99 酒の魔神とコメ、ダイズ
巨大小麦のおかげで、バーレンヘイムの食糧事情は改善しそうである。
しかしやはり目玉が沢山ついていて、こちらが食われそうになるのはいただけない。
それでもバーレンヘイムの魔族はそこそこ強いので、食肉小麦にやられるようなクソザコは私くらいのものだ。
そう考えると自分の立ち位置が情けなくなってくる。
「テテンクルルスー、何を考えているのだー?」
「い、いやですね。食糧事情が少しずつ良くなってきたなーと思いまして」
「フッフッフー、ワシのおかげなのだ。感謝するのだ!」
まあそれは否定しないが、あの巨大食肉植物はちょっとどうすればいいもんだか。
「てんたくるす様―。おられますかー?」
トモエが何やら袋に入れて持ってきた。
「これ、実家から送られてきた食べ物なのですが、皆様に如何かと思いまして」
トモエが持ってきたのは大量の豆だった。
「ありがとうございます。それでこれは?」
「これはダイズと申します。拙者のいたヤマトクニではこれを食します」
どうやらこれはウー・マイに見せた方が良いようだ。
◇
「アイヤー、コレは良質の大豆アルね」
「ウー・マイさん。これをご存じなのですか?」
「当然アル。料理人たるもの洋の東西全ての食材に精通しているものアル」
流石は一流料理人だ。
「そしてこれは、色々な形に加工できるものアル」
「いろいろな形というと?」
「ミソ、ショーユ、ナット―、トーフ、何でも作れるアル」
ショーユって確か、トモエの飲んでいたクソ不味い飲み物ではないか。
「ショーユ……ですか?」
「そう、ショーユアル。アレは最高の調味料アルよ」
オイオイオイオイ、トモエは調味料を飲み物だと思って飲んでいたというのか?
「ウー・マイ殿。ショーユってのは辛くて旨い飲み物では無いのか?」
トモエが狼狽えたように質問していた。
「あんなもんそのまま飲む奴は頭イカれてるアホ丸出しアル」
「ガーン……拙者、間違っていたというのか」
まあおかしいなとは思ってはいた。
あのショーユって液体、飲んだら辛すぎてとても飲みきれるもんじゃない。
「では、あのショーユってのは何なのですか?」
「ショーユは東方の調味料で大豆から作る黒い液体アル。これ料理に使うととても美味い物作れるアル」
「それはダイズから作れるのですか?」
「そうアル。でも他にもコメとか塩もいるアル」
トモエがそれを聞いて反応した。
「あの……ミソ、コメなら……拙者の実家に頼めばヤマトクニの物が用意できますが」
「トモエさん、それではぜひお願いします」
「はい、承知致しました」
トモエは実家に手紙を書き、それを煉獄鳥に持たせて送った。
「これで一週間ほどで届きますよ」
そして一週間がたった。
「てんたくるす様、実家からコメとミソが届きました。良質のコージもあります」
「コージ? 何ですかそれ?」
「てんたくるすのオッサン、コージを知らないアルか。コージはカビの一種。これが酒やショーユを作るのに役立つものアル」
酒といえば、魔神バッカスがいたな。
バッカスに話を聞いてみるか。
◇
「おう、おどれらよう来たのう」
「こんにちは、バッカスさん。今日はちょっと変わった物を持ってきました」
「ほう、変わったもんなあ、何持ってきたんじゃい」
私達はコメとダイズとミソを魔神バッカスに見せてみた。
「ほう、コレは変わっとるのう。ちょっと舐めてみてええか?」
魔神バッカスはミソを舐めてからコメとダイズを噛み砕いた。
「これはうまぁあい!! これを使えばいい酒が作れそうじゃい!!」
「あの、酒ではなくショーユという調味料を作ってほしいんですが……」
「任せんかい、醸造ってのはどれも同じじゃい」
そう言うとバッカスは大鍋にコメとダイズを入れて煮だした。
「一週間ほど待っとれ、ええもんよういしておいたるわい」
魔神バッカスは上機嫌で作業に取り掛かった。
今下手に作業をジャマしたら、機嫌が悪くなるのでまた出直そう。