70 そして食べる物もない
「テンタクルルルルスー、ワシ腹減ったのだー!」
「ご主人様、我もそろそろ何か食事をしとうございます」
「我慢しなさい、今ウチには食べる物がありません!」
「妾に酒を……血のような真っ赤な酒をぉォォォ!」
「そんなもん買うお金はもうウチにはありません!!」
私の部屋には今、どーしょーもない居候が三人もいる。
「テンタクルスー! メシ持って来てやったぜー!!」
リオーネが来た。
彼女がたまに持って来てくれる肉、それが唯一の食事だ。
しかし味がクソ不味い。
この一か月で私の体重は10キロほど減ってしまった。
「えー、ワシこの肉飽きたのだー」
「所詮はケモノ女の食う肉、高貴な我の口に合うわけがなかろう!」
「生肉……滴る血を飲ませてェー」
コイツらはもう本当にどうしょうもない。
この態度にリオーネも青筋を立てていた。
「て、テメーら。テンタクルスいなかったら全員ぶっ飛ばしてるからな!」
青筋を立てながらニコニコと笑っていたリオーネが、顔を赤くして私にすり寄ってきた。
「ねえ、テンタクルスー、こういうの見てるとお父さんとお母さんがどーしょうもない子供を頑張って育てる、予行演習みたいじゃないかな?」
どーしょうもない子供ってのには同意するが、お父さんとお母さんってのは遠慮させてください。
「えー! ひどいのだー! ワシのどこがお子様なのだ!? ワシは立派なレディーなのだー!」
いえ、どこからどう見てもお子様そのものです。
そのくせ中身はイカレジジイイというのも、さらにどうしようもない。
「悠久の時を生きる竜である我を子供呼ばわりとは……死にたいようだな、ケモノ女!」
だからアンタたち二人が暴れると、この辺り崩壊するのでやめてください。
「フフフフ……ハハハハハ……どうせ妾のメンタルなんて成長しない子供ですわョ……あー死にたい」
もうツッコミすら入れたくない。
どうして私の周りにいるのは、こういう胃に痛い連中しかいないのだ!?
私はこのポンコツ連中のせいで胃が痛い毎日を過ごしている。
しかも毎回このポンコツ達が甚大な被害を作り出すので、私の給料は数か月先まで完全にマイナスになっている状態だ。
「ううう、お腹がすきました……」
「テンタクルスー、肉食おうぜ、肉」
いや、その肉を食べるくらいなら私の触手を焼いて食べた方がマシです。
触手……!
そういえばファーフニルから助けた女性、彼女が作ってくれた食事は私の触手を使ったものだった。
それなら私がこの触手を焼いても美味い物が作れるはず。
「触手よ、伸びろー!」
私は触手を伸ばし、その先端を断ち切った。
痛覚は無い、何故ならこの触手には意志や神経を通していなかったからだ。
私は切り取った触手を料理人の彼女の見よう見まねで、同じように切って細かくしてみた。
切ると時々ブジュ! グジュッ! といった不快な音が聞こえてきた。
どうにか切った触手はなんともブザマにボロボロだった。
私はその触手をフライパンの上に乗せて焼いてみた。
「ファーフニル、弱い火を頼みます」
「ご主人様、わかりました。我、必ずやお役に立ってみせましょう」
ファーフニルが弱火を出してくれたので触手がどんどん色が変わっていった。
そしてこんがりと焼けた私の触手は、見た目的には美味しそうな色になった。
「テンタタクルルー、何だか美味そうな色なのだー!」
「はいはい、今用意しますからちょっと待って下さい」
そして私の作った触手焼きは全員分に皿にとりわけ、実食する事になった。
「では食べてみましょう……」
パクッ、私は焼けた触手を口に入れた瞬間、凄まじい不味さを感じた!!
「オグゲェエエエエ! マズウウウウゥゥゥウイ!!」
どうやら、不味いと感じたのは私だけではなかったようだ。
これを食べた全員がひっくり返り、床の上で痙攣していた。