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93 バッカスと巨大ブドウ

 私は魔神バッカスを触手で縛り付けたまま、彼にアイデアを話した。


「おどれ、提案って何じゃい?」

「あなたにも私達にも悪くない話ですよ」

「なんじゃい、それは酒飲める話なんかい」


 案の定の反応だ。

 彼の中では酒が全ての基準らしい。


「まあええわい、話ぃ聞くだけ聞いたるわい」


 酒の話だと分かったバッカスは大人しくなった。


「バッカスさんの酒ってどこから仕入れてますか?」

「おおう、それはなぁ。魔界の酒どころと名高いボジョレーからじゃい」


 そりゃ高くつくわけだ。

 ボジョレーの酒なんて魔界でも将校クラスか幹部クラスでないと、おいそれと飲めない物だ。


「ではその材料はご存じですか?」

「おう、酒飲みたるもの酒が何からできておるかしっかり調べたうえで嗜むもんじゃい」


 私は付き合い以外で酒を飲もうと思わないので、この心境はまるでわからない。


「では。酒ではなく一度材料を取り寄せてみませんか?」

「ぬう? オイに酒作れって事かい。そんなの数千年やっとらんわい」


 オイオイ、アンタ堕落する前はめっちゃ美少年で酒造りの神様だったって書類の記述は嘘なのかいな。


「いい機会ですから、もう一度自分で酒を造ってみてはどうですか?」

「むう、材料あればできるけどなあ、どれもクソ高いんじゃい。足元みよってからに」

「材料とは?」


 バッカスが苦々しそうな表情で答えた。


「ヘルグレープ種のブドウじゃい」

「確かに……あれは大変ですね」


 ヘルグレープはとても良い品質だが、粒がとても小さい。

 その半分以上が種で、それを取り除いた実を取り出すのが一苦労のブドウだ。

 しかも種は毒があり、少しでも傷をつけると毒汁がブドウを汚染してしまう。


「あの小さいブドウをどうにか実を分けるのにピクシーやアンシリーコートを酷使してると言われてるからのう、あのブドウは血で出来ているって言われるくらいじゃい」


 なるほど、手間賃がその値段のほとんどと言っていいようなものだな。


「テテンタルルー、ワシに任せるのだ!」

「パラケルススさん、何か思いついたのですか?」

「フッフッフー、ワシは天才だから問題無いのだー!」


 普段は嫌な予感しかしないパラケルススのこの態度だが、今回は本当に何かやってくれそうな予感がする。


「ではバッカスさん、ヘルグレープを直接ここに送ってもらうようにしますので、一週間後くらいにまた来ますよ」

「おう、まっとるでー」



 一週間後、私はパラケルススと再びバッカスの住処に向かった。


「こんにちは、ヘルグレープ届きましたか?」

「オウ、とどいたけどなー。こんな小さくて少ない数しか来んかったわい」


 そこにあったのは小さな箱一つ分のヘルグレープだけだった。


「こんなもん酒にしてもコップ一杯にもならんわい。これをどうするちゅーんじゃい」


 パラケルススがドヤ顔で指を立てた。


「フッフッフー、ワシに任せるのだー! ここに取り出したるは、ワシの作った発明品」


 嫌な予感がした、アレは以前野菜を食肉植物にした怪しい薬だ。


「キョダイナールグレートX改なのだー!」


 やっぱり、アレだったか。


「この薬を……このヘルグレープにかけるとー」


 案の定、ヘルグレープは一粒が私の頭一つ分くらいに巨大化した。

 そしてやはり、鋭い牙を持ち、大きな口を広げた。


「なんじゃごりゃー!」


 バッカスが驚いていた。


「パラケルススさん、何も変わってないじゃないですか!!」

「えー、失敗なのだー」


 もう知らん、今回食われてももう助けてやらん。

 そう思っていたら。


 魔神バッカスが食肉ブドウの群れに襲われていた。


「おどれら、何してくれよんじゃぁー!!」


 バッカスが丸太のような腕で食肉ブドウを殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた食肉ブドウはそれっきり動かなくなっていた。

 そしてバッカスがブドウにかじりついた。


「ウメェー! ウメェー!! これは最高のブドウだ!」


 バッカスが食肉ブドウを食べて感激していた。

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