69 夢も希望も金もない
「テンタクルスさん、部屋の修理代……来月の給料から天引きさせてもらいます」
オクタヴィアは血も涙もない。
このズタボロの私を見て、何も労いも同情もあったもんでない。
冷徹に被害状況の金額勘定をしているだけだ。
「おーい、テンタクルススー、大丈夫かー? しっかりするのだ」
いったい誰のせいでこうなったと思ってるんだ、このポンコツホムンクルス錬金術師が!!
「ああ、なんという魔力暴走、あんな爆発の中心にいたらとても痛くて気持ちいいのでしょう! ご主人様が羨ましい」
この変態マゾトカゲ女、痛めつける趣味のない私ですら、マジでどうにかしてやりたい。
「大丈夫か! なんだかすさまじい音と爆発があったと聞いたので、拙者も馳せ参じた!」
トモエさん、これ以上事態をややこしくしないでください。
オクタヴィアは全裸で力尽きている私を見捨ててどこかに行ってしまった。
私は今、力尽きて全く動けない。
そしてここにいるポンコツ女達はそんな私の事を見ているだけで、何もしようとはしない。
「とりあえずそれを着てください、こんなとこに全裸でいられると迷惑です!」
オクタヴィアは環境課の備品だった男性用のつなぎを、私の体の上に無造作に放り投げた。
「テンタンタクルスー、悪かったのだー。ワシが服を着させてやるのだー」
い、いや。アンタはもう何もしないでくれ……。
私はそう言いたかったが言葉が出なかった。
パラケルススは強引に私の身体を持ち上げると、つなぎを私の体に着せようとした。
「ワシは自分のホムンクルスにメイド服を着せたりしてたから、マネキンに服を着せるのは得意なのだ!」
あの、私をマネキン扱いしないでください。
そして、馬鹿ぢからが痛いです。
「よーし、それでは上から着させるのだ、エイッ!」
ブヂィッ!
服からありえない音が聞こえてしまった。
パラケルススの怪力で結んでいたひもが、ブチ切れてしまったようだ。
「よーし、これで着せやすくなったのだ、これを腕に通して、エイッ!」
ブヂブヂブヂィッ!!
硬く縫ったはずのつなぎの袖の部分が、両肩の服の肩口から音を立てて引きちぎれた。
そして私に肩のない服を着せたパラケルススは、ドヤ顔で私を見ていた。
「よし、これで完成したのだ!」
かろうじて立てていた私は、腕がむき出しのつなぎだった服装でゆっくり足を引きずるように歩き、執政室に辿り着いた。
「あら、役立たず全裸変態触手ヘタレ最低触手魔族さん、どうしましたか?」
私の蔑称が更に変化していた。
「服をお借しいただき……ありがとうございました」
「そうですか、まあその服も備品ですので、弁償代として給料から天引きさせてもらいます。多分来月分はもう無いので、再来月分から天引きさせてもらいますので」
私に絶望的な言葉が聞こえてしまった。
来月分はもう無い、私の来月分の給料はマイナスになってしまっているのか!?
「そ、そこを何とかしてください! 来月の金が無いと私は何を食べて生きればいいのというのだ?」
「さあ、その辺のトカゲでも取って食べればいいのではないでしょうか?」
オクタヴィアはそう言いながらクッキーを食べていた。
あのポンコツ女達に振り回されてから、私にはロクな事がない。
私は仕方なくとぼとぼと、先程の倉庫に戻った。
「あー、テンタタンクスー、戻って来たかー。悪かったと思ったのでワシらが掃除をしておいたのだ」
「てんたくるす様、掃除班の拙者が手伝いました故、もうチリ一つ残っておりません」
チリ一つ!? それは非常にマズイ!!
「あ、あのー……皆さん、ここにあった資料とか備品とかどうしましたか?」
「ご主人様、ゴミは我の業火で跡形もなく消し去りました、我を褒めてください!」
もうイヤだ……こんなポンコツ女に振り回される毎日。