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4 ここが地獄の一丁目

ウー・マイの話はここまでになります。次回からはまたテンタクルスの側の話に戻ります。

「伝説の厨具の力だと? 面白い! ワシに見せてみろ」


 こう言えば今日の昼食は最高級の物を食わせてくれるのだろう。

 特級厨師が伝説の厨具で作った料理が味わえるなら、それを堪能してから捕えても良いだろう、とトウアクは考えていた。


「ほいっ!!」


 ゴシカァアアン!


「!? な、何をするダァー!!!?」

「流石伝説の厨具、『灼熱火鍋』アル、良い音するアルね」


 このアホ娘(ウー・マイ)、よりによって伝説の厨具を鈍器にして、囲んでいた兵隊をぶん殴ったのである!!


「な……おかしくないか!? 伝説の厨具の力を見せると言えば素晴らしい料理を披露する事でワシの腹を満足させることではないのか??」

「誰がそんな事言ったアルね」

「ふぇ?」


 ウー・マイの目がすわり、口が怪しく半開きになっていた。


「父さんとその仲間、鉄華全土旅してて、何度となく闇料理界の刺客に襲われたアルね。その時伝説の厨具で敵をぶっ倒してたと聞いたアルね」

「な、なんじゃそりゃー!」


 ウー・マイは強かった。

 トウアクの連れてきた兵士を、全員伝説の厨具でコテンパンに叩きのめしたのだ!


「え……えーい、誰か! 誰かおらぬか!!」


 トウアクが大声で叫ぶと雨後の筍かゾンビゲームのゾンビのように、大量の兵士たちがぞろぞろぞろぞろと姿を現した。


「アイヤー、これだけ多ければ厨具の力だけでは無理アルね! ワタシの秘奥義見せるアルよ」


 ウー・マイが懐に手を入れた、何かを取り出そうとしているようだ。

 彼女が懐から取り出したのは……彼女の胸にも勝るとも劣らぬ大きさの饅頭の種だった。


「ワタシの奥義! 点心百裂拳!!アタタタタタタァ!」


 ウー・マイが指をひねると一瞬で小さな饅頭が作られた、彼女はそれをマシンガンのように大量に襲い来る兵士の口を目掛けて次々と打ち込んだ。


「ウッ!」

「ほッ!」

「ㇵウッ!!」


 小さな饅頭は百発百中で外す事もなく全て兵士の口に入った。


「う……うまい!」

「ハオチー!!」

「美味! 美味!」


 兵士達は口いっぱいに広がる饅頭の味に陶酔していた。

 これがウー・マイの奥義点心百裂拳である!


「どーだ、参ったか! これがワタシの必殺技アルね!」


 兵士達は皆ウー・マイの事を追いかけるのを忘れていた。

 その間に彼女は伝説の七厨具を全て持ち、父の館を抜けだしたのである。


 『伝説の七厨具』、それは『灼熱火鍋』『流星包丁』『永久霊蔵庫』『恒河沙の壺』『殿師錬爾』『愛叡智の鉄板』『神酒叉』である。

 ウー・マイはこれらを全て風呂敷に担ぎ館を脱出した。

 しかし総重量にすると50キロ以上である、彼女はとんでもない馬鹿力だったのだ!


「逃すなぁ! 追っ手を出せ!」


 そしてウー・マイは父が旅をしていた時に立ち寄ったという『地獄の窯』と呼ばれた場所まで逃げていた。

 ここは地獄への入り口があると言われており、誰もが恐れて立ち寄らない場所なのだ。

 しかし彼女の父、ウー・マオはここで闇料理界の刺客と灼熱料理対決を、地獄の悪魔の審判の元行ったという伝説があるのだ!


「ジョフ! ジョフはおるか!?」

「あー、義父殿。俺をお呼びですかい!」


 2メートル越えの偉丈夫が真っ赤な馬に乗って現れた。

 彼の名はジョフ、トウアクの養子である。


「ジョフ! 何が何でもあの娘を捕らえろ! できるな!」

「容易い事だ! 義父殿、しばし待たれよ!!」


 ジョフはセキトバを駆け、ウー・マイをすぐに見つけ出した。


「ひっ! 万事休すアルね……父さん、ワタシもうすぐそっち行くアルね」

「可憐だ……! お前、俺の嫁になれ!」

「ふぇっ??」

「義父殿! 俺はこの女を俺の嫁にしたい! いいな!」

「馬鹿馬鹿馬鹿! 誰がコイツを嫁にしろといった! そいつの持つ伝説の七厨具を奪えと言っておるのだ!」

「馬鹿……だとぉ! 貴様! オレを愚弄したな!! 死ねぇ!!」


 このジョフ、武力は最強だがおつむの方がかなりからっきしで、馬鹿と言われると激昂するのだ!


「グェー!」


 ジョフが大暴れした事で、トウアクの部下もろともウー・マイも火山の河口に落下した!


「キャアアアア!」


 それは彼女がこの世界で発した最後の言葉になったのだ。

 そして、伝説の七厨具はウー・マイと共に崑の国から永遠に姿を消した。


 なお……私利私欲でウー・マイを追い詰め、崑の至宝とも言われた七厨具を失ったトウアクは、後の時代に故事成語になる程陰惨な処刑をされたというが、それはまた別の話である。

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