうとするナユタ。

 しかし、チヒロは手を緩めない。


「ヒカリ! こいつから離れろ!」


 鬼気迫る表情のチヒロに気圧されたヒカリは更に後退し、壁に背中を預ける。

 それを確認したチヒロは右足でナユタを足蹴にし、反動で背中からナイフを抜き取った。


「ふんがっ――!」


 顔から床に勢いよく倒れ込んだナユタは、情けない声をあげる。

Verdi / Messa da Requiem, Dies Iræ

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