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幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる  作者: 酔夫人


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第38話 幽霊聖女は溺愛されて笑う

(一体なにが、どうなっているのかしら……)



レティーシャが目を覚ますと、とても豪華な部屋だった。ぼんやりとした頭でも自分の状態を確認しようと本能が働いたのか、レティーシャは掛布団から出ている自分の腕を見て「うひっ」と声をあげてしまった。また針が刺さっていた。


「て……点滴?」


医学書では見たことがあるが体内で治癒力が自動的に発動して健康が維持されるレティーシャは実物を見るのは初めて。興味深くそれを観察していたため、自分の腕に針が刺さったままであることを忘れられた。



「レティーシャ!」


レティーシャの声に気づいたアレックスがノックもなく部屋に入ってくる。恋する男は耳がいい。アレックスのあとを多くの人が入ってきた。



「アレックス様……私、どうして……ここは……」

「落ち着いて、レティーシャ」


アレックスはベッド脇の膝をつき、レティーシャの手を取る。



「ここは城だよ。君はここにいるカリストロとの血縁だと認められたところで、多分限界がきて気を失ったんだ。ここは城の内宮……本当はウィンスロープに連れていきたかったのだが陛下が駄々をこねてね」

「あ……あぅ……」


アレックスの説明は分かりやすく、なにがあって、いま自分がどこにいるかは分かったが、それ以前に分からないことが多過ぎる。どうしてこうなったかを知りたい。


(あ……)


レティーシャはやめた。どんな形であれ、自分は聖女ではなくファウストの娘だと証拠つきで認められた。願った通りの結果であり――。


(陛下の策にのると決めたのだから……)


レティーシャは改めて決意するようにグッと力を込めて手を握る。



「あらあら、さすがフレマンだわ。とても賢いこと」


楽し気な夫人の声に人垣が割れ、レティーシャは視界に入った夫人に「誰かしら」と思ったが祖父のフレマン侯爵が仲良く寄り添う姿を見て分かった。


「お祖母、様……ですか?」

「ええ、そうよ。レティーシャ……本当に大きくなって。サフィに似てきたと言いたいけれど、お義母様によく似ているわ」


レティーシャの祖母であるフレマン侯爵夫人カテリーナは微笑み、レティーシャの髪をすく。その優しい仕草にレティーシャは母サフィニアが見えた気がした。



「大丈夫、ここにいる人たちはみんな『知っている』わ。だから何でも聞いて頂戴、あなたの納得がいくまでいくらでも、でも、納得しなさい。できるわよね、あなたは自分で決めたのだもの」

「お祖母様……」


「大丈夫。あなたの父親が誰になろうと、私と旦那様はあなたの祖父母であることは変わらないわ。フレマンの者たちも家族のままだから……ですから、ウィンスロープ公爵。私の孫から手を離しなさい」


カテリーナの言葉に反射的にアレックスはレティーシャから手を離した。



「私の目が黒いうちは授かり婚など許しませんからね。絶対に……レティーシャの告白を聞いていなければロドリゴ二世のウィンスロープ公爵閣下など決して……もっと他に誰かいい人を見つけてあげたのに……」


くうっと悔やむカテリーナ。「ロドリゴ二世……」と唖然とするアレックス。



「フレマン侯爵夫人、安心してくださいませ」

「……オリヴィア嬢? 安心とは?」


カテリーナの厳しい視線をものともせず、オリヴィアはパンッと胸を自信満々に叩いた。


「お兄様はご自分が浮気したら去勢してもいいと仰っており、念書も書かせてあります。必要な道具もすでに準備してございます」

「それならいいわ。オリヴィア嬢、使い方を教えてくださいませ」


夫人自らやるのかと全員が思っていると、アレックスが立ち上がって抗議した。



「お待ちください。なぜ浮気前提なのです。私はレティーシャだけを愛しています。他の女性? はっ! レティーシャしかいりません。ですからその道具はロドリゴ殿に使ってください」


アレックスにびしっと指さされたロドリゴが「おい!」と抗議する。


「俺だってカリーナと関係を持ってからはカリーナだけだ」

「関係を持ってから、でしょう? 俺はレティーシャと再会してから一筋です! レティーシャだけです。レティーシャ以外はどうでもいい、例えばあのラシャータならあの魔石で爆散しても一向に構いません!」


「構えよ! ……って、あの魔石。でっかいだけじゃなくそんなに魔力が入っているのか?」

「レティーシャの魔力がパンパンに入っていますからね。取り扱い要注意の超危険物です……城に置いておいたら危険ですよ?」


パンッ と高い音をたてながらカテリーナが手を叩いた。


「だまらっしゃい、目くそと鼻くそが…………こほんっ。ウィンスロープ公爵。私たちは全員席を外します。十分だけ二人きりにしてあげますから、ちゃんと告白なさい……まったく今どきの若い者は肝心な告白もそっちのけで……」


そう言うとカテリーナは率先して部屋を出ていった。



「……レティーシャ、顔、真っ赤」

「仕方がないではありませんか……あんなこと……どうして……」


自分の抗議に「売り言葉に、買い言葉?」と首を傾げるアレックスをレティーシャは叩きたくなった。


「だって、君はずっと前から俺のものだし」

「……ずっと前?」


(そういえばさっきも、ずっと前からって……)


「俺と君、ずっと前に婚約しているんだ」

「はえ?」


(いつ?)


「俺たちの婚約は俺たちの母親同士が決めて、議会で承認されて、先代国王も認めた正式なものだ」

「でも……アレックス様は、ラシャータ様と……」

「確かに婚約してたけど、いまさら……無効だろ、うん、無効だ」


アレックスは飄々としているがレティーシャとしては、心に澱のような不快感がある。それはラシャータがアレックスの婚約者として過ごした時間が確かにあったことへの不快感、嫉妬なのだが情操教育が途中で恋愛初心者のレティーシャには気づかない。


「でも……」

「でも?」


恋愛初心者でも女心には慣れ親しんでいる『ロドリゴ二世』ことアレックスにはレティーシャの嫉妬が分かるし、その理由も分かっているから「レティーシャ、可愛い♡可愛すぎる♡」がアレックスの脳内で吹き荒れていた。


「ラシャータ様が……」

「ラシャータ……ねえ」


アレックスが首を傾げる。


「それなら……レティーシャは俺があの女と結婚してもいいってこと?」

「それは……」

「"それは”?」

「……嫌です」

「うん、俺も嫌だ。だって結婚したいって思ったたった一人の女の子が、生きて、こうして俺の目の前にいるんだからな」


(……え?)


「……一人?」

「そう。求婚、ラシャータになんてしていないよ。『婚約しろ』って先王に言われて『はい』って言っただけ。結婚してって言ったのは君だけ」


「覚えて……いません……」

「当然、君はまだ1歳だったんだよ。でも、俺は覚えている。結婚してくださいって、俺、すっごく真面目に申し込んだ」


自分で言ったことが何か思い出を引き起こしたのか、アレックスが笑った。その笑顔が幸せそうで……。


(アレックス様の幸せな思い出……覚えていないけれど、私はそこにいた……)



「改めて。ピンクの目をした可愛いレティーシャ、俺と結婚してください」

「……はい」



よしっとアレックスがガッツポーズをする。その姿はいつも落ち着いている男の人ではなく『男の子』で、アレックスの言った“ずっと”がレティーシャの胸に沁みる。



「よし、それなら邪魔される前にうちに帰ろう。式はおいおい挙げるとして、早く籍を……「待て待て、アレックス。それはやめろ」……陛下?」


ファウストの声に、レティーシャとアレックスは同時に戸口のほうを見る。


「レティーシャは俺の娘だ。だから城から嫁に出す」

「目と鼻の先ではありませんか。いつでも遊びにきていいので我慢してください」

「我慢するのはお前だ」

「……いつまで?」

「……2年」

「無理。よく考えてください」


アレックスは自信満々に自分の胸を叩いた。


「あと2年、そんなことしたら俺は27歳ですよ。遅すぎます。俺はウィンスロープですよ、跡取りが必要です」

「……お前、手のひら返しが過ぎるだろう」


唖然とするファウストの後ろでカテリーナ、カリーナ、そしてマリアローゼットが満足気に頷いていた。レティーシャのほうを嫁き遅れにしなかったところが高評価だった。



「お前がまだ独身なのはお前のせいだろう。公爵家の猟犬が死んだので喪に服すって、なんだよそれ。しかも老衰。それに『仕方がないね』と言ってやった恩を忘れたのか」

「忘れていませんよ。ありがとうございます、叔父さん」

「お前、こういうときだけ……」


アレックスは胸を張る。


「よく考えてください。現時点の陛下は我々の中では偽父。真実を知る私たちの前で父親を気取るなど愚の骨頂。しかし、俺とレティーシャが結婚すれば晴れて義叔父になれます。私たちの前でも、どうぞどうぞ、堂々と義叔父として振舞ってください。歓迎しますよ、ちゃんと親戚なのですから」

「……義叔父」

「父上、騙されないでください」


割り込んだカリストロにアレックスとファウストの目が向く。


「偽父がなんです。公的には父上がレティーシャ様の父親。いずれレティーシャ様がアレックス兄様と結婚するとしても、結婚するまでは娘のエスコートは父親としての権利です。結婚されたらそれも兄様にとられますよ」

「カリストロ……お前……」


兄様、兄様と懐いてくれていたカリストロの裏切りにアレックスはショックを受けた。


「そ、そうだな……2、3回くらいは夜会で私がエスコートしたいな」

「それならばお兄様を遥か彼方まで遠征にいかせればいいではありませんか。それならばエスコートもし放題ですわ」


オリヴィアの登場。


「陛下、よくお考えくださいませ。いまのお義姉様は陛下のことを好ましく思っていますが、世の女性は父親のことが嫌いです。ええ、嫌いですとも。私も父親代わりのお兄様のことを『ちょっと……』と疎ましく思っておりますもの」

「ブラコンのそなたがか」


呆れるファウストにオリヴィアが冷たい目を向ける。


「いつのお話をしているのです? そんなもの最近卒業しましたわ」

「あ、最近なのね……卒業するとすごいね。兄を去勢しようとまでするんだから」

「お義姉様のためですわ」

「シスコンになっただけだな……しかし、花嫁衣裳か……作るのにどのくらいかかる?」


ファウストの質問に女性陣が顔を見合わせる。そしてこそこそと、「あーでもない」「こーでもない」と話し合い……。


「レティーシャに相応しい花嫁衣裳となると、3年は欲しいですわ」


カテリーナがまとめた。

「伸びてる!」とアレックスは喚いたが誰も聞いていなかった。

次回最終話です。

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