36 馬鹿力ホムンクルス大暴れ
研究室が木っ端みじんになってしまったパラケルススは瓦礫の中から焼け残りのコレクションを集めていた。
「これもダメなのだ、これもこれもダメなのだ。これはクリーニングすれば使えるのだ」
「あのー、後どれくらい時間かかるんですか?」
「わからないのだ、仕方ないからオマエも手伝うのだ」
「ハイハイ、わかりましたよ」
「そんなに離れてないでワシのそばに来ればいいのだ」
パラケルススは事あるごとに私をそばに寄せたいようだ。
あの惚れ薬でまさかこんな事になるとは。
パラケルススが私を見る時、目の中にハートが浮かんでいるようなのだ。
イカンイカン、一緒にいると口癖が移ってしまうのだ!
「パラケルススさーん、これはどうすれば?」
私が拾ったものは女の子同士がキスをしている絵だった。
「あー、これはワシの大事な『がちゆり』のポスターなのだ、でも端っこが焦げ焦げなのだ」
「あのー、『がちゆり』ってなんですか?」
「がちゆりは尊いのだ! いくらワシがテンタクルス大好きでもがちゆりを批判されたら怒るのだ!」
どうやらこのポンコツホムンクルス、惚れ薬で私にベタ惚れでも根本の変な趣味趣向は変わらないようだ。
下手に否定されたと怒ったらあの馬鹿力でぶっ飛ばされかねない。
これを言うなら馬鹿と力は使いようといったところか
とにかくさっさとここを片付けて庁舎に戻らないとオクタヴィアにまたネチネチ言われる。
「私の触手よ、辺り一面に広がり、この場所を片付けよ」
「わわわわわ、テンテテテーン! これは何なのだ!?」
「私の触手ですよ。これを使えば数人分の働きを一瞬で終わらせられます」
「な、なんだ。ここには誰もいないから可愛いワシを触手攻めしてあーんな事やこーんな事をイヤーンな感じにしてしまうのかと思ったのだ」
「だからやりませんってば」
全く、どいつもこいつも、触手=エッチな事をされるって、誰がそういうイメージを作ったのだ?
「捨てていいもの残すものの区別はしておいてくださいよ、私の部屋にも置ける限界がありますからね」
「ちぇっ、わかったのだ。仕方ないから視聴用だけ残す事にするのだ」
そうだったとしてもこの量はかなりのものである、焼け残ったというより他の二つ重ねていた分バリケードになって視聴用だけが残ったのだろう。
「とりあえず持って行けるのはせめてこれくらいですよ」
「えー、もっと持って行きたいのだー」
「無理です、ここは地下室とかなかったんですか?」
「あ……数十年前に蓋を閉めたまま地下室の存在を忘れていたのだ」
……このポンコツホムンクルス、ジジイの時の記憶すらすっぽり抜けているのか
「そうそう、この蓋。ハルマゲドンが来ても蓋を壊されない様にめっちゃ頑丈に作ったのだ、おかげで老人の力では開けなくなっていたのだ」
どうやら地下室はほぼ無事のようだ。中には巨大なゴーレムの群れが眠っていた。
過去に天使軍団と戦った時のゴーレムをここに格納していたと見える。
「パラケルススさん、とりあえずコレクションはここに一旦しまいましょう」
「わかったのだ、持って行けない物はここにしまうのだ」
私達がほぼコレクションをしまい終わったその時、運の悪いことに黒い虫が足元をカサカサと走っていた。
それを見てしまったパラケルススの様子がおかしくなった。
「ギャアアア―――――ゴキなのだーーー!!」
パラケルススは足元の小さな虫を見るといきなり大パニックになった。
「近寄るななのだァ――!!」
パラケルススはドアの鉄板をもいでしまいそれで足元の虫を叩きだした。
しかし虫は攻撃をひらりとよけ、パラケルススの方に飛んで行った。
「ウギャアアア――!!! ゴキゴキゴキー! くんなぁあああ」
半狂乱になったパラケルススはゴーレムの足を持つとジャイアントスイングでぶん投げた。
運の悪い事にぶん投げられたゴーレムは別のゴーレムを倒してしまい、陳列されていたゴーレムはドミノ倒しで次々に倒れ、それは柱も捻じ曲げる程の重量になってしまった。
「ウワアアアアーーーーン! ウワーアアアアンン」
パラケルススは号泣している、その超音波でゴーレムのボディーは粉々に砕けてしまった。
かつて、神の軍団を倒した最強ゴーレム軍団はパラケルススの大暴れで木っ端みじんになってしまった。