71 触手ドーピング
私の触手を食べたポンコツ連中は、全員がひっくり返っていた。
私も無事ではすんでいなかった。
苦い、えぐい、臭い、辛い、しょっぱい、まずさを凝縮したような味だった。
「ウグエエエエエ、ギモヂワルイ」
他の連中も起き上がれないくらい、ダメージは大きいようだった。
「ウグウウエエエ、ワシがゲンキニナールグレートXを作った時はこれより少量だったのに……」
オイ、ちょっと待て。
今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
「パラケルススちゃん、いったい今のはどういう事なのかな? 詳しく教えてもらおうか」
「ひええええー、わかった! わかったのだ!!」
そしてパラケルススはあの最悪薬の事について話し出した。
「ゲンキニナールグレートXの材料は、よくわからんものと、とても名状しがたいもの、それにテテンタクルスの触手から絞り出したエキスなのだ!」
ちょっと待ってくれ、触手から絞り出したエキスってなんだよ!?
私は自分の身体からでたよくわからない成分を飲まされたという事なのか?
「とくにテンタッタクルスの触手は興味深いのだ。何とも言えない分泌液、これが細胞に働きかけて、生命の限界値のリミットを壊す力があるのだ」
あの、本人が初耳の能力なんですが。
「パラケルススちゃん、後でしっかりオシオキしないとね……」
「ひええええー、助けてほしいのだー! ワシ悪くないのだー!!」
とりあえずパラケルススが、ロクでもない事をしでかしてくれていた事は分かった。
その後、不思議な事が起こった!!
「フフフフフ……はーっはっはっはっはっはっは! 我、完全に目覚めたり!」
ファーフニルがいきなり笑い出した。
何か悪いものでも食べたのだろうか……といっても私の触手しか思い当たらない。
「感じる! 感じるぞ! 我の身体の奥底から湧き出る活力を、エナジーを!!」
そういうとファーフニルはドラゴンの姿に変化した。
「見るがよい、我が最強の力を! アトミックフレア!」
ファーフニルの口が大きく開いた、そしてその口からは高質量の高温の熱線が放たれた。
ゴオオオオオオオオオン!!
遠方に見えた山の一部が完全に吹き飛んだ。
これがファーフニルの力なのか!?
「ククククク……感じるぞ、感じるぞ、妾の血の脈動を。妾はエリザベータ・バートリー。闇の王にして不老不死のヴァンパイアロード也」
あーあ、こっちでも変なもの食べて覚醒した奴が出てしまった。
「見よ、我が力……ヴォーテクス・ディメンジョン!」
エリザベータは闇の力で辺りの物を吸い込む、闇エネルギーのブラックホールを形成した。
あのー。すみません、その吸い込んでるの私の所有物ばかりなんですが。
「クククク素晴らしい、素晴らしい力だ……これがあれば妾が魔界の女王として君臨することもできうる」
あのー、無駄に争いや騒ぎを大きくしないでください。
後、私の所有物返してください。
嫌な予感はまだ続いた。
「グウウオオオオオオオオオ!!!」
普段の猫耳獣人ではなく、リオーネがライオン頭の獣人になっていた。
「ガルルルルル……グアアアオオオオオオ!!」
あの、すみません。せめて伝わる言葉を話してください。
「グワオオオオオオン!」
リオーネは壁にパンチをぶち込むと、さらにパンチの連打を繰り返した。
そして、その力は宿舎の壁の大穴を開けてしまった。
すみません、せめて野生からもどってきてください。
「今宵のカタナは血を求めておる……さあ、誰じゃ……刀の露になりたい者は」
もう嫌だ、トモエまで血を求める狂戦士化してしまった。
そして、トモエとリオーネがお互い剣で相手を倒そうとしている。
これは下手すれば殺し合いになりかねない。
どうやら、私の触手には食した相手の能力を限界値まで引き出す力があるようだ。
だが、このクソ不味さで変な世界を開いてしまうのかもしれない。
いろいろと考えると私はまたまた胃が痛くなってきた。