35 美少女と大爆発と居候
私はまたまたまたまたアブソリュート様の呪いを受ける事になってしまった。
このバリエーションは豊富にも程がある。
今回の呪いは全身の毛をむしりそしてまた生えてむしられるのを何十回と繰り返したような痛みだった。
しばらくは肌に物が当たっただけで激痛が走るそんな状態だった。
特に頭の辺りが痛い、風が吹いただけでヒリヒリした。
「おーい、ドンタコス―。大丈夫かー?」
ドンタコスって誰の事だ? 私の名前はテンタクルスだ。
「私は……ドンタコスではなくテンタクルス……です」
「ああそれはすまなかったのだ、テンタコス」
このポンコツホムンクルスの元ジジイ、人の名前を覚えようという気が無いのか。
「誰がテンタコスですか、私はテンタクルスです」
ようやくアブソリュート様の呪いが落ち着いた私はパラケルススに自分の名前を正しく伝えなおした。
「すまないのだ、今度こそ名前を覚えるのだ。テンタックス」
もう私は修正するのも馬鹿馬鹿しくなったのでそのまま呼ばせる事にした。
とにかくこのパラケルススには滞納している税金も受け取っていなければ申請書類の不備も直してもらわないといけない、やる事が山ほどあるのだ。
「パラケルススさん、そろそろ本題に入りたいのですが」
「えー、面倒くさいのだ。テンタククッスー、ワシと遊ぼうなのだー」
駄々っ子のように私の手を掴んでいるが、このホムンクルス、見た目の華奢さと違い、とんでもない馬鹿力だ。
下手すればあのリオーネと同等くらいの力を持っててもおかしくない。
「その前に飲み物を持ってきてやるのだ、感謝するのだ」
そう言うとパラケルススは目の前の棚のガラスを掴もうとした。
しかしすこしガラスのコップをつまんだ瞬間、ガラスコップは粉々に砕け散った。
「何故なのだ!? ワシが触っただけでコップが粉々なのだ」
「あのー、ひょっとして力の制御出来てないのではないでしょうか?」
「あー、しまったなのだ!! ワシとしたことがパワーの制御方法忘れてたのだ!!」
コイツはやっぱり馬鹿だった。
確かに力は制御できていない。
さっき起き上がったばかりの時はまだ力が発揮できていなかったので色々なものが無事だったのだろう。
「だが、凄いパワー手に入れたのでこれならコレクションの整理が簡単にできるのだ」
そう言うとパラケルススは鍵をなくしてしまい開かずの扉だった部屋の鍵を容易くねじ切り、部屋の奥のデカい箱に入ったものを次々とひょいひょい運び出した。
「これで数十年ぶりにコレクションの整理が出来るのだ、とくにこのビディーオテプとかいうの数が多いからクソ重くてかさばってたのだ」
パラケルススは黒い不思議な箱にそれより小さな箱を押し込んでいた。
「これでようやく昔のコレクションが見れるのだー」
「なんだか焦げ臭くないですか?」
「何がなのだ? これは超小型の雷魔法を使った映像装置なのだ」
パラケルススの用意した黒い不思議な箱の尻尾のようなものがバチバチと音を立ててきな臭い臭いを放っていた。
そして何個もの小さなブタの鼻に差し込まれた尻尾は発火してしまった!
「パラケルススさん、火事です! 燃えてますよ!!」
「何だってー!! 大変なのだ、このままではコレクションが全部燃えてしまうのだ」
だが、運が悪い事に燃え広がった火はパラケルススの実験室の液体に燃え移り、凄い音と炎を巻き起こして大火災が発生した。
「火事だー! 火事火事火事カジー!!!」
「どうするんですか!! もう消せませんよ」
「あーーーオシマイなのだ、ワシのコレクションが全部燃えてしまうのだー!!!」
そして、燃え広がった火は研究室のメインシステムに燃え移り、大爆発を起こしてしまった!!
ドガガガーーーン!!
パラケルススの研究室は大爆発を起こし、木っ端みじんに吹っ飛んだ。
しかし、私とパラケルススは結界を張ったため爆発の中でも無事だったのだ。
どうやらお互い火炎耐性を持っていたのが幸いしたらしい。
「ワーーーーーーン! ワシのコレクションがー、ワシの研究室がー」
パラケルススは超音波のような大声で号泣してしまった、困った……これはそのままにはしておけない。
「あの……もしよければ私の部屋に来ますか?」
「本当か!? テンテンタスー! ワシはオマエに一生ついて行くのだー!」
……こんな結果で、私は部屋に居候を一人抱える事になってしまった。