79 この食堂は全然ダメダメ!
食材に紛れて魔獣の引く荷車に乗っていたワタシは、荷車が止まった事に気が付いたアル。
「どうやら目的地に着いたみたいアル」
そして大きな荷車の扉が開かれた。
魔獣が思いっきり体を持ち上げた事で、食材がどんどん雪崩れていくアル。
「ふええ! いきなりはビックリするアル!」
ワタシは食材の雪崩に巻き込まれて食材置き場に転がり落ちたアル。
「……? 今日の食材に生きのいい人間なんて入ってたか?」
「ひええええー! 私食材じゃないアル!! 食べないでほしいアル!!」
「え? 食材じゃないって?」
「そうアルそうアル、ワタシなんて食べても美味しくないアル」
ワタシは涙目で目の前のケモノ女に泣きついたアル。
「どうやらどこかで食料積む時に紛れ込んだみたいだな」
「そうアルそうアル、だからワタシなんて食べ物じゃないアル」
「……でも、若い女の肉って柔らかくてうまいって以前知り合いの魔族が言ってたな」
「ひええええー! 何でもするからお助けぇー!!」
ワタシこんな地獄で悪魔のご飯になりたくないアル。
その為にめっちゃ土下座したアル。
「そうかー、何でもするねー。なら、皿洗いをやってもらおうか」
「わかったアル! ワタシ皿洗い得意アル」
料理屋の修業の一歩目は皿洗いからというアル。
それは皿を見ればたいていの料理のレベルがわかるからという事アル。
一流店の皿に残ったソースやタレ、それを少し舐めれば大体の食材や料理法はすぐに把握出来るアル。
「今から客が来るからな、ぼやぼやしている暇はないぞ!」
「はい、分かったアル」
そしてお昼になったアル。
……これで大変というアルか?
この程度の量ならラーメン作るよりも時間はかからないアル。
「おめえスゲーな。あれだけの量をこんな短時間で洗うなんてよー」
「ふぇ? この程度大したことないアル」
実際この程度、あの崑で一番忙しいと言われた店、『龍王酒家』の一番暇な時間よりも余裕アル。
たかだか100枚程度で根を上げてたらあの店では死ぬアル。
ワタシが修行した時の龍王酒家の皿の量は、一日30000枚だったアル。
「アンタ料理人なのか?」
「ふぇ? そうアル。アタシは料理人アル」
料理長らしい一つ目のオッサンが質問してきた
「頼む、こっちも人手が足りないんだ、もしよかったら手伝ってくれないか」
「わかったアル。すぐそっちに行くアル」
ワタシは厨房の奥に行った。
すると、見えたのはもう食材というのも悲しいレベルの、酷いものばかりだったアル。
肉は生か焦げ焦げ、スープはグラグラと熱く煮えたぎっているのに中身はほとんど何もない臭いお湯。
野菜はほぼ入っていない。
魚はあの人面魚がマシに見えるほど、生臭いまま下ごしらえもなく焼いているだけだったアル。
辺りには凄まじい臭さが煙に混ざっていて、吐き気を催すレベルだったアル。
「これ、食堂アルか……?」
「そりゃそうだろ、これが食堂以外の何に見えるんだよ」
「いや、あまりの凄まじい臭いがゴミ捨て場みたいだったアル」
「てめぇ! 喧嘩売ってんのかよ!?」
「そうじゃないアルが……」
「そこまで言うならてめぇが料理してみろ!!」
「ふぇ!?」
なんだか変な流れになってきたアル。
仕方ないのでワタシ、今あるダメダメな食材の下ごしらえからやり直したアルね。
「おい女、ぼやぼやしてる時間はねえぞ」
「黙ってろアル! アタシにかかればこの程度楽勝アル!!」
まずは肉、硬くてまずい肉はとにかく叩く、叩いて叩いて細かいひき肉にするアル。
そして湯通しをして灰汁抜き!
最後に油をさっと通せば、下ごしらえ完成アル。
「はい、後はこれを焼くだけアル!」
次は魚! 骨を素早くとってから血抜き。
そして湯引きで生臭さをぬぐい取ってから特製の香辛料で味付けをするアル。
その後で油通しをしてからショーユとミリンで味付けするアル!!
でもショーユもミリンも無さそうなのでその辺にあった物を代用品にするアル。
「すげえ……あの女、腕四本か六本あるくらいの働きぶりだ」
「この程度楽勝アル!」
そして、料理が一通り全部完成したアル。