20 才能の無駄遣いとぼったくりサラダ
あの褐色の肌に弾けるような金髪、間違いなく彼女は魔獣将軍リオーネであった。
「お客さんよォ。そんなとこで見てるなよ」
リオーネはビーストカイザーを構えると目にも見えない早業で軍竜焼きの塊を削ぎ落した。
その際に凄い衝撃波が巻き起こったが、周りの誰も気にしていなかった。
衝撃波で数枚皿が割れてしまったようだが、リオーネは気が付いていない。
リオーネは凄い早業で軍竜焼きをいくつもそぎ落としていた。
獣王剣ビーストカイザーは刃渡り2メートル近くはある大剣だ。
しかしリオーネはそれを使い小枝を振るくらいの感覚で凄い早業で細かく肉を切り刻んでいる。
「肉ぅ! 俺に大人しく斬り刻まれろぉ!!」
カッコつけたセリフのようでも所詮は肉の塊である。
その光景はシュールとしか言いようがない。
そして、ムダに能力が高いのが才能の無駄遣いとしか言えない。
彼女は本来なら一騎当千で天使軍団を一人で壊滅させる事の出来る魔王軍の切り込み隊長なのだ。
「才能の無駄遣い……とは言ったもんだな」
「ぁあ!? そこのヒョロいの、オレになんか言ったか!?」
リオーネの耳は地獄耳だったようである。
これだけ慌ただしい中で自身の悪口は聞き取れたらしい、獣人族独特の大きな耳がピクピクしていた。
「ん……ってか、アンタ、テンタクルスじゃん!! 久しぶりだな!」
どうやらリオーネの目は節穴ではなかったらしい。
レベル低下したとはいえ、私の事を覚えていたようなのだ。
「知り合いのよしみだ、アンタにはサービスしてやるよ!」
「い……いいえ、そんなわけには!」
「遠慮すんなって、オレとアンタの中だろ!」
彼女は以前の私のハーレムの養成員ではなかった。
しかしアブソリュート様と対立する彼女との間を取り持っていたのが私なので彼女は私にそれなりの好印象なのだ。
だが今はサービスしてほしくないのが本音だ、あのクソ不味い軍竜焼きを皿一杯にてんこ盛りにされるなんて……最悪だ!
「こ……こんなに……」
「アンタには以前世話になったからな! オレの気持ちだよ」
「か……感謝する」
有難迷惑としか言えない……あのクソ不味い軍竜焼きをこんなに食べろというのか。
もう既にこれは拷問である。
「そうだ、今度オレの部屋に遊びに来いヨ! 歓迎してやるぜ」
「あ……あぁ、考えておく」
彼女は男を部屋に呼ぶ意味なぞ何も考えていないのだろう、あのガサツな性格だ。
まあ今の私は女性にエッチな事をすると凄まじい災いに襲われる呪いがあるので手を出そうとも思わないのだが。
まあ彼女は健康的で魅力的な女性ではあると言える。性格がアレでなければ。
しかし彼女の男女同士の友情が皿に重い……。これを食わなければいけないのか。
「そういえば、サラダはどうなりましたか?」
「ああ、サラダも頼んでたんだね、持って行きな!」
「へ?」
私の手渡されたサラダ二つは……野菜は萎びていてドレッシングと言えないようなギトギトの異様な臭いの油のかけられた小さな小皿に入ったものだった。
これが10000ゴールドだと!?
「あの……サラダってこれですか?」
「ああ、アンタには普段の量より倍サービスしてやってるぜ!」
ありえない。こんなサラダもどき……軍の食堂の付け合わせでも出したら暴動が起きそうなレベルのものだ。
「なぜ……サラダがこんなに高いんですか?」
「さてね、ここじゃ野菜作れないから、全部輸送してもらってるんだよ」
そりゃ輸送費の方が高くつくわ、バーレンヘイム恐るべしと言えよう。
そして、私は出された皿を渋々2皿全部食べる事になった。
当然ながらオクタヴィアは一口も皿に手を付けようとしなかったのだ。
そして案の定私はお腹を壊し、午後の公務は全部キャンセルとなり医務室で休む事になった。