88 パラケルススの新研究室
ファーフニルはドラゴンの姿で咆哮をあげた。
「ご主人様―、コレはどこに持って行けばいいですか?」
とりあえずこの騎竜戦艦をどこに置くかを考えなくては。
「そうですね、できるだけ水の上が良いですね」
「了解です、ご主人様」
私はパラケルススとエリザベータを抱えてファーフニルの後を追いかけた。
ファーフニルは悠々と騎竜戦艦を持ち上げている。
これは相当デカく、重量も数万トンといったところなのに、流石はドラゴンと言えるだろう。
なお、私がパラケルススとエリザベータを抱えたのは一瞬でその後戦艦に乗ったので、エッチな事とはみなされなかったようだ。
どうやら最近分かったのは、触れる事よりも相手が感じているかどうかがこの基準になるらしい。
……という事は触れていない放置でもあの変態ドラゴンが感じれば、アブソリュート様の呪いは発動しかねないという事なのか!?
今は考えるのはやめよう……。
ファーフニルが今持っている騎竜戦艦だが、本来なら普通の空を飛ぶドラゴンで三匹、地竜が引っ張る場合で二匹は必要な代物だ。
しかしそれを彼女は一匹だけで持ち上げている。
流石は最強ドラゴンと言ったところだろう。
「ご主人様ー、遠くに大きな水たまりが見えます」
「水たまり……ですか?」
「はい、大きな水たまりで我がこの大きさで水浴びをしても十分余りあるほどの場所です」
あの、それを世間では湖や池と言います。
「わかりました、ではそこまで持って行ってください」
「了解しました、ご主人様」
ファーフニルはスピードを上げて空を飛んだ。
「うわー、テンタンタルク。凄いのだー、高いのだー」
「はいはい、そうですね」
パラケルススが目をシイタケの様にして喜んでいる。
何とかと煙は高い所を好むというが、まさにそれだろう。
「ワシ、今はコレをどうにかできないかと考えていてなー」
「一体何をしようというのですか?」
「フッフッフー、それは、魔導機関の研究なのだ!」
「魔導機関?」
聞き覚えの無い言葉である。
しかしパラケルススはドヤ顔で説明を続けた。
「今これを引っ張っているのはファーフニルなのだ」
「そうですね」
「しかし、この魔導機関を使うと、ファーフニルが引っ張らなくてもこの船だけで空を飛んだり地面を走ったりできるのだー!」
「そんな事が可能なのですか?」
「それが可能なのだ!」
あまり期待はできないが、この騎竜戦艦は所詮不良債権的物体だった物だ。
どのようにぶっ壊れようが人的被害が出なければどうとでもなる。
「あの、それにはスタッフは乗せるんですか?」
「乗りたきゃ乗ればいいのだ、でもスタッフの確保ならワシのゴーレム軍団があれば十分なのだ」
まあそれなら大爆発を起こそうが、中で何が起ころうが問題は無さそうだ。
「良いでしょう、では書類を一揃え揃えましょう」
「ありがとうなのだー」
そして、こんな話をしている間に、騎竜戦艦は水上に着水した。
まあいい機会だ。
この居候にそろそろどうにかしてほしいとも思っていた所なので、この戦艦を与えておけばここで勝手に研究でも何でもやってくれるだろう。
「ではここをパラケルススさんの研究室にしてみてはどうですか?」
「テテンタルタルソース、それは素晴らしいアイデアなのだ!」
このポンコツはどこまで名前を間違え続ければ気が済むのだ?
「でも……空を飛ぶシステムなんて簡単に作れるんですか?」
「フッフッフ、そんなもん一か月、いや、二週間あれば十分可能なのだー!!」
パラケルススが自信満々に無い胸を張っていた。
「わかりました、それではこれは貴女に差し上げましょう」
「テンタンタルーありがとうなのだー、愛してるのだー」
そう言うとパラケルススは私の頬にキスをしてきた。
「な、何を……?」
「ワシの気持ちなのだ。ありがとうなのだ」
頬を赤らめたパラケルススを私は一瞬可愛いと感じてしまった。
まあこれで戦力増強が出来るなら任せてみよう。
だが、それを見ていたファーフニルが大暴れで森を焼いていたのは見なかった事にしよう。