8 魔王アブソリュート様の餞別
私は魔界の流刑地バーレンヘイムへと向かう事を決めた。
ポリコールに牛耳られた魔界を取り返すためには私には力も仲間も足りない。
そして、奴は謎の高次元の者とやらを使った圧力で努力も地位も何もかも全てを奪いつくすのだ。それに対抗する方法を見つけない事には勝ち目がない。
「テンタクルス……その目にもどったのじゃな」
「アブソリュート様……必ず! 魔界を取り戻して見せます!」
「我は何もできん、おぬしにかけた呪いを解呪するだけの魔力ももう持っておらんのじゃ」
「いいえ、私はもう女には手を出しません! あくまでも今の私の力で……いずれポリコールを叩き潰して見せます!」
方法はまだわからない。
しかしいくらポリコールや高次元の者といえど、始まりがあれば終わりはある。
永久に存在し続ける事は出来ないのだ、それ故に私は自らの力を高め続けていたのだ。
奴はそんな努力をあざ笑う、それでも私は奴に勝てるまで決してあきらめない!
「はぁ……女の姿になって初めておぬしに惚れる女の気持ちが理解できたのじゃ」
「アブソリュート様?」
「おぬしは強い、それはかつての我のような絶対を振りかざす強さではない。おぬしの強さは守るものを持つ強さなのじゃな」
「アブソリュート様、必ずや魔界を取り戻して見せます」
私はそう言うと童女の姿のアブソリュート様を強く抱きしめ、頭の角を撫でた。
「ふぁああ!!」
アブソリュート様が顔を真っ赤にしていた、何か良くない事をしてしまったのだろうか?
「アブソリュート様、何かございましたか?」
「テンタクルス、そなたは良い男じゃ。我、初めて他者の温かい優しさを感じたぞ」
「勿体ないお言葉でございます」
童女の姿のアブソリュート様は顔も角も真っ赤にしてもじもじしていた。
「全てを失った我だが、バーレンヘイムに向かうそなたに一つ餞別を送るのじゃ」
「餞別……でございますか?」
「うむ、心して受け取るがよい」
そう言うとアブソリュート様は私の口に直接キスをしてきたのだ!
「!?」
「うっく……プハァ」
「これは??」
「我からの餞別じゃ……高次元と話す力じゃ」
「それは??」
いくら私が高次元の者と話せたとしても奴らはえこひいきで私の話を聞くわけがない。アブソリュート様は何を考えているのだ?
「テンタクルスよ、高次元とは一つだけではない」
「それはどういう意味で?」
「高次元の者にも同じ世界に敵がいるというわけじゃ!」
「敵……ですか!?」
敵の敵は味方というが……私が受け取った力はその敵の敵に話しかける力だというのか。
「だが、高次元の中でも敵対者は力が弱くてのぅ」
それでは弱い負け犬の傷のなめ合いではないか!? アブソリュート様は何を考えているのだ!?
「それ故に二つの世界を繋げるのじゃ!」
「繋げるとは?」
「テンタクルス、バーレンへイムで軍を作れ。その最強の軍をもって魔界を攻めよ。その時、高次元の敵対者と力を合わせておけば……あの憎きポリコールをギタギタのメタメタに叩き潰せるのじゃ!!」
アブソリュート様は童女化してしまった事で語彙が乏しくなってしまったのかもしれない。
「わかりました。必ずや魔界の秩序を取り戻しましょう!」
「テンタクルスよ、魔界の未来を頼んだのじゃ」
「必ずや、アブソリュート様の為に!」
「いや、その時魔王になるのはそなたで良い」
「アブソリュート様……?」
「我は……その時はそなたの隣、いや……何番目でもいいから傍に居させてほしいのじゃ……」
「どうされましたか? 顔が真っ赤ですが」
「知らん知らん! 我はゴミ捨てを終わらせてさっさと戻るのじゃ!!」
アブソリュート様はその後何だか都合が悪そうに急いで戻ってしまったのだった。