75 喰う側か喰われる側か
あけましておめでとうございます。
今年も触手幹部をよろしくお願い致します。
私はヘロヘロのまま、庁舎の執政室に向かった。
「おはようございます、今日は農水課に行ってください」
「テンタクスッスー、ワシも面白そうだからついて行くのだ」
パラケルススが来ると毎回ロクな事がない。
「いいですよ、では変態触手虚弱全裸魔族さん、お願いしますね」
また私の蔑称が変わっている……。
◆
私は庁舎の外にある農水課に来た。
農水課は例に漏れず、暇そうな場所だった。
「あのー、責任者の方はどこにおられますか?」
「あー、オラだよ」
なんというか、いかにもオークといった感じのオークが、私を迎えてくれた。
「オラの名前はトンソックだー、よろしゅーなブー」
「執政官のテンタクルスです。よろしくお願いします」
「ワシは助手のパラケルススなのだ」
トンソックは種を見せてくれた。
「これは今どうにか食用に出来ないかと考えている植物ですブー」
「確かにここは野菜がべらぼうに高いですからね、どうにか作る事が出来るようになればもっと安く買う事も出来るようになるんでしょうね」
「その通りなんですが、植物を育てようとしても、ここだとどうしても大きく育たないんですブー」
「それは仕方ないですね」
これがバーレンヘイムの難点である。
魔素が少なく、植物が大きく育てないのだ。
「フフフーン、ワシにいい考えがあるのだ!」
マジでアンタは手を出さないでください。
毎回ロクな事にならんですから。
「おお、そこのめんこい娘さん、いい考えとは何でしょうかブー」
「いや、コイツの話は聞かない方が良いです。毎回ロクな事やりませんから」
「テンタルクルススー、ひどいのだー、ワシの考えくらい言わせてほしいのだー」
「テンタクルスさん、話ぐらい聞いても良いとおもいますブー」
仕方ない、まあ話くらいなら聞いてみるか。
「良いでしょう。パラケルスス、いい考えとやらを伝えてみてください。」
「よかろうなのだ! つまりはこの植物を大きくできればいいのだ」
そう言うとパラケルススは懐から怪しい小瓶を取り出した。
「これはゲンキニナールグレートXの失敗を元にして再構成したキョダイナールビッグXなのだー!」
だからアンタのネーミングセンスを治す薬を作ってください。
「このキョダイナールビッグXをこの植物にかけると……」
そういうとパラケルススは小さな植物に怪しげな液体をかけた。
すると、みるみるうちに小さかった植物は巨大化し……手に持ちきれないサイズになり、地面に落ちた。
「やったー! 大成功なのだー!!」
「これは凄いですブー!」
パラケルススの怪しい液体をかけた植物はさらに大きくなり、大きな花と実をつけた。
「おお、これは凄いですブー、コレだけの大きさなら何十人分の食料になりそうですブー」
「どうだ、これがワシの能力なのだ!」
パラケルススがドヤ顔をしていた。
まあこのまま何もトラブルが無ければ、いい子いい子と頭を撫でてやろう。
だが……案の定ロクでもない事が起きてしまった。
大きな花と実は、真ん中の部分から大きく割れ、中から鋭い牙を剝きだしてきた!
「ギャゲエエエエエエ! ギョゲゲゲゲェェェゲ」
「なんじゃごりゃー!!」
大きな花と実は巨大な食肉植物になってしまった!
そして、その植物はパラケルススとトンソックを捕えた。
「ヒエエエエエー!! ワシ食べても美味しくないのだー!!」
「ブワワアアアア、オラ脂身ばっかりで食っても胃もたれするブー!!」
食肉植物はパラケルススとトンソックを、大きく開いた口でバリバリと噛み砕こうと歯をガチガチと嚙み鳴らしていた。
「助けてくれなのだー!!」
「お助けブー!」
仕方ない、ここは私が助けるしかないのか。
私は仕方なく、手元に残っていたゲンキニナールグレートXの瓶を飲み干した。
「さて、行きますよ!!」