42 バンパイア イズ 豆腐メンタル
毎度毎度のアブソリュート様の呪いで酷い目にあった私はようやく立ち上がる事が出来た。
「アーッハッハッハッハッハ、とても面白いモノが見れたわョ」
コイツ、人の不幸で笑うタイプだ。
エリザベータは空中に浮いたまま寝転がって私を見ていた。
この女、かなり性格が悪そうだ。
「ねェ、お酒無いの? お さ け」
「ありませんよそんな物」
「あら、貴方堅物なのねェ、仕方ないからとっておきの物出そうかしら」
そう言うとエリザベータは部屋の天井に蝙蝠の羽で飛び上がり、天板を外した。
「確か、ここに置いてたのョ、あったあった」
「何故貴女がこの部屋の勝手を知ってるんですか?」
「あら、そりゃァこの部屋が元々妾の部屋だからョ」
そういえばそうだ、この部屋は宿舎でもグレードの高い執政官用の部屋だった。
天井裏から酒を取り出したエリザベータはラッパ飲みで酒を飲みだした。
「アハハハッハ、ねェ、貴方も飲みなさいョ」
「い、いえ。私は遠慮します」
「あら、貴方下戸なの?」
冗談じゃない、私にとって酒なんて水みたいなものだ。
飲もうと思えばいくらでも飲める、しかしそれで下手に巻き込まれたくないのだ。
「テンタンタンスー。ワシも飲みたいのだ」
「ダメです、お子様はジュースか水でも飲んでなさい」
「えー、ケチー、ワシも飲みたいのだー! 飲みたいのだー!!」
どうやらパラケルススはホムンクルスになる前はかなりの酒好きだったようだ。
「アラアラ、お嬢ちゃん。それじゃァお姉さんが飲ませてあげましょうかァ」
「ダメだっての!!」
しかしエリザベータはパラケルススに酒をそのまま飲ませてしまった。
「うへぇ。ワシ何だかクラクラするのだー、元の身体だとこんな事はありありえないのらー」
言わんこっちゃない、パラケルススの今の身体は子供と同じだ。
この身体でアルコールを入れたらこうなるのも当然である。
「アラー、パラケルススちゃんぶっ倒れちゃったァ」
「貴女が飲ませるからでしょ!」
「そんなこと言ったってー、こうなると思ってなかったんだから仕方ないでしョ」
パラケルススは顔を真っ赤にしてその場で寝てしまった。
「いい加減にしてください! 貴女は一体何を考えているんですか!!」
流石に頭にきた私はエリザベータを大声で強く注意した。
「え、えええー。そこまで強く言わなくてもいいじゃないのォ」
先程まで享楽的で強気だったエリザベータがいきなり涙目で泣き顔になっていた。
「あーあ、どーせ妾はダメな奴ですよ。引き籠った挙句に出られなくなってミイラになってしまったんですし、あー死にたい」
ひょっとして私は彼女の変なスイッチを入れてしまったのかもしれない。
そう思ったのだが、彼女は部屋の隅っこでブツブツ言いだした。
「どうせどうせどうせどうせ妾なんて眷属も一人もいないボッチで一族の落ちこぼれ、男にも見向きもされないダメダメなんだわ。あー死にたい死にたい」
そのどんよりした後ろ姿は絶世の美女にあるまじきトホホぶりだった。
まさに素材の無駄遣い。
「そんな事ありませんよ、貴女はとても魅力的な女性です」
「本当にィ?」
ダウナーな上目遣いでエリザベータが私を見上げていた。
「ほ、本当ですよ。貴女はとても魅力的です」
「嘘じゃないよねェ、貴方は妾が好きかァ?」
「はい、好きですよっ」
「本当に本当? それじゃァ。抱いて」
「へっ!?」
それだけは勘弁してくれ! これ以上アブソリュート様の呪いは喰らいたくない。
「それはっ! それだけは勘弁してください!!」
「嘘なんだ、やはり嘘なんだっァァァあああ! 妾なんて魅力が無いから抱いてもらう事も出来ないんだ、やはり死ぬー、死なせてー」
何だこの豆腐メンタルは、ひょっとしてあの偉そうな態度はこの豆腐メンタルを隠すための虚勢だったのか。
「死ななくていいですから、貴女は可愛いです、美しいです」
「それじゃあ抱いてョ」
「だからそれは無理ですっ」
「やっぱ死ぬー!!」
……私は精神不安定な彼女をなだめるのに結局朝方までかかってしまった。