80 大賑わいの食堂
私は農水課の問題を解決して、お昼過ぎに庁舎に戻ってきた。
「テテンタルクルスー、ひどいのだー!! 全身痛いのだー」
隣にいるのはパラケルスス。
今回もロクでもない結果を出したので、オシオキフルコースのストレッチ地獄を食らった後だ。
「貴女は少しは反省してください!」
「反省はするのだー、でも失敗は成功のマザー。たくさん失敗する事で大成功が約束されるのだ」
このアホはあれだけ失敗をやらかしておいて、全然懲りていない。
これはまたオシオキ確定かもな。
さて、あの美味しくない食堂でどうにか栄養補給をしますか。
今の私には金がない。
だが食堂は給料から天引きなので、くいっぱぐれる事はないのだ。
だが、クソマズイ。
げんなりした気持ちで食堂に向かっていた私を待っていたのは、いつもの面々。
エリザベータ、トモエ、ファーフニルの三人だった。
「ご主人様ー。お待ちしておりましたー」
「では、食事に行こうか」
「……美味しくない。死にたい」
この三人は通常運転だ。
もうこのやり取りも慣れた。
しかし、今日は何故か様子が違った。
食堂から奇声が聞こえたり空を飛んだり、全裸になっているような連中が続発しているのだ。
「いったい何があったんですか?」
私は辺りを見て唖然とした。
「うーまーいーぞーーーー!!!」
「うぎゃぎゃぎゃぎゃー おかわり! おかわりをよこせー!!」
「いやーん、なんで服が脱げちゃうのーん!?」
これはいったい何なのだろうか?
普通考えて、この食堂でこのような奇行がはびこるはずがない。
みんな死んだ魚のような眼をして、不味い食事を黙々と食べているだけがいつもの光景だった。
だが、今日は違う。
明らかにここにいる全員が、食事で狂喜乱舞しているのだ。
「と、とにかく何か注文しよう」
私達は全員同じA定食にした。
「はいよ!! A定食完成アルね!」
どこかで聞いた声がした。
「ご主人様。あの声って?」
「ああ、あれは確かナンモナイ山で聞いた声だ……」
そして私達の目の前に出されたのは、普段見るものとは明らかにレベルが違った。
黄金色に輝く肉。
きれいな衣に包まれた丸く形を整えたひき肉。
美味しそうな匂いのする魚。
バーレンヘイムに来る前に私の嫁達が作った料理でも、これほどのレベルの物はそうは存在しなかった。
「これはいったい……」
私達は出された食事を食べてみた。
まずは試しに口に一口入れてみた。
!!!!
これは! 今まで食べたものが生ゴミに思えるほど美味しい!
私は思わず翼を広げてしまった。
このまま無意識だと、空を飛んでしまいそうな高揚感だ。
ありえない美味しさだ!!
これは料理という名の芸術といえる。
そう感じていたのは私だけではなかった。
トモエは食べながら涙を流し続け、エリザベータはものすごく健康的でとてもいい笑顔になり、ファーフニルは感動のあまり口から炎を吐き、パラケルススは成分を分析しようと真面目モードでとても考え込んでいた。
全員がおかしな挙動をするほどの食事、これを作ったのは……さっきの声の女なのか?
私は厨房の方を注視した。
すると、リオーネが指示されて動く姿が見えた。
料理長のサイクロプスも何やら指示されて動いてるようだ。
やはり料理長が代わったのか。
しかし、その一言だけでは説明ができないレベルだ。
この料理は一流の宮廷でも出せるほどのレベル。
こんな場末の流刑地にいる料理人にそんな凄腕がいるとは思えない。
「あ、テンタクルスじゃねーか」
「リオーネ……さん、これはいったい?」
「ああ、料理長が代わったんだ。あの子は凄いよ!」
奥を見るとそこにいたのは私がファーフニルから助けてやった異国の少女だった。
しかし、彼女はあの初対面のアホなイメージではなく、腕が何本もある魔神のような凄まじい動きで料理を作っていた。




