18 観賞用 保存用 布教用
軍務の書類整理だけでどれだけ時間がかかるやら。
見れば見る程バーレンヘイムの杜撰さが見えてくる。
「あの……オクタヴィアさん?」
「なんでしょうか? 役立たずの変態触手魔族さん」
私の蔑称がさらにレベルアップしている。
「少しは私の事をぼろくそにいうのやめてくれませんか?」
「嫌です」
この女……一度根に持つとずっと忘れないタイプだ。
だが、仕事を手伝っているのは嫌々ながらも自分の責任を感じているのだろう。
「これは何ですか?」
私が見つけたのは軍事研究費の項目だった。
その金額や何と……累計30,000,000ゴールドの大赤字!!
「ああそれですか、パラケルススさんが毎度ながら年度をかかずに提出してる書類ですね」
「少しは様式くらい統一しろー!!」
これだと年間いくらかかっているのかまるで分らない。
どうやらパラケルススはホムンクルスの研究を100年以上続けているそうだ。
しかし、何の成果も出ていない。
どうやら昔魔道実験していた頃は優れた天才錬金術者だったのだが、今やボケてて役に立たない発明品で甚大な被害を出しているので研究費というよりもほぼ損害賠償費の方が正しいと言えよう。
しかもボケているからなのか字がとても汚い。
なんと一行読むのに一分以上かかるのが提出レポートで200万文字程ある!
更にその文章が常人に理解できない難解な単語と言い回しと回りくどさでこりゃあ確かに忍耐力と学が無ければ発狂するかもしれん。
「あの……オクタヴィアさん、ひょっとして前任者が発狂したのってこれを見ていてじゃないのでしょうか?」
「その通りです、1,500,000文字を超えたあたりでいきなりグレートアックスを振りまわし始めました」
前任者に同情する。
これは私が見ても難解すぎて、いくらハイレベルのミノタウロスでもこんなもん見せられ続けたら頭おかしくなっても仕方ない。
「で、パラケルススさん、今は何をやってるんですか?」
「究極の美少女メイドホムンクルスとやらを作っているようです」
「は???」
「どうやら人間界で手に入れたというマンガ、アニメとかいう物にはまったらしく、その資料と称しては人間界からデイブイデイだとかヴィデオンとかカクシュグッズーとかいう物等、時空間を超えて手に入れてるそうです」
「それって日々何をしているのかな?」
「そのデイブイデイとかいうのを一日中見ているようです、最近はシュマフォとか、ソシャーゲとかいう物のガッチャとかいう事まで手を出したらしく、研究費の要請が倍以上に増えました」
私は訳が分からなくなってきた。
何だ、そのソシャーゲとかシュマフォとかデイブイデイなるものは??
「ここにそのデイブイデイのダブったものがあります。パラケルススから研究資料として実際渡された物です」
「?? ところで、この書類に書かれているが、何故同じものが三つも購入されているのだ???」
「パラケルススが言うに、観賞用、保存用、布教用だそうです」
「何じゃそりゃーーー!?」
私の知る限りでも錬金術師パラケルススは優れた能力者として有名ではある。
現に昔の大戦で彼の作ったゴーレム軍団は神の天使軍団を一瞬で壊滅させた程のものだ。
しかし研究が巻き起こす大暴発やゴーレム等の大暴走事件による甚大な被害の為、研究をするだけならもっと被害の少ない場所でやれ! とバーレンヘイム送りになったのだ。
「最近では会った時に美少女になりたいとか言っていました」
「完全にダメジジイ化しているな」
「そうですね、どうにかしないといけませんね」
このオクタヴィア、当事者意識が全くの0である、全部他人事でしかない。
軍務費の確認だけで私ですら心が折れそうになってきた。
「あの……オクタヴィアさん、そろそろ休憩してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、食事なら食堂がありますよ」
とにかく何か食べて少しでも気分をリフレッシュしなくては。