39 乾燥ミイラの吸血鬼
「はあ、探さないでくださいって言っててこれですか……」
「オクタヴィアさん? これって一体」
「彼女が元の執政官だったバンパイアロードのエリザベータ・カーミラさんです」
バンパイアロード? どう見てもただの服を着た干物にしか見えないのだが。
確かにこの服は女性ものなのでこの干物は女性のミイラだという事は分かる。
バンパイアロードなら不死の存在、こんな状態でも死んではいないのかも。
試しに水をかけてみると元に戻るのだろうか?
「うううーーー、テンタンタクス、ワシ怖いのだー」
「大丈夫ですよ、動き出して取って食ったりしませんし」
まあこのままでは動き出すわけも無きゃ取って食われるわけでもない。
それでもパラケルススはミイラを見て泣きそうなくらい涙目である。
「オクタヴィアさん、水持ってきてくれますか?」
「はあ? なんでアタシが? そんなの自分で持ってきてください」
彼女の私に対する態度は塩対応にも程がある。
仕方なく私はコップに水を汲んでもってきてみた。
「では、水をかけてみますよ」
私は干からびたミイラの手と顔に水をかけてみた。
しわしわでカピカピに干からびたミイラは少し水をかけた程度では元に戻らないようだ。
「戻りませんね、どうしましょう。これ」
「知りませんよ、アタシの管轄外です」
オクタヴィアは無責任に突っぱねた。
仮にもこれ元々のアンタの上司だったんでしょうが!
「テンテンタンスー、多分だけどコレ……水分が足りないと思うのだ」
「パラちゃん、もうこれ怖くないのですか?」
「うう、やっぱり怖いのだ、でもまだ明るいとこにあるから我慢できるのだ」
確かにこんなモンを真っ暗な密室の中で見たら私だってビックリする。
だが明るい場所に持ってきたらただの大きな干物でしかないからそこまで怖い物ではないだろう。
「水分が足りないとなると?」
「多分どこか水がたっぷりある場所に沈めておけば元に戻るはずなのだ」
「オクタヴィアさん、この辺どこかに湖とか池とかないですか?」
「あるのはありますが数十キロ以上離れてますよ」
「うーむ、今からそこに行くのは大変だな」
この庁舎には噴水的なものとかは無いようだ、あるのはあるが噴水から出ているのはむしろ溶岩。
流石にそんな溶岩の中にこの干物を入れたら不死身のバンパイアロードでも溶ける。
「そういえば職員の宿舎に大型浴場ってありましたよね?」
「貴方まさかそんな皆使う場所にこれを沈めるつもりですか? 馬鹿なの? 死ぬの?」
そこまで言う事も無かろうに、誰も使っていない時間なら問題ないだろう。
「まあ私がどうにか今日持って帰って宿舎の浴場に沈めてみますよ」
「それで元に戻るとは到底思えませんけどね」
「まあやるだけやってみて無理だったらオブジェとしてこの庁舎に飾っておきましょう」
「こんな悪趣味な物飾るなんて貴方馬鹿ですか? この変態最低お下劣覗き見ロリコン悪趣味触手魔族」
オクタヴィアの私への蔑称がさらに増えていた。
このまま増え続けたらどこまで長くなるのだろうか……。
私達はこのミイラをどう扱うか考えながら時間が過ぎていた。
パラケルススがミイラを見ていたその時!
「ギャアアアー!! ミイラがワシを見たのだー!!」
「えっ!?」
私はミイラを見てみた、しかし死―んとしているままで動いた様子はない。
「本当なのだ、ミイラがワシをぎょろっと見たのだー!!」
「はいはい、パラちゃん。怖いからそう思ったんだね」
「子ども扱いするななのだー! 本当にミイラが動いたのだー!!」
まさか動くわけがないだろう、パラケルススの見間違いだ、私はそう思っていた。
「とにかくこれは宿舎に持って帰りますよ」
「テンタクタタタ、こんなもの部屋に置いてほしくないのだー!!」
「大丈夫ですよ、これは浴場で水戻ししてみますから」
その日、仕事の終わった私はパラケルススを自分の部屋に連れて帰るついでにこの乾燥ミイラを持って帰ったのだ。




