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後編

 拝啓。親愛なるカサンドラお姉様。

 どうか、愚かなわたくしの話をお聞きください。


 わたくしの愛しいエラが王子、フランツと結婚してから、四年の月日が経ちました。

 フランツは即位。エラは民に親しまれる良き王妃となりました。二人の間には、玉のような娘が産まれました。

 ですが、なんということでしょう。エラは娘、アリーセが3歳になった後、出奔してしまったのです。

 彼女の置き手紙にはこう、書かれていました。


『わたしはとても幸せ者です。素敵なフランツ様と結婚し、可愛い子を授かることが出来たのですから。しかし、平民として生まれ育ったわたしにとって、王妃とは恐ろしいほどの重責でした。そして、わたしは素晴らしい王であるフランツ様を支える王妃であれる自信がありません。どうか、全てを置いて逃げることをお許しください』


 と。

 わたくしはハッと気が付きました。何故、このことを思い付かなかったのでしょう。

 エラはカサンドラお姉様と男爵の娘。ですが、あの子自身は平民として産まれ、平民として育った、ザ・庶民。そんなエラが一国の女性の頂点たる地位に着くなど、生半可な覚悟では出来ません。

 王子様と結ばれる。それは夢のような幸せでしょう。ですが現実的に考えれば、とても苦しく、険しい道のりなのです。

 童話では幸せになったというシンデレラ。だけど、本当に? エラのことを受け、わたくしは考えさせられたのです。





 エラが出奔してすぐ。わたくしの元にフランツが来ました。彼は魔女たるわたくしの弟弟子、魔法使いでもあります。


「エラの居場所を知りたい」

「見つけてどうするのです? 連れ戻すのですか?」


 フランツの言葉にわたくしは問いかけました。彼は知ってどうするのでしょう。エラを探して、連れ戻す。それはエラにとって幸せ?

 かつて、エラの魔女になり損ねたわたくしは、今度こそエラを幸せにする為に行動しようと決めました。


「彼女が幸せならば……。だが、大変な暮らしをしているならば、連れ戻したい」


 わたくしは鏡でエラを映し出しました。

 彼女はドレスを脱ぎ捨て、平民の服を着ています。エラはなんの因縁か、わたくしとお姉様の母国でパン屋の看板娘として働いていました。


「エラ……」


 その生き生きとした姿に、フランツは項垂れました。彼はエラを連れ戻さないことに決めたのです。それは、わたくしも同様でした。





 それから六年後。わたくしはフランツからプロポーズされました。


「エラを失った悲しみから立ち直れたのは、あなたのお陰だ」


 わたくしは躊躇しました。フランツはわたくしが幸せにしたかったエラが愛した人です。彼女は重責に押し潰されてしまいましたが、それでも、フランツへの愛は残っていた筈です。わたくしが答えを出せないまま、一年が過ぎましたが、フランツは辛抱強く待ってくださいました。

 一年後。わたくしはようやく、心を決めました。わたくしも彼を慰める間、いつの間にかフランツを男として愛していたようです。

 わたくしはフランツと結婚。新たな王妃となりました。

 実は、わたくしは元々、隣国の王子の婚約者候補でした。その為、エラよりもずっと教養があります。楽勝、とは言いませんが、エラほど大変な思いはしなかったのでしょう。

 その後、わたくしはフランツとエラの娘を紹介されました。真っ直ぐな黒髪に、エラとお姉様と同じ青い瞳。名はアリーセ。エラとお姉様に瓜二つの絶世の美少女です。そんな彼女は雪のように白い肌とその美貌から、白雪姫と呼ばれているそうです。

 そう、かの有名な童話、白雪姫ではないでしょうか。まさか、シンデレラの娘が白雪姫とは。

 ……と思って、わたくしは気が付きました。

 ということはまさか、わたくしは白雪姫の命を狙う継母では? と。

 そのようなことをする気はありません。お姉様が残されたエラの、そのまた可愛い可愛い娘。ですが、聞いたことがあります。物語の強制力、という言葉を。わたくしの気が突然おかしくなり、白雪姫ーーアリーセを害してしまうかもしれません。

 そもそも、わたくしが魔法の鏡を持っていたのは、このことを指していたのでしょう。

 わたくしは最初から、シンデレラの為の良き魔女ではありませんでした。わたくしは、

 ーー白雪姫のハッピーエンドに必要な、悪き魔女なのでしょうか。

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