7 絶望への道のり
私が魔界のゴミ捨て場に捨てられてどれくらいの時が過ぎたのだろうか……。
普段なら他者からエネルギーを奪ったりしない私だったが、全く動けない状態からの再生の為にゴミ捨て場に捨てられた屍や魔素の切れた残りカスの魔具などからかろうじてエネルギーを啜り、糊口をしのいだ。
そしてしばらくすると私の身体は再び動けるだけの魔力を最低限確保できたのだ。
「うう……情けない……」
今まで私は無敗だった。それは傲慢な強さではなく、常に自らの力を高めたからだ。
私は魔界の下級貴族の男爵家に生まれた。
両親は神との決戦で戦死したが遺族への保証で私は何不自由なく暮らす事ができた。
だが、魔界は実力主義の世界、男爵家は貴族とはいえ最底辺に過ぎない。
私は魔王軍の一兵卒として入隊し、実力で将軍、元帥、四天王まで実力でのし上がったのだ。
その後、私は自らの持つ触手の力を使い、魔王軍の最強の立場を守り続けた。
それは決して自己保身ではなく、全て実力でねじ伏せてきたものだ!
だが、高次元の者、ポリコールはその実力による努力の全てを踏みにじってきた。
今の私にはゴミ捨て場をさまようだけの魔力しか残っていないのか……。
「ようやく目を覚ましたか」
「?」
「おぬしはそれでいいのか?」
「誰だ……女?」
触手の能力を封じられた私にはもう女などなんの興味もない。
私は私利私欲ではなく魔族の繁栄の為に女を沈めてきた。
だが、それも絶対に相手を不幸にしないのが私の信念だったのだ。
「落ちぶれたものじゃな……元魔王軍四天王最強」
「子供は家に帰れ……帰れる場所があるんだろう」
「我にはもう居場所はないのじゃ……」
「何?」
「おぬしには今の我が誰かわからんじゃろうな」
私にはこんな童女の知り合いなぞいない、私の嫁が私の知らない子供を産んだという話も聞いた事は無かった。何故なら嫁の子供には全て私が保証を出していたからだ。
「我は……アブソリュートじゃ」
「!??」
……わけがわからない!? 目の前の汚いゴミ袋を抱えた童女が魔界最強の魔王『絶対のアブソリュート』様だと??
「もう魔界はおしまいじゃ」
「アブ……ソリュート様??」
「そうじゃ……」
私はどうにか頭の整理をしようとした。
「今の魔界は全てポリコールの思うがままにされておる」
「あの腐れ外道か!!」
「我は全ての力を奪われたのじゃ」
また高次元の者とやらか……。
「我が魔王軍はレベル120のポリコールが蹂躙し、幹部は女以外を全て皆殺し、四天王は謎の力で全てが姿を消したのじゃ」
「何という事だ……」
「そして我も謎の力でレベルを奪われ、今やレベル9、そのままの姿では殺されてしまうので小間使いの童女の姿に変わったのじゃ。ポリコールは流石に童女にまでは手を出せんのでな」
私にはもう何を言えば良いのかわからなかった。
「我がおぬしをバーレンへイムに向かわせようとしたのは我のワガママではない」
「……といいますと??」
「バーレンへイムは我に逆らった魔族の流刑の地じゃ、おぬしもそれは知っておろう」
「はい、存じております」
「だが、バーレンへイムにいるのは元魔界軍最強の者達ばかりだったのじゃ」
確かに流刑の地に送る最終決定の印を押したのは私で、魔界最強の将軍等の名前もあった。
「我に逆らいし者達、だが今は奴らだけが魔界の秩序を取り戻せるかもしれん」
「つまり……アブソリュート様は私にバーレンへイムの魔族を統治させ、再び魔界を取り戻したいという事でしょうか」
「そうじゃ……。予定は大きく変わってしまったがな」
今や高次元の者。またポリコールの手の届いていないのがそこだけといった方が正しいのだろう。
「我はすぐにゴミ捨てを終わらせてまたポリコールの宮殿の掃除をせねばいかんのじゃ! テンタクルス、魔界の未来を頼んだぞ!!」
魔界最強のアブソリュート様が命を繋ぐために童女として小間使いをする……こんな世界を元に取り戻さなくては!
私は足取りも重くバーレンヘイムの地に向かうのだった。