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死にたがりと生きたがり  作者: 久田優美
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4章 答え合わせ


「起立、礼、ありがとうございました」


「ありがとうございました」


授業から解放され、休み時間は私の心が安らぐ数少ない時間。そそくさといつもの場所に向かう。そこは私が知る中で一番空に近い場所だ。


太々と赤いペンで『施錠中』『立ち入り禁止』と書かれた貼り紙まで用意されているのに、実は鍵が開いていることに気づいて久しい。


怒られたらその時はその時だ。立ち入り禁止ということは、立ち入って私を見つけた時点で同罪なんだから、咎められる筋合いは無い。


無論これは屁理屈だと自覚しているが、心の安寧には代えられない。この時間が無ければ、私は私であり続けられないと確信していた。


ぼーっと空を見上げ、心の中を空っぽにする。この瞬間だけは何もかも全部忘れて無になれる。誰にも邪魔されることない秘密の時間。しかし、今日に限ってはそうもいかなかった。


「おい!そこで何してんだ!」


まさか屋上に他の人が来るとは思わず、身体がビクッとした。


「今、飛び降りようとしてただろ」


そんなわけないじゃん。たしかにこの世にはうんざりしてる。ここから飛び降りたら楽になれるかなって思ったことは何度もある。でも、まだダメなの。このままじゃ、あの綺麗な世界に行けない気がするから。


「人助けのつもり?ヒーロー気取りの邪魔しちゃってごめんなさいね。飛び降りれば良かったかしら」


相手は呆気に取られて立ち尽くしている様子だ。

こんなことが言いたいわけじゃないのに、言葉が勝手にスルスルと出ていく。


「クラスの人気者がこんな所にいて良いの?」


「休み時間は好きに過ごせば良くね?それよりお前、いじめられてるんだろ?一目散に教室を飛び出してるみたいだけど、大丈夫か?」


なにそれ。わざわざそんなことを言いに来たわけ?


「私はいじめられてなんかない!要らない喧嘩を押し売りされてるだけよ!」


「そう強がるなよ」


溢れそうになる涙を必死に堪える。強がってなんかない。認めたくない。


「あんたはこれっぽっちも悩みなんて無さそうで良いよね」


「悩み……うーん、悩みか……。もう苦しみたくないからな。贅沢も言ってられないかなって」


大地の意図が全く分からなかった。こんなに幸せそうな奴でも苦しむことくらいあると言いたいのだろうか。


「生きてたらさ、そりゃ色々あるだろ。変化こそ生きてる証なんじゃね?」


変化が生きている証……?私はただ穏やかに暮らしたいだけなのに、家の中が騒がしくなるのも、学校で酷い扱いを受けるのも、生きているからこそだというならば迷惑な話だ。


「止まない雨は無いって慰めよりも今すぐ傘が欲しいんだって思うかもしれないけどさ、生きてなきゃ、その雨が止むかどうかすら見届けられないんだ。雨が降ってる間はどうしてもその先にあるかもしれない虹が見えないんだよな。辛いよな」


「無理に同情しなくて結構よ。好きでこうなったわけでもない私の現状が変わる見込みは無いから。今までも、これからも」


「そう決めつけんなよ。俺はチャンスをもらえたから足掻こうと思ってるってだけの話だから、サラッと聞き流してくれ」


ますます意味が分からなかったが、私には関係のない話だと認識した。


「因果応報ってほんとにそうなのかな」


「は?ほんとに何しに来たの?」


「俺さ、思うんだよ。良いことしたから良いことが起こる、悪いことしたから悪いことが起こるなんて単純な世界じゃないよなって」


それはその通りだと思う。


「もちろんどうしようもないことだってあるかもしれないけどさ、無数の道が存在してて、無数の選択を繰り返して、地図を広げていけるのは自分だけなんだ」


「そんな冒険家みたいな人ばかりじゃないでしょ」


「そう!地図を広げないのも自由!人生一度きりなのに、まだ見ぬ世界を見られないのはもったいないと思うけど、そう思うのは俺の勝手でもある!」


「あっそ、好きにすれば良いんじゃない?」


目の前に広がるのは、所々に白い雲が浮かぶ青い空、赤や黄のグラデーションが美しい山、屈託のない笑顔。この世も捨てたもんじゃないかもしれない。


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