64 ファーフニルのお詫び行脚
もうすぐ夜明けだ、こんな所で全裸の女三人(うち一人は子供の姿)と男一人、こんな状態を見られたら間違いなく私は破滅だ!
「お願いです、何でもいいから服を持って来てくださーい!」
オクタヴィアはそんな私の願いもむなしく、さっさと宿舎に戻ってしまった。
これはまずい、せめてどうにか自分の部屋にでも戻らなくては!
そう思い私は動こうとした、その時!
「うぐあああああぁあぁぁあ!」
アブソリュート様の呪いが襲ってきた。
今回の痛みはとにかく熱い、まるで鉄板の上で焼かれているような熱さだ。
熱耐性を持っていて熱さや火傷の痛みを感じないはずの私がその痛みを喰らう。
アブソリュート様の呪いは耐性をも上回る絶対の痛みだった。
「ごごごご主人様、いかがなされた!」
「あーあ、テンタクルスはいつもこうなるのだ。何か女にエッチな事をしたりされるとわけわからん痛みに苦しめられるそうなのだ」
「うううう、羨ましい! そんな痛そうな快感味わえるなんてー、我も痛みを感じたい」
もうマジでお前ら黙れ……だが今の私にはそんな事を言う気力すらない。
苦しんで転がっていた私の上にベッドのシーツらしきものがかけられた。
「目障りなんでそれで隠しておいてください!」
どうやらこれをかけてくれたのはオクタヴィアだったようだ。
呪いによる痛みがどうにか治まった私はシートを全身に包みどうにか体を隠した。
「うーむ、この服、我には胸がキツいのう」
「ワシには大きすぎてぶかぶかなのだ」
「拙者には大きさはちょうどいいが、このセンスがイマイチでござる」
「……せっかく持ってきたのに文句を言うならもう一度裸になって下さい!」
なんだかんだ言いながらオクタヴィアは自分の部屋に戻って三人分の服を持って来てくれたようだ。
しかし服を用意してもらった三人はそれぞれが好き勝手言っているもんだからオクタヴィアが怒るのも仕方ない。
もう辺りはすっかり明るくなってきていた。
ここは地獄のバーレイヘイムだが明るくなるのは時間で決まっている。
何故なら灼熱の魔神が一日の半分の時間は光の玉を持ち上げているからだ。
夜になると魔神は光の玉を落として休む。
これは魔界のどこかで行われているそうだが、その実態は誰も知らない。
元魔王軍最高幹部の私どころか魔王アブソリュート様すら知らないのだ。
すっかり明るくなった宿舎はざわざわとし始めてきた。
私達はその場にいるわけにもいかないのでさっさと部屋で着替えてから全員で庁舎に向かう事にした。
なお、ファーフニルの黄金は、ドラゴンの姿になった彼女が渋々庁舎まで運ぶ事になった。
◇
「とりあえず、今日はこの徴収した黄金をどう各課に分けるかを考えます!」
「オクタヴィアさん、私は良いんですが……ファーフニルさんがどうしてここにいるんですか?」
「とりあえず彼女には財務課に行ってもらいます。国庫の金鉱の物を私物化していたので反省文を書いてもらいます」
まあ、元々このバーレンヘイムの物だったはずの金を私物化していたとなるとそうもなるな。
「何故だ! 我は金がそんな物だとは知らなかったのだぞ!」
「まあまあ、ファーフニルさん。ここはオクタヴィアさんの言う事を聞いてください」
「むう……ご主人様がそうおっしゃるなら従います」
どうやらこの主従関係、どれ程暴れそうになっても私がいう事は絶対服従とでも思ってくれているようだ。
これならどうにかファーフニルを暴れさせずに大人しくする事もできるかな。
ファーフニルは財務課、会計課とたらい回しにされた上、頭をペコペコと下げさせられた。
最初は頑なだったので頭は仕方なく私が押さえつけて下げさせた。
そうやってお詫び行脚をしていたらいつの間にか昼になってしまっていた。