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死にたがりと生きたがり  作者: 久田優美
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2章 大地の日常

「……いち、大地(だいち)!遅刻するよ!起きて!」


母さんの声で目が覚める。もう少し寝ていたいけどそうもいかない。


「朝ごはんできてるから早く食べちゃって」


「はーい、すぐ降りるー」


スゥーっと深呼吸すると、おいしそうな匂いが鼻をくすぐる。今日の朝ごはんは何かなとワクワクしながら階段を降りた。リビングに向かうと、父が新聞を読みながらコーヒーを飲む姿が目に入った。


「父さん、おはよー」


「おはよう、ぐっすり寝てたみたいだな」


「最近、部活がハードでさ、ちょっと疲れちゃってるかも」


「あまり無茶しないようにな」


「うん」


食卓に並んでいたのは、黄身がトロッとしてそうな半熟の目玉焼き、ちょっぴり端が焦げて香ばしいウインナー、カリッときつね色に焼き上がったトースト、ほんのり甘い香りの温かいコーンスープ。椅子に座り、トーストにバターをじゅわぁと塗りたくる。


「いただきます!」


「ケチャップいる?」


「いるー」


ウインナーをかじるとパリッと音を立てた。うん、うまい。夢中で朝ごはんを貪り食らう。しっかり食べとかないと昼まで身体が持たない。


「ふぅー、満腹……やべっ、ゆっくりしすぎた!そろそろ学校行くわ」


「お弁当持った?」


「ちゃんと鞄に入れたよ」


「じゃあ、気をつけてね。いってらっしゃい」


「いってきます!」


玄関のドアを開け、小走りで中学校に向かう。大地は強運の持ち主で、この日は一度も信号に引っかかることなく辿り着けた。


「大地、相変わらずギリギリだな」


「まだチャイム鳴ってないからセーフっしょ?」


「まぁそうだが……走ったら危ないから気をつけろよ」


「はーい、言われなくても分かってるって先生」


校門で生徒指導の先生との他愛もない話を終え、下駄箱に向かった。


「大地おはよー、結局カラオケどーするか決めた?」


そういえば誘われてた気もするけど、すっかり忘れてしまっていた。もうすぐ部活の公式試合なんだよな……。


「んー、今回はパスかな」


「えー、絶対来ると思ってたのにぃ。せっかく可愛い子たち揃えてあげてんのに、それでも彼女候補いないわけ?」


「別にそういう目的で参加してるんじゃないんだってば」


「あっそ、まぁ気が向いたら来てよ。みんな喜ぶし」


「おぅ、気が向いたらな」


下駄箱で運動靴から上靴に履き替え、教室に向かった。


「大地〜!やっと来た!」


「ん?どした?」


「ノート貸してくれてただろ?すげぇ助かった。サンキュ!」


「そろそろ提出日だっけ。たまには自分で書けよな」


「へーい、それにしてもバスケ部のエース様は勉強もできてすげぇよな」


「褒めても何も出てこないぞ」


「なんと俺からは出てくるぞ」


そう言ってガサゴソと鞄を漁り始めた。そして取り出したのは


「じゃじゃーん!お前、このキャラ好きなんだろ?あげる」


「は!?『もきゅっと学園』のリジチョー!?」


「へぇ、この青いのリジチョーって名前なんだ」


「しかもシークレットじゃね!?そのバージョンは一覧にいなかったはず!」


「やっぱレアなやつだった?ガチャポンコーナーで見かけて引いてみたけど、一緒に入ってた紙にも名前が書かれてなくてさ」


俺は財布と相談して10回までと決めたものの、呆気なく惨敗したというのに……これが物欲センサーなのか。ホシマジョちゃんとアカデビちゃんのキーホルダーが被りまくり、昨夜は枕を濡らしながら寝ることになった。


キトナちゃんかアオハナちゃんと交換してくれる人がいたら嬉しいなとは思っていたが、まさかリジチョーをもらえることになるなんてびっくりだ。


「俺は良い友人に恵まれてるな!ラッキーすぎる!」


「まぁ日頃の行いじゃね?それか前世で徳を積んでたとか?」


「そっか!また何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれ!」


「ったく現金な奴め、またよろしくな」


キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


始業のチャイムが鳴り響き、生徒たちが慌てて各自の席に座った。すぐに先生が来るはずだ。もらったキーホルダーを眺めながら、小さな声で呟いた。


「この世は天国だ」


なぁ、神様。前世の俺ってめちゃくちゃいい奴だった?


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