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幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる  作者: 酔夫人


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第37話 騎士公爵は暗躍する

「……は?」


スフィア伯爵の声だけが響く場。なぜならスフィアの証が光るのは伯爵の前にある杯だけ。レティーシャとラシャータの前にある杯はどちらも光っていない。


「聖女が……」


誰かの一言で会場は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。レティーシャとラシャータにはスフィアの証がない、つまり聖女が2人どころか聖女などいないということなのだ。



「どういうことだ」と責める貴族たちに伯爵は焦り、神殿長を睨む。


「なにをしている! もう一度だ!」

「は、はい!」



(どこにも帰属しないはずの神殿の長があの態度……やはり神殿長も伯爵と甘い汁を吸っていたのか。そうでなければレティーシャで荒稼ぎなどできるわけがないがな)



「スフィアの証を照らせ!」


腐っても神の使徒。神殿長の言葉に従ってスフィアの証が光る……が、やはり光っているのは伯爵の前の杯だけ。



(うまくいった……何しろ、ぶっつけ本番だからな)


「もう一度」とせがむ伯爵を表情を変えずに観察しながら、アレックスは安堵していた。



「お疲れさん」


肩にロドリゴの手が置かれ、アレックスは「どうも」と答えると愕然としているラシャータに視線を移し、そのまま腕にはまったままのカホー君を見る。


「流石だな」

「本当に」


ロドリゴの声に応えながらアレックスはフレマン侯爵に目を向ける。アレックスの視線に気づいたのか、フレマン侯爵はにこりと笑った。


(……怖い御仁だ)


首から下は不要と言われるフレマン侯爵は、首の上にある頭を使って「鑑定魔法を誤魔化す方法」を考えた。古代魔法は言語も術式も失われてしまった魔法だから、まだ現代魔法の鑑定魔法のほうが攻略できると考えたらしい。


そして考えついたのが血を変えてしまおうということ。



隣国はこの国よりも医術が発展しており、生物の体は小さな粒で作られており、この粒は神様が作った設計図に従って組み合わさっていること、そして体のどこの部位から検体を採取してもこの粒の組み合わせは変わらないことが分かっていた。


隣国はこれを応用し、体の異常のある部分に健常者の設計図を範囲指定して付与し異常を治す治療に成功していたのだが、これを使って血を違う人の血に変えることができれば鑑定魔法を誤魔化せるのではないかと侯爵は考えた。そして侯爵は商会で築いたコネと資金、そして皇后である長女の権力を使って実験を繰り返した。



まず豚から採取した血に牛の血の情報を付与し『牛』と鑑定することに成功。浄化魔法を使えば『豚』と鑑定される血に戻ることも分かった。時間がない、人間の血を使った実験へと移行した。



「オッサンも血を提供したんだろ」

「娘婿(仮)だからな」


侯爵は自分から採取した血に『フレマン』ではないロドリゴの血の情報を付与。

その結果『フレマン』は鑑定されず『ドノバース』のみが鑑定、隠蔽および誤魔化しが可能となった。


スフィアの証は他の証と違う特性がある可能性もあるため、のちに診察と称して採取したレティーシャの血でも同じ実験を行いスフィアも隠蔽できることが分かった。


採取した血で問題がないとなったため、生体を使った実験へと移行しようとしたが問題が起きた。

どうやって全身の血に別の血の情報を付与するか。



(それで体内に異空間を作ろうとは思わないだろう、普通……フレマン、怖い)


この世界には異空間収納という便利な魔法がある。

今回はその応用で心臓から出る太い血管を異空間に入れて、別の場所にある付与装置を経由してまた体内に戻すという力技を考えた。


まずは生きている豚で実験し、試行錯誤の末に豚の血を『牛』に変えて豚の体内に戻すことに成功。

動いている豚と止まっている豚、どのくらいの時間を『牛』の血でも問題ないかなどを確認した。運動することで血のめぐりが早まれば書き換え速度が上がること、そして『牛』の豚には三十~五十時間で浄化魔法をかけないと発熱や呼吸困難など異常が起きることが判明した。


次に侯爵は自分の体を使って実験した。

自分の体なら異常が分かりやすいということらしいが、安全性不確かな状態で自分の体を使った人体実験、「フレマン、怖い」とアレックスは思った。血が近い同性の血のほうが書き換えている間の違和感が少ないことが判明。レティーシャの血は、叔母であるカリーナの血の情報に書き換えることが決まった。



アレックスのもとにこの原理と付与装置が届いたとき、原理のほうは別にいいが装置のほうに困った。

付与装置はできるだけレティーシャに身につけさせたいという仕様なのだが装置が大きい。どうすると頭を悩ませているときにもう一つ問題が発生。



キツネ狩りで森に入る前に健康観察が必要とレティーシャに嘘をついて付与装置を使ってみたところ、健康の確認で採決した血からは『スフィア』と『フレマン』が鑑定された。異常があったということで再検査し、また採血したが同じように『スフィア』と『フレマン』が鑑定された。


「注射はもう嫌ですわ」とレティーシャはぺしょっとしていた。


アレックスは可愛いなあと思いつつも心を鬼にして何度も実験(採血)を行い、その結果から侯爵はレティーシャの治癒力がカリーナの血に書き換えられた血を異常と判断して元の自分の血に治しているのではないかと仮定した。これについては確認しようもない、時間もないということで、レティーシャの治癒力を一時的でも使えなくすることに侯爵は決定した。



治癒力といっても魔法であり、魔法を使わせない方法は三つある。


1つ目、魔力を放出させない魔導具を使う。これが一般的な方法だが、体内で無意識に魔法を使っているレティーシャには意味がない。2つ目、魔素を吸収させない魔導具を使う。しかし体内の魔力は残ったままなので治癒力は使えてしまう。3つ目、魔力を枯渇させる。


アレックスとファウストはいろいろ考えた。


魔導具作りはもともとはファウストの趣味で、彼の膝に乗ってアレックスはいろいろ覚えたのだ。師匠と弟子である2人は魔素の供給を絶つと同時に魔石にレティーシャの体内の魔力を吸収させて枯渇させることにした。


血液情報の書き換え機能に、魔素供給の遮断と魔石に魔力を吸収させる機能が追加。もともと大きかった装置がさらに大きくなり、しかもレティーシャの魔力すべてを内包するほど巨大な魔石もくっつけないといけない。


さて、どうする。

腕甲の登場だ。


それでもアレックスは母の遺した宝飾品をまず確認したのだ。しかし華奢すぎてどれも無理、もっと大きな宝飾品を求めて宝物庫に向かった。そんなものがウィンスロープにあると思ったアレックスは疲れていたに違いない。


腕甲を発見してアレックスは喜んだ。


巨大魔石の存在感に負けない腕甲。

機能をまだつけられるほど回路を引くスペースがたくさんある腕甲。


書き換えがスムーズにいくようにマッサージ機能を追加、絶対に外れないように金具部分を融着する機能を追加、なにか証拠がとれるかもと録音機能も追加。アレックスとファウストは「これでいける」と考えた。


二人とも徹夜続きだった。徹夜は怖い、正常な判断力を奪う。



それでも、終わりよければすべてよし。

無事にラシャータの血もレティーシャの血も別人の血で無事鑑定された。


ちなみにラシャータの血は侯爵がくれた適当な人間の血液情報に書き換えた。レティーシャと違って適合率など無視しているのに、「たくさん喚いて元気だな」とこのカラクリを知る全員が思っていた。


 ◇


「伯爵、もう満足したか?」

「陛下……」


肩で息をする伯爵にファイストは声をかけた。鑑定魔法を使ったのは神殿長で伯爵自身は何もしていないが、「なんでだ!?」という気持ちのせいで息が荒れていた。


「これでレティーシャはそなたの子ではなく私の子だと……「ま、まだでございます」……ほう」


伯爵の悪足掻きをファウストは笑う。


「仮に私の子ではないとしても、陛下の御子とはなりません」


聖女でないだけでも問題なのだが、ここで王女となるとさらに罪が追加される。それはまずいと伯爵は考えた。



「陛下の御子だという……「それでは私の血と鑑定してみるか?」……王太子殿下?」


伯爵の言葉を遮って、カリストロ王太子が前に進み出た。


「もし彼女が父上の娘なら私の異母姉、父上の長子となる。ヒルデガルド王女のときと違っていまは女性も王位や爵位を継承できる。つまりご本人の希望次第ではあるが、彼女が長子なら女王にもなれるということだ」


不安げな表情のカリストロを見た伯爵はニヤリと笑った。


血族かどうかの鑑定は血があればできるが、王族に対して鑑定を要求するということは血を要求することと同義で処刑されてもおかしくない不敬。しかし王太子自らが血を提供すると言っているのだから問題はない。



「王太子殿下がそこまで仰るから」


伯爵の言葉にカリストロは鷹揚に頷くと、救護天幕前にいた典医に指示を出した。


「それでは殿下、レティーシャ嬢、あちらの救護天幕で採血を……「ならん」……王太子殿下?」


典医の言葉を遮って、カリストロはこの場での採血を要求した。


「万が一にも不正があったら困るからな。もちろん典医を信じている。しかし、私も冷静ではいられないのだ……王族の体に針を刺すところを見せられないなら布をかけて見えなくすればいい」



(……注射と聞いてレティーシャは嫌そうだな。わけの分からない状態が続いて混乱しているのだろうし……)



「坊や、大丈夫か?」

「おっさん……あの縋るような目が堪らない、可愛すぎる」


アレックスが本音を漏らすとロドリゴは呆れた。


「大丈夫そうでなによりだが、あの物騒な巨大魔石はどうするんだ?」

「好きにすれば? レティーシャの腕にくっついていないのだから俺はどうでもいい」

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