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前編

 五歳の時でした。わたくしが前世の記憶を思い出したのは。


 わたくし、レアは、とある国のとある貴族の家に生まれました。

 え? 何故、大雑把に言うのか?

 それは、わたくしが家と縁を切ったからです。わたくしの実家は本当に酷いものでしたから。彼らと血が繋がっていることが転生最初にして最大の汚点です。



 ーー話を戻しましょう。

 10歳で実家を飛び出したわたくしは、フリーデン王国に行き着きました。そこでわたくしは一人の魔女に弟子入りすることとなったのです。

 それから、何年が経ったでしょうか。わたくしは運命の出会いを果たしたのです。

 ストレートのサラサラな金髪に、大きな青い瞳。幼いわたくしをあの家から守ってくださったお姉様と瓜二つの愛らしい(かんばせ)

 彼女の名はエラ。わたくしの従姉に当たるカサンドラお姉様の娘でした。

 わたくしの調べによると、お姉様もわたくしが家を飛び出してすぐ、出奔。わたくしと同じくフリーデン王国に行き着いたお姉様は、そこで出会った男性の子供を産んだ。それがエラだったのでしょう。

 わたくしはお姉様にお会いしようか、躊躇いました。それがいけなかったのです。お姉様は病によって、この世を去ってしまわれました。

 なんということでしょう。わたくしは未だ、お姉様に幼き頃のご恩を返してはいなかったのに。悲しみに暮れたわたくしでしたが、ふと思いました。

 代わりに、娘のエラを幸せにしよう、と。

 わたくしは母を失って途方に暮れていたエラを、こっそり実父と引き合わせました。エラの父親はフリーデン王国のブロスト男爵だったのです。

 不倫をし、そのままお姉様とその娘を日陰者にした彼に憤りはありましたが、仕方ありません。エラはまだ幼いのですから、保護者が必要。わたくしのような苦労をさせるなど、出来ません。

 しかしそれは、間違った選択だったのでは? と、わたくしはすぐに思い知ったのです。

 エラを引き取ってすぐ、男爵は事故で急死なされました。男爵家には夫人と、彼女が産んだ二人の娘がおりました。彼女らは夫、もしくは父の愛人の子であるエラを疎み、虐げたのです。家事を押し付け、まるで奴隷のように扱って。


「こんなことも出来ないの!?」

「嫌だわ、灰だらけ。近寄らないでちょうだい」

「そうだわ。今日からあなたは灰被りのエラ。シンデレラという名前にましょう!」


 その発言で、わたくしはハッとしました。これはまるで、前世で有名だったとある童話にそっくりです。そこでわたくしは天啓を得ました。


 そうだわ! わたくしはきっと、シンデレラを助ける魔女なのよ!


 と。

 シンデレラーーエラも、王子様と結ばれれば幸せになれるのではないでしょうか。

 この国の王子、フランツのことを、わたくしはよく知っていました。何故ならば彼は、わたくしが弟子入りした魔女のもう一人の弟子。つまり、わたくしの弟弟子たる魔法使いだったのです。

 彼はとても誠実な性格です。強く、賢い美青年。国中の娘達の憧れの的。将来はきっと、良き夫、良き父、良き王となるでしょう。彼ならば、安心してエラを任せられます。歳も近いので、エラにピッタリです。

 やはりこの世界はシンデレラの世界なのでしょう。ちょうどよく、お城で舞踏会が開かれます。フランツのお嫁さん探しの舞踏会です。

 わたくしはこの日の為、エラに似合うドレスや靴、髪型や化粧を考えました。食事中も、入浴中も、仕事中も。


 あぁ、お姉様。ようやくわたくしはお姉様に恩返しが出来ます。


 張り切ったわたくしは舞踏会の朝、男爵家を覗きました。愛用する魔法の鏡で。なんとこれは妖精が宿っており、見たいものを見れ、知りたいことを知れるのです。とても便利なので、おすすめです。

 鏡の中ではやはり、エラが継母と義姉達に虐められていました。


「シンデレラなんかに舞踏会も王子様も相応しくないわ」

「えぇ、そうよ。おまえは掃除でもしてお留守番をしていなさい!」


 継母たる男爵夫人が掃除用のバケツを押し付けます。相変わらず腹が立ちますが、本日は見逃しましょう。もうすぐあなた方は報いを受けるのです。未来の王妃を虐げた罪で!

 可哀想なエラは半泣きで掃除を始めます。その傍らでは、夫人や娘達が舞踏会の準備に、きゃっきゃうふふ。「もしかしたら王子様に見初められるかも!」 と夢を見ています。ですが残念ながら、見初められるのは可愛い可愛いエラです。

 わたくしは鏡から目を離すと早速、今日の夜に向けて準備をします。失敗は許されません。今日はエラの晴れ舞台となるのですから。

 ですが、なんということでしょう。集中し過ぎたわたくしはうっかり予定していた時間に遅れてしまいました。大慌てで男爵家へ行ったのですがーー

 ーーエラの姿が見えなかったのです!

 わたくしは半泣きで家に帰り、慌てて魔法の鏡に声をかけました。


「わたくしの可愛いエラを映し出して」


 鏡に映ったのは、カボチャの馬車で舞踏会にちょうど到着したエラでした。金髪を華やかに編み込み、見事な水色のドレスを着こなし、キラキラ輝くガラスの靴を履いた姿はまるで、在りし日のカサンドラお姉様のよう。お恥ずかしながら、わたくしは鏡の目の前で泣き崩れました。

 少し遅れて舞踏会にやって来たエラの元へ、黒髪に緑の瞳を持つ美青年ーーフランツ王子がやって来ます。彼は洗練された仕草でエラに片手を差し出します。


「なんと美しい。どうか、私と踊ってください」

「喜んで」


 はにかんだエラは頬を薔薇色に染め、その手を取りました。二人が踊る姿の、なんとお似合いなこと。わたくしも夢見心地で見入りました。

 しかし、夢のような時間は長くは続きません。エラが夜の12時前に会場を飛び出したのです。童話の通り、階段に片方のガラスの靴を残して。

 わたくしはフランツが男爵家にやって来た瞬間も、鏡越しに見ていました。フランツのプロポーズとエラの幸せそうな顔に、思わずガッツポーズをしてしまったほどです。

 これでエラは王子様と結ばれ、末永く幸せに暮らすことでしょう。童話の通りに。えぇ。






 ……ところで、エラを助けて舞踏会に行かせたのは、誰?

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